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西日本レポート

【大阪府】「水の都大阪」再生に向けたまちづくり ~日本初の試み「水陸両用バス」も登場~

2007.12.01 西日本レポート

「水の都大阪」再生に向けたまちづくり ~日本初の試み「水陸両用バス」も登場~

(財団法人大阪21世紀協会提供)

 大阪は、古来より河川を利用した水運が盛んである。中世の堀川開削で、堀川沿いに次々と 町が生まれ、いつしか「水の都」と呼ばれるようになった。しかし、陸上交通の普及で舟運の活況は失われ、戦後の工業化の進展とともに、川が埋め立てられ、 人々は水辺から次第に遠のいていった。
水の都と呼ぶには程遠くなってしまったが、都市の四方が川で囲まれており、今なお大阪には、豊かな水資源が残されている。今回は、この資源を生かして水の都再生を目指す動きをレポートする。

水の都大阪の発展

大阪は長い歴史の中で、川、産業、人、暮らしが結びついて発展してきた町である。難波津 の時代(5~8世紀)には、人や文化が往来し、大陸と交易する国際港として栄えていた。秀吉の時代、堀川の開削が始まり、江戸時代には、「天下の台所」と して日本全国から物資が輸送され、文化、経済の中心として繁栄した。
明治時代に入っても、川には蒸気船が舟航し、人や荷物の運送など、生活、産業との関わりはなお深く、人々にとって、水辺は集いと憩いの場であった。

明治末期から高度経済成長期にかけ衰退

明治末期に入り鉄道が開通すると、舟運は急速に衰退していった。戦後にはモータリゼー ションが進展し、高度経済成長期には、数多くの川が埋め立てられた。高い防潮堤が建設され、大阪は産業都市として発展していったが、川は急激に汚れ、「汚い」「臭い」「危ない」というイメージが定着していった。この間、郊外にベッドタウンが広がり、職住の分離が進んだことで、人々の目は川から離れ、いつしか川の魅力は忘れられてしまった。

自然との共生をとりもどす

その後、汚れた川を復活させるため、浄化用水を流すなど、市を中心に様々な対策が実施され、1960年代後半に臭気を発するまで悪化していた水質は、70年代後半には改善され始めた。
また、1990年に開催された「国際花と緑の博覧会」が、経済成長の代償たる自然破壊を反省する機会となり、人々は都市と自然の共生を探求するようになった。
自然を見直す思いは水辺にも向けられ、うるおい、やすらぎといった親水空間を取り戻すべく、民間団体や地公体が徐々に活動し始めた。

水の都大阪の再生

2001年12月、大阪都心部の河川を対象とした「水の都大阪」の再生が、国の都市再生プロジェクトに決定された。これは、小泉政権下で「都市再生」がテーマとなり、大阪府が都市再生本部へ企画を提出し採用となったものである。
都市再生プロジェクトの決定を受け、2002年には、産学官で構成される「水の都大阪再生協議会」が設立された。同協議会では、水辺再生に向けての具体的な取り組みや、大阪内外に向けた情報発信について、活発な意見交換等がなされ、水都再生への気運が高まった。
地公体は主に、ハード面の整備に取り組んでいる。道頓堀川沿いでは、川面を感じられるよう、遊歩道が設置された区間もある。今後、さらにオープンテラスや フリーマーケットなどが立ち並ぶよう、遊歩道を広げていく計画である。また、船着場の整備にも取り組んでおり、特に、淀川舟運発祥の地であり、熊野詣での 出発点として賑わった「八軒屋浜」の再生に注力している。具体的には、天満橋から天神橋までの区間に水上バスの船着場を設置し、かつて舟の往来で賑わった 「八軒屋浜」を再現、舟運の活性化を目指していく構想である。

遊歩道の設置(とんぼりリバーウォーク) (大阪府提供)

遊歩道の設置(とんぼりリバーウォーク)
(大阪府提供)

一方、民間でも水上バスの運行に加え、各種イベントの開催など、ソフト面を中心とした動 きが活発になってきた。大阪水上バスは就航以 来20年を超え、長い年月にわたり、都心部の河川観光のけん引役となってきたが、新たに道頓堀川をコースに組み入れるなど、サービスの多様化に取り組んで いる。また、「落語家と行くなにわ探検クルーズ」と題し、大阪の名所を、軽妙な口調で語る落語家とともに周遊観光できるクルージングを実施しているところ もある。財団法人大阪21世紀協会では、船上でのウェディング、船上からの中之島の夜景鑑賞など、各種クルージングを実施してきた。
2003年 に「第3回世界水フォーラム」が開催された頃から、NPOやボランティアの取り組みも活発になってきた。水辺での音楽イベント、水上レストラン、物語発祥 の地を記念した「一寸法師レース」、カヌーで周遊しながらゴミ拾いを行う「リバーツーリング」、中之島公園でのナイトカフェ、水辺ナイトなど数多くのイベ ントが実施されている。

水辺ナイト ~きっと水辺が好きになる~ (NPO水辺のまち再生プロジェクト提供)

水辺ナイト ~きっと水辺が好きになる~
(NPO水辺のまち再生プロジェクト提供)

以上のように、都市再生プロジェクトの決定を契機に、「水の都大阪」再生に向けた様々な活動が行われている。経済活動による自然破壊 への反省から、川を水資源、文化資源として見直す気運が徐々に高まってきている。
根底には、脈々と受け継がれてきた、大阪住民の水への思いがあ るのではないだろうか。それを象徴するのが、毎夏開催される、天神祭りである。1,000年を超える伝統を持つこの祭りは豪華絢爛で、元禄時代には浪速の 繁栄のシンボルとして隆盛を極めた。祭りは数多くの船で賑わい、フィナーレの船渡御(ふなとぎょ)、奉納花火は世界に誇る水上祭典である。

天神祭り (大阪天満宮提供)

天神祭り
(大阪天満宮提供)

水陸両用バス登場

今年6月、日本で初めて、水陸両用バスが大阪市内を営業運行した。1台のバスで陸路と水 路の両方を走るという、実にユニークなものだ。陸地では車輪で走行し、水中では後部のスクリューで航行する。窓ガラスがないこの水陸両用バスに乗ると、町 の空気や川を肌で感じることができる。
ミナミのなんばパークスを発着点とし、堺筋から、造幣局、桜之宮公園、大川、御堂筋と回るのが、このバスの運行ルートである。2時間の運行時間のうち、大川を時速約10キロのスピードで、40分間クルージングする。定員は37名。
この水陸両用バスを大阪市内で運行させたのは、NPO法人「大阪・水かいどう808」(理事 長須知裕曠(すち やすひろ)氏)だ。大阪市内にかかる橋の低さと斬新さを考え、アメリカからバスを輸入したとのこと。2002年から、世界子ども水フォーラムのキャラバン 隊として、全国各地でこのバスを巡行させてきた。
水陸両用バスを利用した観光営業手法は、すでにアメリカなど世界数十カ所で採用されている。日 本では水陸にまたがる法律がなかったため、営業用バスとしての許可が降りなかった。しかしながら、度重なる行政との交渉の末、やっと営業用ナンバーを取 得、今年6月、1カ月間という期間限定で運行された。1日4便の運行であったが、どの便もキャンセル待ちがでるほど大盛況となった。桟橋の傾斜を下り水中 に突入する際、水しぶきとともに、乗客の大歓声が沸き起こったそうである。

水陸両用バス いざ大川へ! (大阪・水かいどう808提供)

水陸両用バス いざ大川へ!
(大阪・水かいどう808提供)

「地元の人々に、川にもっと目を向けて欲しい。水陸両用バスの営業運行の実施はその一環であり、今後も道頓堀川での遊泳大会の開催な ど、親水イベントを企画し実現させていきたい」と須知さんは言う。
水陸両用バスは、12月から通年運行となる。6月の試行運転期間と違い、増便、陸路のルート変更、キャンペーングッズの品揃え強化が図られている。来年には、新しいバスを購入するとのことで、全国の観光客にとって楽しみな計画だ。

大川をクルージング中 (大阪・水かいどう808提供)

大川をクルージング中
(大阪・水かいどう808提供)

イケチョウ貝で河川浄化

また、同法人は、河川浄化にも取り組んでいる。「水資源がきれいだからこそ人が集う」という考え方に基づくものだ。琵琶湖に生息する イケチョウ貝が水質浄化の役目を果たすという。イケチョウ貝は、水中の窒素やリンを取り込んだ植物プランクトンを食べ、1日にドラム缶1本分の水を浄化すると言われている。
2003年に道頓堀川へイケチョウ貝を入植し4年になる。イケチョウ貝は水質を浄化するとともに、真珠を産み出す。同法人では淡水真珠の養殖オーナーも募集しており、楽しみながら川をきれいにするという、市民参加型の試みとなっている。昨年からは、第二寝屋川、土佐堀川の桟橋への入植も始まっており、オーナーは増えているようだ。

水の都再生のまちづくりに向けて

都市機能が確立していることに加え、ビジネス以外にも、賑わい、憩い、集える場所を数多く備えており、人々がまた訪れたいと思うのが、魅力ある都市であろう。
世界各国で都市フォーラムなど様々な会議が開催される時代となった。国内外からの来訪者にとっては、アフターコンベンションとしての魅力も重要であり、せっかくの大阪の水辺を知らないまま帰したのでは、都市のPRにはつながらない。国内外に対して、「水の都大阪」の素晴らしさをPRし、伝え聞いた人が行きたくなるような仕掛けが必要だろう。
大阪では今、水の都再生のまちづくりムーブメントを創出する取り組み「水都大阪2009」を企画・準備している。この事業は、「川に浮かぶ都市・大阪」をテーマに、元気で楽しい大阪のまちづくりを目指し、ひいては国際集客都市の実現を目指すものである。国、地公体、経済界等によって構成される「水都大阪2009実行委員会」の主催であり、水都大阪を国内外にアピールする絶好の機会となりそうだ。成功すれば、水都再生に向けた起爆剤となるかもしれない。そのためには、2009年の開催に向けて、地元の人々を熱くさせる仕掛けが欠かせないだろう。
官民共同で取り組み始めた大阪の「水の都」としての再生に注目したい。

(原田 一志)

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