愛媛の事業所の中から、特定分野で世界一あるいは日本一のシェアを誇る製品を持つ企業を“くろーずあっぷ”し紹介する、「愛媛が誇る世界一、日本一企業」シリーズ。
第6回目を迎える今回は、今治市に本社を置く、焼肉などの「たれ」の出荷量日本一の日本食研株式会社を訪ねた。
「たれ」出荷量、国内シェア 40%
当社の焼肉などの「たれ」の出荷量は、全国の約40%を占めており、日本一のシェアを誇っている。
当社の生産する「たれ」には、スーパーなどの精肉売場でおなじみのたれ付き肉に使われる「焼肉用たれ」に加え、焼鳥、うなぎ、あんかけ用といった「惣菜用たれ」などの「業務用」と、「焼肉焼いても、家焼くな」のCMが大ヒットした「『晩餐館シリーズ』焼肉のたれ焙煎にんにく」などに代表される「家庭用」がある。
当社は「♪味の作曲家」と呼ばれるように、焼肉などの「たれ」に代表される液体調味料以外にも、からあげ粉などの粉体調味料、刺身用のわさびなどの小袋商品、ハム・レトルト食品、貿易商品、冷凍食品、健康食品など多種多様な商品アイテムを持っている。
「たれ」に含まれる「焼肉のたれ」「ハンバーグソース」「チリソース」は、それぞれ単体でも日本一のトップブランドである。また、「たれ」以外でも、「からあげ粉」の生産量は日本一である。
当社の生い立ちと発展の原点
当社の前身である「畜産加工研究所」が高松市に誕生したのは1971年。当社発展の原点は、30年余り前の創業時にある。
研究開発型ベンチャー企業
「畜産加工研究所」は、現社長である大沢氏をリーダーにわずか6名で、高松のアパートの一室で産声をあげた。「近い将来、日本人の食生活も欧米のように肉中心の時代が来る」との確信を抱いていた大沢社長は、すでに大学時代から肉関連、特にハム・ソーセージの研究に没頭していた。夏休みのアルバイトにもハム工場を選んだ。卒業後は、ハムメーカーに就職し、ハムに関する理論や技術に一段と磨きをかけた。
そして、より美味しいハムやソーセージを自ら造りたいと、31歳の時に独立を果たしたが、創業当初は資金力に乏しく、高額な設備が必要なハムやソーセージの製造にはすぐには取り組むことができなかった。そこで、長年に渡る研究成果を活かせるものを模索する中で辿り着いたのが、美味しいハム・ソーセージの味の決め手となるハム・ソーセージ用の調味料であった。
ハム・ソーセージ用調味料の開発
ハム・ソーセージを製造する上で、「塩漬」は最も重要な工程である。肉を塩漬けすることにより、防腐性、保水性などが向上するのに加え、熟成風味をつけることができる。この「塩漬」の際に使われる「塩漬剤」は、塩や発色剤、結着剤、調味料など何十種類もの調味料を配合しなければならないが、国内メーカーの多くはその配合がうまくいかず悩んでいた。当社はそこに目をつけ、調味料を絶妙のバランスで配合した総合塩漬剤「ミートミックス」を開発した。これにより、ハムメーカーは作業の効率化が図れたばかりか、従来より美味しいハム・ソーセージの製造が可能となり、ハムメーカーからの信頼を勝ち取ることに成功したのだ。
業界の新しいニーズを見出し、他社に先んじて商品化したことで、創生期にあった当社発展の基礎ができた。今もって、ハム・ソーセージ用の総合塩漬剤「ミートミックス」は当社の主力商品の一つである。81年には「ハム工場」を建設、さらに美味しいハム・ソーセージを追求し続けている。
「焼肉のたれ」、「焼鳥のたれ」の誕生
現在の主力商品である、焼肉などの「たれ」は、総合塩漬剤「ミートミックス」が誕生した2年後の73年に開発された。時代は高度成長時代であり、ちょうど大手スーパーの全国展開が始まった頃と重なる。当時、大手スーパーでは、惣菜や味付け食材などの店舗ごとの味の統一性や調理等の効率性の観点から、業務用の「たれ」に対するニーズが急速に高まっていた。当社は、業務用の「焼肉のたれ」と「焼鳥のたれ」の商品化に成功し、さらに「惣菜用のたれ」などへも品揃えを拡充することにより、それに応えていった。
当社の「たれ」が業務用に幅広く使われるようになり、従来は専門店やレストランなどでしか味わえなかったステーキや焼肉、焼鳥などの「プロの味」が一般家庭でも手軽に味わえるようになったのである。
日本食研の強み ~販売と開発の両輪~
当社の本領は、塩や砂糖などの基礎調味料、香辛料、エキスなど様々な原料を絶妙なバランスで混合して、より付加価値が高い「たれ」などの調味料を造り出すところにある。その高い付加価値を生み出すことを可能にし、当社を日本一企業たらしめている両輪は、「販売」と「開発」である。
「直販」と「コンサル営業」
当社の販売戦略には二つの大きな特徴がある。一つは、量販店などのユーザーに対する「直販」体制をとっていることだ。当社は、同業他社を遥かに凌ぐ規模の営業部隊を擁しており、その規模は1,500名にものぼる。その営業部隊が、北海道から沖縄まで国内75ヵ所、海外7ヵ所の営業拠点から、量販店の精肉売場や惣菜売場などの現場に直接セールス活動を行い、同時に現場ならではの生きた情報を収集しているのである。
二つ目の特徴は、商品だけ売り込むのではなく、商品の陳列方法、パッケージデザイン、売場レイアウトはもちろん、キャッチコピーまで、取引先の売上増加に貢献する提案を積極的に行っていることだ。さらに、ファミリーレストランのメニューやスーパーなどのオリジナル惣菜などの開発も手がけており、当社の「コンサル営業」は取引先から絶大な信頼を得ている。
この「直販」と「コンサル営業」の原点は創業時まで遡る。知名度がほとんどなかった創業当時、社長自ら研究用の白衣を着て、ハムメーカーの工場に赴いた。そこで自社の総合塩漬剤「ミートミックス」を使用してハムやソーセージを自ら製造し、従来の商品との味の違いを直接現場でアピールしたという。その際に、より美味しいハム・ソーセージを造るための製造方法なども合わせて提案することで、販売先を増加させていったのである。
8,000種類もの商品を生み出す開発力
「人の数だけ味がある」との言葉通り、当社には8,000種類ものアイテムがある。「なぜこんなに商品数があるの?」とよく尋ねられるそうだ。多様な顧客ニーズにきめ細かく応える商品開発を続けてきた結果にほかならない。
当社では、営業部隊が全国の津々浦々から収集した生の情報が翌日には本社の開発スタッフに届けられ、それをスピーディに商品開発につなげるシステムを確立させている。「営業」とともに当社を支える「開発」スタッフは総勢200名と同業他社を上回る陣容を誇り、毎年250種類以上の新商品を生み出している。
顧客ニーズを満たした商品をすばやく開発し市場投入する。これがシェア日本一の座を堅持している鍵に違いない。
晩餐館CM秘話
いつも我々消費者に強いインパクトを与えてくれる当社のCM。中でも、3匹の牛が登場する「『晩餐館シリーズ』焼肉のたれ焙煎にんにく」のインパクトは強烈だ。この牛たちの名は「バンコ」。「押しの強い、本音ベースの浪花のおばちゃん」がイメージされているという。現在、「バンコ」は当社を代表する売れっ子キャラクターとして、ぬいぐるみやストラップなどの販促用グッズになっている。ちなみに、バンコグッズは新愛媛本社1階の“バンコショップ”にて好評販売中とのこと。
活力を生み出す自由闊達な社風
当社躍進の両輪である「営業」と「開発」を支えているのは、平均年齢29歳の若い力である。若く逞しい営業マンたちは、当社の自由闊達な職場風土の中で、存分にその力を発揮している。
大沢社長は、「いかに職場に遊び感覚を取り入れるか」、そして、「いかにして若い人たちにやる気になってもらうか」を常に考えているという。当社の職場活性化の仕掛けの代表例といえば「大相撲コンテスト」が挙げられる。これは、毎年7月から9月までの3ヵ月間に渡って開催され、その期間中の新規開拓の売上高を競い合うものだ。成績上位の営業マンは、横綱、大関、関脇・・・という番付で名前が発表され、社内が大いに盛り上がるという。
この他にも、本社内に縁結びの神社(社内結婚恋愛神社と呼ばれている)を設けて社内結婚を推奨したり、一芸に秀でた社員を「ユニーク社員」に任命し、その活動を全面的に支援するなどの取り組みがある。
多士済々、「ユニーク社員」
「ユニーク社員」に任命された社員は総勢11名。「歌手」「歌人」「画家」「漫画家」「トライアスロン部」「ミス仙台」「ゴルファー」「登山家」など、様々なジャンルで大活躍している。中でも、H7年NHKのど自慢グランドチャンピオンにもなった伊藤嘉晃氏は、「実業団歌手」として年間100ステージをこなし、CDデビューまで果たしているほどだ。大沢社長自らマネージャーに名乗りを上げ、歌手活動を全面的に支援しているという。
自分の得意分野で力を発揮している「ユニーク社員」たちは、会社PRや販売促進などへの貢献も大きく、本人、会社双方に大きなメリットをもたらしている。
当たり前のことを当たり前に実行
業界トップになった当社の強みである、他社を凌ぐ「商品開発力」と独自の「営業力」。その根底には、「当たり前のことを当たり前に実行する」というポリシーが流れている。無論、この「当たり前のことを実行し続けること」は、決して容易なことではない。「『まあいいじゃないか』と考えたことは一度もない」と大沢社長が語るように、妥協なきチャレンジスピリットが全社員に浸透していることが、当社が日本一企業となっている最大の秘密ではないだろうか。
世界食文化博物館がオープン
創立30周年を記念して2002年1月、今治の新愛媛本社10階に「世界食文化博物館」がオープンした。この「世界食文化博物館」は、世界各地の食文化を楽しく学習できる国内初の“食”全般に関する博物館であり、愛媛の産業観光の目玉の一つとして大きな注目を浴びている。日本の味を世界に発信する、「食のグローバル企業」を目指している当社の決意をしめす、シンボル的な施設である
「♪味の作曲家」として、日本のみならず世界の食文化の発展を目指す、日本食研。今後も、食と文化の美しいハーモニーを奏で続けてくれるに違いない。
(二宮 秀介)
【会社概要】
代表者 | 代表取締役社長 大沢 一彦 |
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(主な公職) | 愛媛県食品産業協議会会長 愛媛県異業種交流研究会会長 今治商工会議所常議員 東京農業大学客員教授 |
本社所在地 | (愛媛本社) 今治市富田新港1丁目3番地 |
(千葉本社) 千葉県印旛郡栄町矢口神明3丁目1番地 | |
従業員数 | グループ合計 2,900名 |
売上高 | グループ合計 681億円 (2003年9月期見込み) |
資本金 | グループ合計 14億4,200万円 |
【会社沿革】
1971年 | 高松市に畜産加工研究所を創業 |
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1972年 | 今治市に移転 |
1973年 | (株)畜産加工研究所設立 業務用焼肉たれ発売 |
1975年 | 日本食研(株)に社名変更 |
1989年 | 「晩餐館シリーズ」発売 |
1998年 | 食品研究工場・ハム研究工場完成 |
2001年 | 愛媛本社完成 |
2002年 | 世界食文化博物館オープン |