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西日本レポート

【岡山県倉敷市】町家を活かしてコミュニティの再生を図る倉敷のまちづくり ~倉敷町家トラストとくらしきTMOの活動から~

2007.06.01 西日本レポート

町家を活かしてコミュニティの再生を図る倉敷のまちづくり ~倉敷町家トラストとくらしきTMOの活動から~

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白壁の町並みとして知られる岡山県倉敷市では、1968年に伝統美観保存条例を制定し、景 観保全に力を尽くしてきた。先人からつながる町並み保存への努力のかいがあって、倉敷の美観地区は年間300万人が訪れる全国有数の観光地になった。それ にしても、戦後間もない49年には既に、戦災を免れた伝統的建築物の保存・活用を訴える運動が展開されていたというから、その活眼には驚かされる。
観光客が抱く美観地区のイメージは、掘り割りの両岸に並ぶ白壁の家並みと柳並木に集約されがちだが、実際にはその周辺を含む21haにわたる地区を指して いる。観光地・商業地から路地を1本奥に入れば、生活空間としての美観地区が広がっている。本町や東町の静かなたたずまいは、表の顔とはまた違った味わい のある場所だ。
しかしこの地区でも近年、高齢化や人口減少が進んでおり、住み手のいなくなった家が目立ち始めている。放置され荒れるがままになっていたり、取り壊されて駐車場になったりする町家が増加する現状を見て、「この先、町並みを維持していけるのか」という危機感を募らせて いた住民たちが中心となり、昨年、NPO法人「倉敷町家トラスト」が設立された。

倉敷町家トラストの活動

-啓発活動と実態調査-

NPOとしての活動が始まった昨年度は、内閣官房都市再生本部による「全国都市再生モデル 調査事業」に選定されたことで、約600万円の資金を得た。まず、活動を紹介するリーフレット作成や、地域住民に向けた「コミュニティ再生講座」の開催等 によって、活動への理解を求めるための啓発活動を行った。
並行して美観地区とその周辺で、町家の現状調査を実施。その結果、調査対象となった734戸のうち、空き家は1割近い68戸にのぼり、既に建物が取り壊され、空き地となっているところもあることがわかった。

倉敷町家トラストの活動履歴
2005年 秋有志による組織設立準備開始
2006年 6月NPO法人認証申請
全国都市再生モデル調査事業に選定
2006年 9月NPO法人認証
2006年 12月コミュニティ再生講座(初回)開講
中心市街地町家調査開始
2007年 3月倉敷町家トラスト設立記念講演会&報告会・建築相談
2007年 5月「本町御坂の家」改築工事開始

-町家の再生 第1号の実施-

町家トラストの活動に理解を示し、自身の空き家を自由に改築して使っていいという所有者が現れた。
「本町御坂(おんさか)の家」と名付けられたこの家は一見すると単なる廃屋で、おそらく歴史的な価値はない。10坪ほどの小さな家だが、傷みが激しく改築 には約1,000万円かかるとみられている。建物が伝統的建造物群保存地区に位置するため、改築費用の半額程度は市からの補助金を活用し、残りはメンバー の会費や賛同者からの寄付金で賄う予定だ。町家トラストの代表である中村泰典氏は、再生の第1号物件となるこの家が、以下のような様々な役割を果たすと期 待している。

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  1. 広告塔としての役割
    町家再生の過程を多くの人に見せることにより、活動内容を知らしめ、周囲の関心が集まれば、活動に賛同する人が増え、労力や資金面での協力も広がっていくことが期待できる。
  2. 人材育成の場としての役割
    町家トラストのメンバーには、建築家も数名含まれている。副代表理事の楢村(ならむら)徹氏は 「倉敷再生塾」を主宰し、古民家再生の手法を実践的に学ぶ場を若者に提供している。本町御坂の家は、この塾生たちにとって格好の実習の場でもある。塾生や ボランティアの人たちが楽しみながら解体・再生のプロセスや手法を学ぶことが重要なのである。
  3. 収入源としての役割
    この秋には再生工事が完了し、「町家体験交流施設」として有料で貸し出される予定だ。1棟1泊 10,000円(4人程度宿泊可能)と、かなり低めの価格設定ではあるが、今後の町家トラストの活動費に充てられる。観光客もさることながら、冠婚葬祭等 で親戚が集まる際など、地域の人々の利用ニーズもあるとみている。
    もちろん、ここだけの収入で活動を続けていくことは難しく、今後の資金集めは大きな課題である。企業等から寄付を募ることも考えられるが、代表の中村氏は、市民から薄く広く集めることに意義があると捉えている。

町家の相談窓口

今後は、町家の建築相談窓口としての役割も強化していきたい考えだ。空いた町家を活用した いと思っても、所有者が遠隔地にいたり、土地と建物の所有者が違っていたりして、持ち主を特定しにくい物件も多い。町家に関する情報が全て集まる仕組みが できれば、所有者と住みたいという人のマッチングが図りやすくなり、町家を生きた形で残していくことができる。
この活動がマスコミ等で取り上げられるよう になり、既に町家の所有者からの問い合わせが数件あったという。それらが2軒目、3軒目の再生物件につながるかもしれない。
町家トラストの活動は緒についたばかりだ。これから、観光客を含む倉敷を愛する多くの人の賛同を得、地域の人々を活動に巻き込んでいけるかどうかが、発展の鍵である。
町家トラストの活動は「まちに明かりを灯す」活動であるという。明かりは「人々の暮らし」の象徴であり、コミュニティ再生の象徴でもある。

明治期の旧家をレストランに再生

美観地区を外れた場所にもまだまだ町家の残る倉敷だが、そこは行政による補助の対象外であるため、さらに保存が困難になっている。しかし、個人や事業者が町家を積極的に活用する動きもある。
倉敷駅から一番街アーケードを抜けたところにある和食レストラン「蔵ぷぅ~ら」は、オーナーの自宅隣で長年放置されていた旧家を再生利用したもの。町家トラストのメンバーである建築家が手掛けた物件の1つでもある。
「この辺りで変な建物を建てようものなら、どこからともなく苦情が寄せられる」という。住民の意識が高く、いい意味でチェック機能が働いていることの表れだろう。

くらしきTMOによる賑わい創出の取り組み

倉敷の伝統文化を再生しようという動きは、町家というハードに限らない。倉敷市の中心市街地活性化を担う「くらしきTMO」が中心となり、かつてこの地で行われていた催事を復活させることで、賑わい創出を図っている。
そのひとつである「倉敷屏風祭」は、江戸末期から明治初期にかけて、阿智神社の大祭の時に行われていた行事である。本町や東町の商家が自宅の格子戸を外 し、表の一室に屏風や花を飾って、神社の参拝客に家宝を披露したり、お茶を振舞ったりしていたというもの。約100年の時を経て2002年に復活させた。
昨年の祭では、本町や東町の個人邸を含む35軒が、各家に伝わるお宝などを玄関先に展示した。一部ではあるが、一般住居としての町家に、地域の人や観光客 を迎え入れようという試みはユニークだ。おそらく地元の人にもあまり知られていない倉敷の顔に出会えるのではないだろうか。見せる側のもてなしの心と、見 る側のマナーがなければ続かないイベントであり、地域の伝統や文化を掘り起こすとともに、地域のつながりを深める機会にもなりそうだ。
くらしきTMOでは、他にも駅前商店街での朝市の復活や、水辺の景色を生かした七夕祭などの事業も行っている。観光客だけではなく、地域の人が楽しめるイベントは、美観地区を含む中心地に賑わいをもたらし、倉敷の歴史を身近に感じさせるものとなっているようだ。

景観後進国ニッポンは変わるか?

倉敷美観地区のような町並みに心惹かれるのは、調和がとれた秩序ある風景を「美しい」と感じるからだろう。だが、自分の家を建てるにあたり、周りとの調和を考える人はなぜか少ない。それ以前に、調和を図ろうにも、周りがあまりに無秩序になってしまっている。
2004年に「景観法」が制定され、美しい国づくりに向けて大きく舵を切ったが、国としての取り組みはたかだか3年でしかない。地方公共団体レベルでは、 全国に500以上の景観に関する自主条例があるという。しかし、そういった特別な地域に住む人を除き、これまでの日本では、自分の住む地域の「景観」につ いて、あまりにも無頓着だったのではないだろうか。急速に失われていく日本独特の町並みや風景を守り育てていく強力な仕組みが、求められているように思 う。そして、ただ建物を残すだけでなく、そこで人々の暮らしが営まれてこそ、生きた景観になるのではないだろうか。

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「古い民家や町並みを残したい」という思いはあっても、現実には多くの貴重な遺産が姿を消 している。その理由の1つは、現代人の生活にはどうしてもマッチしない部分があるからだろう。薄暗い、冷暖房効率が悪い、間取りが家族構成に合わないな ど、古民家で暮らすことには様々な制約がある。家族の歴史や思い出が詰まった家を残すことと、快適便利な生活を秤にかけ、選択を迫られた結果、前者は数多 く失われてきた。
これに対して、外観はそのままに、しかし屋内は快適便利な生活空間に変えることで古民家の再生・補修を推進する試みが、愛媛県内で始まっている。
四国電力宇和島支店が手掛けている「南予の古民家再生プロジェクト」がそれだ。同社は、築100年を超える住宅での電化リフォームを手掛けるなかで、このような動きを拡大させたいとの思いが高まり、地元の工務店などと連携し、昨年2月に立ち上げた。

築150年の家を移築・再生

築150年の家を移築・再生

南予地方には、宇和、内子、大洲、保内など、古い町並みが残っている地域が多い。しかし、高齢化・過疎化がその荒廃に拍車をかけている状況は、倉敷以上に深刻だろう。保存地区等に指定されていない場所ならなおさらである。
最初は「点」でも、それが徐々に増えて、やがては線から面になる。町並みが整備されることで地域の魅力が高まり、交流人口増加につながればいいという期待もある。

古宿がアトリエ兼ギャラリーに

古宿がアトリエ兼ギャラリーに

改築するより建て直した方が安上がりという場合もある。経済性や効率を最優先する価値観の 中では、こういった動きは決して広がりをみせないはずだ。だが、いろいろな地域でこうした動きが活発化している背景には、美しい景観や伝統・文化といった ものを守るために、少しがまんしたり、余分にお金を使ったりしてもいいという、効率一辺倒ではない価値観が広がりつつあるということなのだろう。

(上甲 いづみ)

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