2004年4月1日に東予地方で2市1町1村が合併し「四国中央市」が、南予地方で5町が合併し「西予市」が新たな産声を上げた。これらの合併を皮切りに「平成の大合併」の幕が上がった。県内における「市町村合併」を取り上げるくろーずあっぷ企画「合併市町村を訪ねて」の第2回目は、2005年1月16日の合併に向け、着実に準備を進めている新「今治市」を紹介したい。
1.タオルと内航海運日本一のまち
2001年のタオルの製造品出荷額等は585億円で、国内シェアの5割以上を占めている。また、波方・伯方・波止浜地区には内航海運の464業者が、497千総トン(2003年3月)の船腹量を所有し、全国で12.9%とトップシェアを占めている。新「今治市」は、まさに「タオル、内航海運日本一のまち」である。しかし、近年では中国からの輸入拡大の影響で、タオルの生産量はピーク時の約3分の1にまで減少し、また内航海運では、石油業界の再編に伴う物流合理化の影響で苦戦を強いられ、日本一とはいうものの厳しい状況が続いている。
一方では、愛媛を代表する地場産業である「造船業」の集積がみられ、好調な遠洋市況を背景に活況を呈している。中でも地場最大手グループが2003年度に日本一の建造量を記録するなど、日本でも指折りの竣工実績を挙げている。
この好調な造船業などの影響を受け、平成16年1月、2月の有効求人倍率は1倍を超え、愛媛県内の他の地区を大幅に上回り、今治の景気は回復基調に転じている。
2.合併自治体数は県内断トツ
今回、今治市をはじめ越智郡の朝倉村、玉川町、波方町、大西町、菊間町、吉海町、宮窪町、伯方町、上浦町、大三島町、関前村の12の自治体による合併を予定している。
この地域の合併は、いくつかある方式の中から「新設合併」方式を採用した。この方式では、2005年1月に1市9町2村の全ての自治体を一旦廃止し、新しく設置する新「今治市」にすべて継承する予定である。この合併が実現すれば、人口は180千人となり、新居浜市を抜いて県内第2位の都市となる。
この合併の大きな特長は2つあり、合併市町村数の多さと風光明媚な新市の誕生である。まず、合併市町村数は12と、県内では断トツであるとともに、全国でも有数の規模である。これに次ぐ県内合併は、西予市や準備の進む愛南町の5つに止まり、その規模の大きさが見て取れる。
第2は県内でも有数の多自然に恵まれた新市になることである。通常、合併は隣接した地区の少数合併が多く、地理的には同一性を有しているものが多いが、新「今治市」は瀬戸内海に浮かぶ美しい島しょ部と緑豊かな山間地域をもつ内陸からなる風光明媚な新市となる。
3.この地域は古代から深い結びつき
今回の合併は、2001年2月に国から出された合併推進要綱を受けて進められているが、この地域の結びつきは以前より強いものがあった。
この地域は古代より海上交通の要衝として海運が盛んで、畿内の文化をいち早く取り入れ、10世紀前後の「倭名類聚鈔(わみょうるいじゅうしょう)」という書物にも「国府※在越智郡」と記されるなど、伊予の国の中心であった。
その後、村上水軍の本拠地を芸予諸島におき、戦国武将の長曽我部元親は四国征伐の後期に、この地域から天下を取りにいくことを夢見ていたと言われるなど、戦国時代までは県内で最も進んでいた地域の一つであったようだ。
近年は、1999年に瀬戸内しまなみ海道が開通し、芸予諸島と今治市が連携して多くの観光客を招き入れ、同時に住民の交流が深まっていった。歴史的な一体性から、今回の合併の枠組みは自然なものであり、住民にとっても受け入れやすいものであったようだ。
※ 「国府」とは、律令時代に一国ごとに置かれていた国の役所のことで、朝廷から派遣された国司と呼ばれる地方官がおり、その地域の中心であったとされている。
4.合併による議員在任特例は一切認めず
新設合併であれば、通常、旧市町村議会の議員はすべてその身分を失う。しかし、今回の「平成の大合併」は、議員の失職が合併の障害にならないように、いくつかの特例を設けている。議員在任特例制度もその中の一つである。議会の承認があれば、議員は、合併後2年以内(最長)、その地位を保障されるもので、他地域ではこの制度を利用することで、議員定数が大幅に増加する例がいくつも見られる。
しかし、新「今治市」ではこの議員在任特例をはじめ一切の特例を認めていない。もし、この特例を認めれば、議員定数は188人まで膨らみ、標準人員34名を150人以上オーバーしてしまうからだ(図表-1)。そうなれば合併メリットの一つである経費削減効果にマイナスの影響がある。今回は、議員自らリストラの先鞭をつけることで、新市の経費削減効果を少しでも早く実現しようとしている。さらに、旧市町村の全域を一つの選挙区とすることで、とかく問題になりやすい議員の問題を一気に解消する予定であり、多くの市町村合併の模範になるところではないだろうか。
新市は、合併10年後に特別職4人、議員数34人、職員定数は1,650人の合わせた1,688人を標準人員とし、現在より年間26億5千万円の経費削減効果を見込んでいる。
(図表-1)合併による財政的支出(人件費)の削減効果(合併後10年経過後)
資料:今治市及び越智郡11か町村合併協議会ホームページ
5.後年度の負担をおさえ約285億円
新市は、旧市町村間の格差是正や交流の促進を図ることを目的として合併特例債を起債することができる(図表-2)。この合併特例債は事業計画全体の95%の起債を可能とし、そのうち70%が普通交付税として交付されるため、新市の負担は約3分の1にとどまる。他の起債と比べ、この起債条件は非常に有利であるため、他の合併市町村では満額起債を計画するところが多い。
その中で、新市は、合併特例債の枠554.9億円のうち、約285億円の起債にとどめる見通しである。新市の合併後の歳入をシミュレーションし、無理のない返済計画を立てるようにした結果、約285億円の起債が妥当な線であると判断したためだ。敢えて起債を抑制し、健全な財政運営の実現を図る新市の取り組みが窺える。
(図表-2)国による新市への財政的支援
項 目 | 金 額 | 備 考 |
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1.合併特例債(上限) | うち95%が起債可能、さらにそのうち70%が普通交付税に算入される | |
(1)まちづくりのための建設 事業に対するもの | 標準全体事業費584.1億円 合併から10カ年度間の事業の合算額 | |
(2)地域振興のための基金造 成に対するもの | 標準基金規模の上限40億円 | |
2.合併直後の臨時的経費に対 するもの | 5年間の合計額上限30億円 | 合併後5年間普通交付税で均等に措置される |
資料:今治市及び越智郡11か町村合併協議会ホームページ
6.瀬戸のまほろばを目指して
新市の合併に関して、全く問題が無い訳ではない。特に「水」と瀬戸内しまなみ海道の「通行料金」が問題として残されている。新市はその全域が瀬戸内海気候区に属し、年間の降雨が少ないため慢性的な水不足に悩まされている。従来、各自治体が独自で水の供給を行ってきたため水の調達コストには大きな開きがあった。合併後5年以内に水道料金を統一することで調整が図られようとしているが、今後早急に具体的な水道事業の計画づくりが求められている。また、市域を移動する場合の瀬戸内しまなみ海道の通行料金負担軽減に向けた取り組みを推進していかなければならない。これらの問題はあるが、この地域の交流の深さや歴史的な結びつきを考えると、それほどの障害にはならないであろう。
今回、新市は「個性きらめき感動あふれる瀬戸のまほろば」を合言葉に掲げ、合併に向けて進んでいる。タオル・内航海運・造船の3つの産業を中心にグローバリゼーションの進展の中で厳しい競争に打ち勝ち、全国でも有数の大合併を成功させることで、かつて伊予の国の中心であったような活力を取り戻し、「瀬戸のまほろば」と言われるに相応しいまちづくりを期待し、このレポートを終えたい。
※ 「まほろば」とは、優れた場所・すばらしい地域のこと
(木内 淑雄)