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西日本レポート

【福岡県北九州市】 「鉄都」から「エコタウン」へ - 環境未来都市の形成を目指す北九州市 -

2000.12.01 西日本レポート

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1997年、すべての廃棄物を新たに他の産業分野の原料として活用し、あらゆる廃棄物をゼロにするゼロ・エミッション構想の実現を目指して、エコタウン事業が始まった。北九州市は、川崎市、岐阜県、飯田市と共に第1号の指定都市となった。
今回は、産学官に市民を加えた「鉄都」からエコタウンづくりを積極的に進める、北九州市の取り組みを紹介したい。

公害克服のパワーが北九州エコタウン事業の源

北九州市エコタウン事業は、環境・リサイクル産業を振興し、21世紀に求められる持続的発展可能な社会であるエコタウンのモデル都市となることを目指している。
その基本コンセプトは、環境産業化・環境産業の立地誘導、技術システムの開発、環境先端情報の発信・教育研修および誘導助成の3つである。
北九州市は、戦前から戦後にかけて『鉄』を中心に「モノづくりの街」として大量生産型社会を支えてきたが、そこには人材、技術、ノウハウや充実した産業インフラが存在した反面、60年代には深刻化した産業公害問題があった。
公害問題に対する市民・行政・産業界一体の取り組みは、大腸菌すら棲めない「死の海」と呼ばれた洞海湾に100種類以上の魚介類を呼び戻し、「七色の煙」と呼ばれ、日本一の降下ばいじんを記録した空は環境庁から「星空の街」に選定されるまでに改善させる力をみせた。
北九州エコタウン事業には、公害の克服に取り組んだ市民・企業・行政の連携基盤を、未来都市づくりに向けたパワーに振り向けようとする狙いがある。

エコタウン事業は基礎研究から事業化までの総合展開

北九州エコタウン事業は、具体的には北部の若松区響灘地区を北九州エコタウン地区に指定し、環境・リサイクル産業の振興を図るため、基礎研究から技術開発、実証研究、事業化に至るまでの総合的な事業を行っている。
基礎研究は、響灘地区から少し離れた若松地区西部から八幡西区北西部335haの北九州学術・研究都市を拠点に、北九州大学国際環境工学部の開設や九州工業大学大学院生命工学研究科、早稲田大学理工学総合研究センター九州研究所などの大学機関の誘致が進められ、エコタウン事業とリンクしている。
技術開発・実証研究は、民間企業や大学が、既に焼却灰リサイクル技術実証研究施設等の17施設を開設し、さらに2施設が建設中である。
事業化は、個別リサイクル法に対応した事業化を手がける総合環境コンビナート(エリア)と中小・ベンチャー企業のリサイクル事業を支援するエリアの響リサイクル団地を整備して展開されている。
総合環境コンビナートには、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法などの法律施行に基づき、ペットボトルから再生PET樹脂を生産したり、テレビ・冷蔵庫・エアコン・洗濯機の4品目の処理事業等が既に始まっている。
響リサイクル団地は、市街地に点在する自動車中古部品・解体業者を集団移転させ高度化を図ったり、独創的・先駆的な技術やアイデアでリサイクル事業を行うフロンティア企業を呼び込むために、現在5.5haが造成中であり19社の進出が内定している。

定期借地権の設定で企業の負担軽減を図る

エコタウン事業に進出する民間企業は、実証研究エリアや総合環境コンビナートに参加するいわば全国区の企業群と響リサイクル団地に進出する地元企業や環境関連産業の下請事業者に分けられる。このうち後者の地元企業や下請事業者が採算性を確保できるのかが気になるところである。
響灘地区の特性は、広大で安価な土地がある、技術連携などが必要となる既存集積地と隣接している、地区内に管理型処分場を有し長期的に安全・安定的な処理が可能、港湾施設が近接している、豊富な工業用水の活用が可能の5点が挙げられる。このうち土地価格は最大のメリットであるが、北九州市では、土地条件をさらに効果の高いものとするため、15~20年の定期借地権を設定する土地賃貸方式を採用し、進出企業の経費負担を少しでも軽減する考えでいる。

エコタウン構想は産学官と市民の参加で支えられている

使用済み自動車リサイクル工場 (北九州エコタウン事業パンフレットより)

使用済み自動車リサイクル工場
(北九州エコタウン事業パンフレットより)

エコタウン建設は、行政側では98年から進められている「北九州ルネサンス構想・第三次実施計画」に基づき、市長を交えた早朝勉強会や夜の勉強会などの3年間の実績を積み重ねたものであるが、産・学・市民の参加に支えられ進められている。
産業界では、容器包装リサイクル法に基づいてペットボトルの分別収集が始まり、これらの受け皿として環境コンビナートで西日本ペットボトルリサイクル(株)が全国で3番目の処理施設を稼動させたことが大きな契機となり、学術面では先に述べたように学術・研究都市構想と合わせて、2001年度からは北九州大学国際環境工学部などの開設、誘致計画が進められている。
また、市民が健全な考え方でこの計画に参画することも重要なポイントである。市では、住民にプロジェクトの現場を見せたり、要請があれば出前講演を開催したり、子供達には生きた環境教育の教材としてリサイクル工場の見学を実施したりして、住民の不安に答えることで住民に安心感、安堵感を与える努力をしている。

市民全域に取り組みが広がっている

北九州エコタウン地区でのリサイクル工場の稼動だけではなく、環境関連の取り組みは、民間企業、市民、市役所など北九州市内全域に広がりをみせている。
エコタウン地区以外の主な民間企業の取り組みは、太平工業(株)のコンクリート再生材の製造や、三菱マテリアル(株)の下水道汚泥をセメント原料に利用する取り組みなど21事例にも上っている。
市民の取り組みでは、環境庁長官の「地球温暖化防止活動大臣表彰」を受賞した地球温暖化を考える北九州市民の会や若松商店街では「若松おかみさんの会」が主体となって、商店街内に空き店舗を利用したリサイクルコーナー「かえましょハウス」(市民リサイクル運動の基地)を開設した取り組みもある。
市役所の取り組みでは、国内最大のスーパーごみ発電システムの導入や洞海ビオパーク、水環境館(体験学習施設)等の整備も行われている。
循環型社会は、もはや理念としてではなくビジネスとして実現していかなければならない段階であり、北九州市の取り組みは産業界が先導するエコタウンモデル事業といえよう。
かつて大量生産型社会をリードした『鉄都』北九州市が、環境・リサイクル産業を機軸に再び時代をリードする環境未来都市に生まれ変わる日も遠くないものと期待される。

(黒田 明良)

主な実施・計画状況

エリア等事業内容(実施・計画年)事業主体
実証研究エリア焼却灰リサイクル技術実証研究施設(97.10)
福岡大学資源循環・環境制御システム研究所(98.4)
閉鎖型最終処分場実証研究施設(98.9)
廃プラスチックリサイクル実証研究施設(98.10)
都市ごみの生分解性プラスチック化学技術研究施設(99.8)
栗田工業(株)
福岡大学
(株)フジタ
(株)日立製作所
九工大、北九州テクノセンターほか
総合環境コンビナートペットボトルリサイクル事業(98.7)
OA機器リサイクル事業(99.4)
使用済み自動車リサイクル事業(2000.2)
家電リサイクル事業(2000.4)
西日本ペットボトルリサイクル(株)
(株)リサイクルテック
西日本オートリサイクル(株)
西日本家電リサイクル(株)
響リサイクル団地自動車リサイクルゾーン
中古部品販売業(6社)、解体スクラップ業(2社)、中古エンジン輸出業(1社)、シュレッダー業(1社)フロンティアゾーン(進出候補企業8社)
学研・研究都市北九州大学国際環境工学部(2001.4開設予定)
九州工業大学大学院生命体工学研究科(2000.4設置、2001.4学生受入予定)
早稲田大学理工学総合センター九州研究所(2001.4開設予定)
早稲田大学大学院先端技術デザイン研究科(仮称)(2003.4開設予定)
英国クランフィールド大学日本センター(2001.4開設予定)
GMD-Japan研究所(ドイツ国立情報処理研究所)(98.11開設、2001.4転移予定)

 

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