北宇和郡松野町は、県都松山から南西に車で約2時間半、高知県との県境の町である。
ここは、古くから足摺宇和海国立公園に指定されている「滑床渓谷」が有名であり、なかでも日本の滝100選に認定されている「雪輪の滝」はその渓谷美を象徴するものである。
この滝から流れ出た清水は、目黒川にそそぎ、やがて日本最後の清流と呼ばれる四万十川へと至る。
豊かな自然を背景に、1991年4月にはこの渓谷内に第3セクター方式の「森の国ホテル」がオープンし、そのしょうしゃな山岳リゾート風のプチホテルで味わうフランス料理は大変好評で宿泊予約が絶えないという。
こうしたことから、最近では、松野町と言うよりも”森の国ホテルがある所”と言ったほうがよくわかる程、”森の国”のイメージが定着している。
自然と個性あるまちづくりの共生
このように、もともと観光資源に恵まれていた松野町であるが、地方の町が共通して抱えている人口の減少と高齢化の進展、基幹産業の不振による地元経済力の低下はいかんともしがたく、その打開策として従来から交流人口の増大を志向してきた。
そして、前述の「森の国ホテル」のオープンを皮切りに、自然との共生を最大のテーマに掲げ、松野町およびその周辺の自然環境に配慮した施策を次々と打ち出し、個性的なまちづくりを推進している。
進む広見川河川公園整備事業
今般整備が進んでいる広見川河川公園「虹の森公園」もその一環であり、総事業費は約17億5千万円。総面積1.5haで、広見川にかかる大門橋を境にして、上流部を「やすらぎゾーン」、下流部を「ふれあいゾーン」と名付けている。
「やすらぎゾーン」は、いち早く96年4月にオープンしており、週末には多数のドライブ客に利用されている。ここには、ちびっ子達のためにジャブジャブ池や広場・遊具類等があり、遊ぶには事欠かない。
一方、工事が急ピッチで進んでいる「ふれあいゾーン」には、事業費約9億17百万円で、魚類展示室のある四万十川学習センター「おさかな館」の他、ガラス工房や特産品販売所のある「地域物産センター」が整備される。
注目の「おさかな館」
97年4月12日にオープンが予定されている四万十学習センター「おさかな館」には、県内初、全国でも珍しい淡水魚等の展示室が設置される。
ここでは、四万十川や広見川に生息する魚類ばかりでなく、世界の淡水魚や漁具等も観察することができるという。
”森の国に魚類展示室出現”というだけでも話題性はかなりなものであるが、それだけではない。ここでは何と、清流四万十川を代表する魚”アカメ”を身近に観察することができるのである。
アカメは名前のとおり、目が赤く、体長は140cm程度まで成長するといわれる巨大魚。
生息地としては、四万十川や宮崎県の大淀川が有名であるが、その生態はいまだに明らかではない。
こうした神秘性を持つアカメは既に四万十川から松野町に数匹移送されており、公開展示される日を待っている。
ガラス工房も移転
同町富岡に92年1月オープンした「森の国ガラス工房」は、若い女性や家族連れでにぎわっているが、ここも「ふれあいゾーン」の「地域物産センター」に移転となる。
中四国初のガラス工芸館として、また空き瓶のリサイクル施設として関心を集め、オープンから5年で入館者は約27万5千人にのぼっている。
新しい施設は、工房・ショップともに従来の施設に比べて広くなり、特にオリジナルのガラス製品が作れる絵付け体験コーナーが充実するという。
“森の国”から情報発信
こうした個性あふれる施設の充実により、ますます”森の国”のイメージが増幅され、南予の人気スポットとしての地位が確立されて行くであろう。
地域からの情報発信の重要性が叫ばれる今日、その具現化を先導している松野町だけに今後も目が離せない。
(窪田 浩二)