平成14年4月1日に香川県の東部、東讃(とうさん)にある大川郡の西部5町(旧津田町、旧大川町、旧志度町、旧寒川町、旧長尾町)が合併し、県内6番目の市「さぬき市」が誕生した。
今回は、その新生「さぬき市」の合併までの経緯や、合併後1年を迎える姿をレポートしたい。
さぬき市はこんな市
面積は、高松市に次ぎ県内2番目の広さで、人口は4番目、東讃地域では、唯一の「市」である。
さぬき市は、沿岸部の旧志度町・旧津田町、内陸部の旧大川町・旧寒川町・旧長尾町からなり、瀬戸内海と徳島県境の両方に接する県下唯一の「市」でもある。 新市は、工業や農業の産業と教育などの様々な顔をもっている。
市内には、建設用クレーン最大手のタダノ志度工場を筆頭にした大型工場や、カタログ通販大手セシールの巨大な流通センターがあり、徳島文理大学の香川キャンパスなどもある。また、旧大川町にあたる内陸部には、県内最大の酪農地域が広がっている。
香川県内各市の概要
面積 | 人口 (平成12年) | 農業粗生産額 (平成12年) | 製造品出荷額等 (平成12年) | 商品販売額 (平成9年) | |
---|---|---|---|---|---|
さぬき市 | 158.81 | 57,772 | 6,030 | 118,485 | 66,937 |
高松市 | 194.33 | 332,865 | 8,380 | 356,210 | 3,795,457 |
丸亀市 | 64.59 | 80,105 | 2,040 | 188,627 | 242,197 |
坂出市 | 92.45 | 59,228 | 3,610 | 423,697 | 180,455 |
善通寺市 | 39.88 | 36,413 | 2,450 | 33,074 | 75,198 |
観音寺市 | 49.09 | 44,755 | 7,590 | 68,910 | 164,235 |
香川県合計 | 1,876.00 | 1,022,890 | 84,500 | 2,145,909 | 5,225,175 |
資料:香川県 (単位:km2、人、百万円)
住民が発議し合併を実現!
今回の合併は、平成2年9月に東かがわ青年会議所が発表した「東かがわ市構想」(大川郡8町・10万人都市構想)が発端となった。そして、平成7年に合併特例法が改正されたことで再び合併に対する意識が高まり、平成10年12月8日には、各町民が各町長に合併協議会設置の請願書を提出、平成11年10月に合併研究会が、平成12年4月には法定の合併協議会が設置され、2年後の平成14年4月に合併に至った。
当初構想されたのは、大川郡全体8町での合併だったが、結局西部5町での合併になった。西部5町と徳島県と接する東部3町では、地域発展の歴史や地域の結びつきが異なり、地形的にも異なることから西部5町(さぬき市)と東部3町(東かがわ市、平成15年4月誕生予定)に分かれることとなった。
また、新市役所の位置や新市の名称などの問題点を早い段階で優先的に決定できたことが短期間で合併に至った理由として挙げられる。各地の合併においても新市役所の位置がなかなか決まらずに難航することが多い。しかし、さぬき市の場合は、旧志度町役場が新築(平成12年12月竣工)中であったことから、新市役所(本庁)として用いることとし、他の4つの役場は新支所となった。
さらに、旧5町の町長や町議会の理解もあり、住民の理解も比較的進んでいたこともあって、合併交渉はスムーズにまとまった。
合併基本的協定項目
項目 | 決定事項 |
---|---|
1.合併方式 | 対等合併 |
2.合併期日 | 平成14年4月1日 |
3.新市の名称 | 住民アンケート等により決定 |
4.新市の事務所の位置 | 志度町役場(総合支所方式) |
5.財産や債務の取扱い | 財産や債務は新市がすべて引き継ぐ |
合併の第一のメリットはイメージアップ
合併による第一のメリットは、イメージアップである。町から「市」になったことに加え、東讃地域で唯一の「市」の誕生により、地域の存在感が向上した。加えて市内にある文化施設、スポーツ施設などの公共施設を自由に利用することが可能になった。今後は、福祉循環バスの市内全域での運行により、どの地域からでも市役所や公共施設への足が確保される予定である。
さらに情報通信分野では、長尾・寒川・大川の旧3町にあったケーブルテレビ(CATV)網を市内全域に拡張することになり、地域に密着した情報提供や、インターネットが活用できるようになる見込みだ。現在、沿岸部の旧志度町と旧津田町では配線工事が進んでおり、将来は、在宅健康管理など健康医療支援体制の強化につながることも期待できる。CATVのなかった沿岸部の住民にとってはメリットとなる。
これに対しデメリットとしては、水道料金や介護保険料を「公平性の原則」に基づき適正な料金体系へ水準を合わせるため調整したが、合併前より上昇した地域(旧町)もあり、その地域住民にとっては負担増となった。水道料金等の支払いは毎月発生するため、どうしても負担増が目についてしまうのは否めないようだ。
多彩な観光資源による観光戦略
新市になってから最も注目されているのが今後の観光戦略であろう。これは、旧志度町にある大串自然公園を中心とする市内各地のレジャー施設や温泉など「癒し系」の観光資源が多彩で強力になったためである。
グリーンヒル大串
なかでも、エーゲ海の香りも漂う風光明媚な瀬戸内海を一望できる大串岬には、大串自然公園があり、さぬき市直営のグリーンヒル大串を核にして、さぬきワイナリー、テアトロン志度音楽広場、大串温泉、展望台、児童館、海釣公園、サイクリングターミナル、テニスコートなどがあり、レジャーランドとして脚光を浴びている。
さぬきワイナリーは、さぬき市、香川県農協などが出資する第三セクターが運営しており、四国で唯一のワイン工場である。近年では、ワインの製造・販売などに加えて、児童などの工場見学や、親子を対象にしたブドウ収穫教室などにも積極的に取組んでいる。
テアトロン志度音楽広場は、古代ギリシャの野外劇場をモデルに設計された文化ゾーンの中核であり、最大1万人を収容できる。
ゴルフ場が3ヵ所に
また、近隣には以前PGAツアー競技開催地にもなった名門の志度C.Cがある。その他にも、讃岐C.C、高松スポーツ振興C.Cがあり、市内にゴルフ場が3ヵ所となった。
代表的な観光施設「さぬきワイナリー」文化ゾーンの中核「テアトロン志度音楽広場」
ドルフィン・セラピーの事業化を目指す!
旧津田町沿岸にある名勝「津田の松原」は、約10haに及ぶ渚に樹齢400年を超える老松などを含めた約3,000本ものクロマツで松林を形成している。その海岸では、松風がまるで琴の音のように響くことから「琴林(きんりん)」の名でも知られており、年間約40万人もの海水浴客で賑わっている。
また、児童の心の問題に取組むため、イルカ療法「ドルフィン・セラピー」(注)の導入を目指し、イルカの試験飼育事業を展開している。当初は平成15年3月を期限としていたが、イルカとの触れ合い体験が人気を集めていることから、本格的な事業化に向けて更に1年延長することになった。
(注) ~ドルフィン・セラピーとは~
アニマルセラピーに含まれ、イルカとの触れ合いの中で快復を目的とした療法で、精神的に立ち直るきっかけとなるなどの効果がある。
温浴施設は、市内に6ヵ所
旧各町で競って作ったため、市が運営する公共の温泉保養施設は、6ヵ所となった。今後は運営形態の見直し等の課題が残るものの、バラエティに富んでいる。
なかでも旧津田町には、ヨーロッパで注目されているタラソテラピー(海洋療法)をとりいれた海水露天風呂を目玉に、フィットネスを併設したクアタラソさぬき津田があり、温泉リゾートを満喫できる。
これからは、住民にとって利用しやすい環境整備が必要となっており、温泉巡回バスの運行などが望まれてくるだろう。
札所が市内に3ヵ寺
合併によって市内には、四国八十八ヵ所の札所が3ヵ寺になった。
旧志度町にある86番志度寺は、推古天皇のころに創建されたといわれている。ここは、瀬戸内海国立公園に属し、目前には風光明媚な志度湾が広がっている。
87番長尾寺は、札所巡りもこの寺を終えると残すところ1ヵ寺で、“気を引き締めなければ”という気持ちになるといわれている。
そして八十八ヵ所参り最後のお寺が結願の寺といわれる88番大窪寺である。ここには全国各地から年間約50万人が訪れており、今後はさらにさぬき市が“上がり3寺の市”として脚光を浴びそうだ。
四国八十八ヵ所は千年余りの時空を超えて四国の風土に息づいており、癒し文化の象徴とされている。また、世界遺産化に向けた活動もなされている。さらに将来的には、市内3ヵ寺を巡拝できる遊歩道の建設計画もある。
これからのさぬき市の行方
今後は、行政面での人員削減や合理化等が計画的に進められる。
合併後のさぬき市職員数は、同規模の市と比べて100人ほど多い577人となったため、今後10年間で人員削減をしていく予定である。具体的には、平成14・15年度の新規採用をゼロとし、今後10年間での定年退職が180人程度予定されていることから、新規採用をその半分程度に抑えることで100人程度は段階的に削減できる見込みである。
議員定数は、「議会の議員の定数・在任に関する特例」を活用し、65名と大所帯だったが、平成14年12月の定例市議会において市議員定数を26名とする条例が可決され、スリム化されることになった。住民の意見が市政に届きにくくなるといった不安もあるが、同規模の都市並みになるだけであり、住民の納得も得られることだろう。
電話番号については、合併後も旧志度町の市外局番は「087」、その他は「0879」のままとなっている。合併前から市外局番を統一するようNTTに強く要望してきたが、多額の経費がかかる等の理由で難航し、まだ統一できる目処はたっていない。同じ市内でも市外局番が違うことから、市民には違和感もあるようだ。
東讃の中核都市として
交通面では、東西幹線として国道11号や高松自動車道などがあり、東西の交通の便は良い。一方、南北幹線は、まだまだ整備が進んでおらず、今後の課題だ。
市内3ヵ所にインターチェンジがあり、2時間程度で京阪神方面に行けるのに加え、平成15年春には、高松中央ICと高松西ICが開通し、香川県西部、京阪神や徳島方面に直結する見込みである。通過都市となる可能性が否定しきれない面はあるものの、さぬき市が札所や温泉施設など、持てる資源を活かして存在感を放つ「東讃の中核都市」としてさらに発展していくことを期待したい。
(越智 洋之)