地球環境問題から自然エネルギーが注目されている。そのうち、これから本格化しようというのが「バイオマス」エネルギーの活用である。
「バイオマス」は植物体の総称のことで、エネルギー利用されるものとしては木くず、家畜ふん尿、稲わら、食品廃棄物などがスポットを浴びている。それらを 発酵させることによって生じるガスで発電しようという技術が実用化されつつある。残り物も堆肥になるので、完全リサイクルとなる。現在、各地で行われつつ あるバイオマスエネルギー利用のうち、関西の2つの事例を紹介しよう。
京都市では生ごみガス化
京都市には生ごみを利用したガス発電プラントが3年前から設置されている。市環境局が集 めた市内のホテルなどの調理屑・残飯(厨芥(ちゅうかい)類)など事業系生ごみを主原料として、メタンガスを主成分とするバイオガスを発生させ、発電を 行っている。1日に3トンのごみから約69世帯分に相当する690kWhが取り出せる。原料としては厨芥類のほか、中央卸売市場からの野菜くず、せん定く ず(枝・葉)、古紙を加えている。このほか、木くず、家畜ふん尿などの混合も可能である。
このプラントの大きな特徴は、街のなかに設置されてい ることである。現地は京都市の郊外の国道1号線に近く、工場、倉庫をはじめとした事業所の多い所である。従来、こうした施設は、臭気の問題があり、市街地 に設置するのは難しいとされていた。今回、脱臭設備の設置やごみの搬入方法の工夫などにより、画期的な実証プラントが実現した。煙突もなく、ごみ処理場の イメージはない。
もともとスイスの技術を導入したものだが、大学の研究者がスイスでプラントを見学し、その先進性に着目、京都市を通じて、ごみ焼却炉メーカー6社に呼びかけ、研究会を設置、実験スタートとなった。
課題はできた堆肥の利用
今後の課題として、ガスを発生させた後の「残さ」(残り物)の問題がある。現況、脱水し て焼却処分している。堆肥として利用できればいいのだが、成分中に重金属類等が含まれている可能性が完全に否定できないため、堆肥としては使いにくいよう だ。この点は、生ごみ堆肥化の一番の難点である。実際問題として、実証プラントであり、京都市も関与しているので、京都市に焼却処分してもらっている。堆 肥として売らねば・・・という動機は乏しいようだ。
なお、京都市ではごみ収集車に廃食料油を原料とする新型燃料を用いるなど、環境対策では進んだ取組みを行っている。
京都の生ごみバイオガスプラントの仕組み
燃料電池と結合させた神戸の実験プラント
さらに進んだシステムが神戸のポートアイランドにある。この9月から、世界初の生ごみのバイオガス化燃料電池発電施設による実証実験が行われている。
仕組みとしては、技術的には京都のものと別系統だが、大ざっぱに言って、燃料電池(下記注)をプラスさせた形である。市内のホテルから出る生ごみを原料に、発生させたバイオガスから水素を取り出し、燃料電池で発電する。
ここでは1日6トンの生ごみから約2,400kWhの電気を得ることができる。
つくられた電気はその半分が施設内で利用される予定で、残りは充電スタンドに送られ、電気自動車などに利用する計画である。メーカーとしては、将来的には小サイズ化して各家庭に燃料電池を普及させるのが目標とのことである。
(注)燃料電池は水の電気分解の逆の反応で、水素と酸素を反応させることにより電気と水を発生させる。二酸化炭素が発生せず、クリーンで発電効率も高い。現在、実用化技術の確立が進められている。
まずは事業系食品廃棄物で
食品廃棄物によるバイオマスエネルギーの活用で、東京都の世帯の15%への電力供給ができるともいわれている。
2001年5月に施行された食品リサイクル法により、年間100トン以上食品廃棄物を出す食品工場、レストラン、ホテル等は、リサイクル、堆肥化により、 5年以内に排出量を20%削減することが求められている。食品廃棄物は品質が比較的安定し、出所もはっきりしているため、堆肥化は進むものと思われる。
実際、近年、環境機器・機械メーカー・ゼネコン等がさまざまなシステムを開発、売り込んでいる。排出事業所の片隅に設置する小プラントが主流になる(分散 型)のか、ガス化まで含む大きなプラントが設置される(集中型)のか、今のところ読みにくいが、いずれにしても食品廃棄物については大きく状況は変わると みられる。
自治体にもメリットが
自治体の側にもメリットがある。まず、一般廃棄物のおよそ3割を占める生ごみがバイオガ ス化されれば、焼却処理施設で燃やすごみの量はかなり減って、焼却灰が減り、埋立ての最終処分場が長持ちする。第二に、焼却炉は小さいもので済むことにな るため、長期的には設備コストの抑制にもつながる。第三に、ダイオキシン対策にもなる。生ごみは水分を多く含むため、ごみ焼却炉の熱が上がりにくく、ダイ オキシンが発生しやすくなってしまうが、それが避けられる。
加えて、焼却施設の敷地内またはその近くにバイオガス化設備を設置すれば、焼却炉の余熱を発酵槽の加温に利用(メタン菌は55℃くらいが適温とされる)し、処理効率を高めることができる。
食品廃棄物など事業系の生ごみは排出者・収集業者・処理者(自治体)の三者に経済的メリットがあり、安定運用の目途が立てば、堆肥化、バイオガス化へと転 換していくものとみられる。大きな事業所から次第に中小事業所にも普及していくことだろう。ガス化は億円単位の多額の設備投資を必要としているようだが、 技術開発・小型化が進めば、可能性の芽も出てくる。技術開発が待たれる。