今年4月、瀬戸大橋は開通20周年を迎えた。瀬戸大橋開通により、四国と本州が初めて地続きとなり、その両端となる岡山と香川では様々な変化が起きた。
今回は、瀬戸大橋開通後20年の影響と、政令指定都市移行を目前に控えた岡山市についてレポートする。
移動時間が大幅に短縮
瀬戸大橋の開通で、四国と本州が道路と鉄道で結ばれたことにより、本州と四国の都市間の 交通経路や交通手段が大きく変化した。瀬戸大橋開通と、四国内の高速道路の整備が進んだ結果、四国と本州の都市間の移動時間は大幅に短縮された。車による 移動時間をみると、岡山~松山間では、架橋前の6時間から、現在では2時間38分と3時間22分の短縮となった。岡山市と四国内の各都市でも、移動時間は 大幅な短縮となり、岡山市の交通結節点としての役割が高まった。
岡山市から四国の県庁所在地への移動時間の変化
都 市 名 | 開 通 前 | 開 通 後 | 短縮時間 |
---|---|---|---|
松 山 | 6時間 | 2時間38分 | 3時間22分 |
高 松 | 2時間10分 | 1時間13分 | 57分 |
徳 島 | 4時間10分 | 2時間54分 | 1時間16分 |
高 知 | 5時間30分 | 2時間27分 | 3時間3分 |
資料:四国地方整備局、道路時刻表より
岡山と香川の交流が深まる
四国~本州間の移動時間の短縮に伴い、特に岡山と香川の交流は飛躍的に進展している。道路、鉄道、フェリーの旅客数をみると、瀬戸大橋開通前の87年は824万人だったが、2006年には開通前比2.4倍の1,969万人にまで増加した。
資料:四国運輸局、本州四国連絡高速道路株式会社道路の旅客数については、瀬戸大橋通行車両に普通車:2.0人、大型車:1.1人、特大車:10.9人、軽自動車:1.7人を乗じて推計
また、岡山~香川間の通勤・通学者数の推移を見ると、瀬戸大橋開通前と比べ、3.0倍に増加しており、今では瀬戸大橋を通る鉄道を通勤・通学の手段とすることが定着してきた。
資料:国勢調査
岡山は中四国の物流拠点に
交通結節点としての優位性が高まってきたことを背景に、岡山では中四国の物流拠点として物流企業の立地が相次いだ。倉庫面積の推移をみると、瀬戸大橋開通の前後から他県に比べて岡山県の伸びが著しく、94年には広島県を逆転し、中四国トップとなった。
岡山県で物流企業の立地が多かったのは、岡山市南部地区近辺である。このあたりは、岡山県内でも高速道路のインターチェンジに近く利便性に優れていたこと、比較的土地の価格が安く、必要とされる広大な土地が確保しやすかったことがその要因であると思われる。
※倉庫面積は、95年までは各年12月31日現在、96年以降は翌年3月31日現在
資料:中国経済産業局、四国経済産業局
四国側は立地が少ない
物流企業等の立地は本州側に偏り、四国側は軒並み苦戦している。瀬戸大橋開通を起爆剤にしようと、四国でも企業誘致を目指して、工場団地の整備を行ったが、企業誘致はなかなか進まなかった。
人口規模や製造業などの集積から、本州側で事業を展開するほうが、コスト面や将来の発展性から優位であると考えられたためである。
通行量は頭打ちに
瀬戸大橋が開通して20年になるが、その通行量は当初想定したようには伸びていない。
その要因としては、明石海峡大橋の開通などにより、四国~京阪神間の物流ルートとしての役割が減少したこともあるが、最も大きな要因は通行料が高すぎることにある。
現在の通行料は、坂出IC~早島IC間の普通車で通常片道4,100円、ETC特別割引適用で3,874円である。これは高松~宇野航路のフェリー代 3,300円(車両5m未満)に比べれば、時間短縮効果を考えると高くないとも言える。しかし、一般の高速道路料金27.5円/km(普通車で100km 走行した場合)に比べると橋の部分の料金は109.9円/kmと大幅に高く、このことが橋の利用が進まないことの大きな要因と言えるだろう。
資料:本州四国連絡高速道路株式会社
政令指定都市目前の岡山市
瀬戸大橋開通後、企業立地が進んだこともあり、岡山市では人口の増加が続いた。2007年1月には近隣の建部町、瀬戸町と合併した効果から、2007年8月には人口が70万人を突破した。
人口が70万人を超えたことにより、岡山市は政令指定都市の要件を満たすこととなり、2009年4月の政令指定都市移行を目指し、その準備を進めている。
資料:80年~05年は国勢調査07年 8月は岡山県毎月流動人口調査
政令指定都市になるメリット
政令指定都市になると、事務配分上の特例、行政監督上の特例、行政組織上の特例、財政上の特例といったメリットがあり、都市経営を自主的に展開することが可能になる。
<事務移譲>
岡山市では、児童相談所や小中学校教職員の任命といった法令に基づく移譲事務など約1,500の事務が岡山県から移譲されることになる。
移譲される事務の中でも道路事業は目玉の1つである。従来の市道約5,700kmに加え、市内すべての県道と県管理の国道の計約607kmが市の管理となり、市域内の道路の98%を市が管轄することとなる。
<区役所の設置>
政令指定都市移行に伴い、市内に4区の行政区を設け、それぞれに区役所が設置される。行政単位が細分化されることに加え、市議会議員が区ごとに選挙されるため、地域の特性を生かしたまちづくりや地域の実情に応じた市民サービスが可能になる。
<財政的にはプラス>
政令指定都市移行に伴い、軽油引取税交付金や宝くじ販売収益金などの新たな財源や地方交付税の増額が見込まれる。
岡山市の場合、単年度ベースで歳入増加額は約194億円、歳出増加額は164億円となり、差額 の約30億円が増収となる見込みである。
政令指定都市移行に伴う市財政への影響見込み(単年度見込み)
政令指定都市移行に伴う問題
政令指定都市移行にあたってはメリットばかりではなく、様々な課題がある。
<人材の確保> まず、移譲される事務に対応した専門員の確保や人材の育成が挙げられる。例えば、岡山市は、幹線道路のトンネルや大型橋を整備した経験がほとんどない。そのため、専門的な知識を有する人材が必要となり、ソフト面でも新たな対応が求められることとなる。 また、設置が義務付けられる児童相談所は、子供の命にかかわる重要な役割を担っており、虐待が疑われる家庭への立ち入り調査や一時保護など専門的な知識や経験を持った人材の確保が必要となる。 |
<財政再建> 政令指定都市移行に伴い、県から移譲される権限や財源は大幅に増加する。その一方で、借入金も県から市へ移ってくる。県が国道や県道整備のために発行してきた岡山市域分の県債(借入)償還金172億円を岡山市が負担することになる。 現在、岡山市の財政状況は厳しい状態にある。収入に占める借金返済負担の割合を示す実質公債費比率は、2006年度で23.1%と中核市37市中、最下位となっている。そのため、増収を利用して財政再建を行うことが急務である。 |
<隣接都市との連携> 岡山市の人口は、政令指定都市では一番少ない。しかし、隣接する倉敷市を含めた都市圏人口でみると、広島市や仙台市に匹敵する150万人規模の都市圏人口 を有する。岡山市が、中四国における広域交通の結節点という特長を生かしながら中四国の中核都市となるには、隣接都市との連携を通じて、人口や経済集積の 相乗効果を生み出して行く必要がある。 |
おわりに
2009年4月、岡山市は、中四国では広島市に次いで2番目の政令指定都市になる見込みである。道州制が現実化した場合には、瀬戸大橋や高速道路網など充実した交通基盤を背景に、岡山市の役割や存在感はさらに高まるだろう。
(篠原 敏夫)