プロ野球・セントラルリーグに所属する広島東洋カープの本拠地として広島市民に愛され、昨シーズン最終戦では、3万人を超えるファンに別れを惜しまれた広島市民球場が、半世紀余りの歴史に幕を下ろす。
そして、来シーズン開幕に向け、球団の新たな本拠地となる“新広島市民球場”の完成が、目前に迫っている。
市民に愛された球場
現在の広島市民球場は、広島市の中心部に位置し、世界遺産にも登録された原爆ドームと向かい合う中央公園内にある。
「広島にもナイター球場を」との市民の声に、1957年、地元企業10社の寄付により、わずか5ヵ月間の工事で球場が建設され、同年7月には、広島初のプロ野球のナイター戦が行われた。
広島市が所有し管理するこの球場は、「被爆都市ヒロシマ」の復興シンボルとして、カープ球団とともに市民に愛された、まさに広島市民の球場であった。
新球場建設への道のり
このように長い歴史を誇る市民球場であるが、球場設備の老朽化が進み、施設機能面でも多くの課題を抱えていたこともあり、市民、地元経済界などの間で、新球場の建設を求める声があがり始めた。
そして、2004年の球界再編問題をきっかけとして、「カープがこれからも広島を本拠地として活躍し続けるためにも新球場の建設を」との気運がファンや市民の間で高まった。
こうした動きを受け、2004年11月に、県・市・地元経済界、スポーツ団体等の官民の代表で構成された「新球場建設促進会議」が設置され、翌年3月の同会議において、新球場建設の方向性がとりまとめられた。
また、促進会議設置と同じ2004年11月に、地元マスメディアが中心となって、「たる募金」と呼ばれる新球場建設資金を集める募金活動が開始され、2005年11月までに1億2千万円余りの募金が集まった。
これらの後押しにより、新球場建設の歯車が大きく動き出した。
新球場の建設場所を巡っては、現在地での建替えか、旧国鉄の貨物ヤード跡地での建設かという議論もあったが、技術面や資金面から検討が行われた結果、貨物ヤード跡地での建設となった。
そして、2006年10月には、設計提案競技が実施され、国内外から寄せられた20の応募作品の中から、当選作品が決定された。
その後、広島県、広島市、地元経済界との間 での建設資金負担の合意や建設工事の入札など、いくつかの大きな課題を乗り越えて、ようやく長年の市民の夢が現実のものとなった。
市民の愛情あふれる「たる募金」
ところで「たる募金」とは何か? その起源は、カープ球団苦難の船出までさかのぼる。
1950年、親会社を持たない市民球団として設立されたカープは、最初のシーズンから資金難に陥り、解散や他球団との合併もささやかれた。
その翌年、カープを救うべく、市民によるカープ救済の募金活動が始まり、当時の本拠地である広島総合球場(現県営球場)の正面入り口に募金を入れる大きな樽が設置された。
この募金活動が、募金で球団経営を支える後援会組織結成につながり、カープ存続に大きな役割を果たした。
この「たる募金」は、市民のカープへの愛情を示す代名詞として語り継がれた。そして、市民の愛情が半世紀振りに「たる募金」を復活させ、新球場建設への大きな原動力となったのである。
「夢のボールパーク」誕生
そして、今までにない新しいスタイルの野球場が、JR広島駅近くに誕生する。
この新球場は、2007年に着工され、総事業費は約144億円(建設費90億円、用地取得費54億円)に上る。
新球場の特徴を一言で言えば、「大リーグ球場のような観客視点に基づいた設計」である。
そして、日本では数少ない「内外野とも天然芝のオープン球場」という点が最大の魅力だ。
また、北側のレフトスタンドを開放的な造りにして、オープン球場の開放感をさらに高めている。今年7月には場外向けの電光掲示板も設置され、球場のすぐ北側を走るJR山陽本線や山陽新幹線の車窓からも、球場の熱気を感じ取ることができるだろう。
観客視点の設計は、観客席も大きく変えた。約3万席の座席は、大リーグ球場並にゆったりと広く設けられている。スタンドの勾配も緩やかで、お年寄りや子供でも楽に移動できるようになっている。
1階観客席の後方には最大12メートル幅もある段差のないコンコース(通路)が巡らされ、グラウンドを眺めながら球場を一周することも可能だ。
ほかにも観客を楽しませる工夫が、随所に施されている。ライト側のホームチーム応援席を多くした左右非対称のスタンドや熱烈なファン向けの「パフォーマン スシート」、臨場感あふれる「砂かぶり席」、ゆっくりと観戦を楽しみたい人のための「スイートルーム」や「パーティーフロア」も設けられている。
新球場には、ネーミングライツ(命名権)も導入され、地元を代表する自動車メーカーのマツダが獲得、命名権上の名称は「MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島」に決定した。
「夢のボールパーク」と呼ぶにふさわしい、広島の新しい顔となる球場が、いよいよ完成する。
スポーツの街「ボールパークタウン」
新球場だけでなく、周辺でも大きな事業が進行している。
三井不動産が中心となって、「スポーツ」をテーマにした集客施設を開発することが計画されている。
「広島ボールパークタウン」をコンセプトにしたこの開発事業は、総事業費160億円。大型スポーツ店やホテルなどが立ち並ぶA地区と、大型スポーツクラ ブ、複合エンタテインメント施設や分譲マンションなどで構成されるB地区に分かれ、AB両地区が新球場を挟む形となっている。
2009年9月の着工、2010年度中の完成を予定しており、これらの施設が完成すれば、プロ野球が開催されない日も含め、年間を通して球場周辺のにぎわいが生まれるだろう。
球場跡地利用の行方
新球場の完成により、球場としての役目を終える現球場の跡地をどうするか。市民に愛された球場だけに、その跡地利用についても、市民の関心は高い。
現在の球場がある中央公園は、都市公園法による規制を受けるため、建設可能な施設には制限がある。
広島市では、都市公園としての利用を基本方針としたうえで、民間の活力とノウハウを最大限活用した跡地利用を検討していた。
そして今年1月、広島市は「現球場跡地利用計画」をまとめた。
その主な内容として、球場跡地の中心部には、市民が集い、交流する場として様々なイベントの開催が可能な「市民広場」を整備する。広場の周辺には、緑地スペースの「市民の森」も整備する。
また、当初は、球場全体を解体する計画であったが、球場施設の保存を求める市民の声が多く寄せられたことから、ライトスタンド側の一部を残し、広場で開催されるイベントの観客席として有効活用を図ることとした。
その他、国内外から寄せられる折り鶴を展示する「折り鶴ホール」や、公園を訪れる多くの市民や観光客のためのレストハウス「森のパビリオン」などの施設も整備する。
現球場の解体工事着手は、早くても今年の秋以降になる見込みで、今回整備する広場や緑地などは、2012年度中の利用開始を目指している。
また、将来的には、劇場・文化施設等の整備も検討している。
僕らのカープ 新球場でも「ALL-IN」
広島市では、都市公園としての利用を基本方針としたうえで、民間の活力とノウハウを最大限活用した跡地利用を検討していた。
そして今年1月、広島市は「現球場跡地利用計画」をまとめた。
その主な内容として、球場跡地の中心部には、市民が集い、交流する場として様々なイベントの開催が可能な「市民広場」を整備する。広場の周辺には、緑地スペースの「市民の森」も整備する。
また、当初は、球場全体を解体する計画であったが、球場施設の保存を求める市民の声が多く寄せられたことから、ライトスタンド側の一部を残し、広場で開催されるイベントの観客席として有効活用を図ることとした。
その他、国内外から寄せられる折り鶴を展示する「折り鶴ホール」や、公園を訪れる多くの市民や観光客のためのレストハウス「森のパビリオン」などの施設も整備する。
現球場の解体工事着手は、早くても今年の秋以降になる見込みで、今回整備する広場や緑地などは、2012年度中の利用開始を目指している。
また、将来的には、劇場・文化施設等の整備も検討している。
2009年シーズンのキャッチフレーズは「ALLIN“烈”」に決定した。ユニホームも一新され、ファンの熱烈な応援を受け、選手たちは烈風・烈火の如く戦い、上位進出を目指す。
新球場でのプロ野球公式戦の初戦は、4月10日に行われる広島-中日戦に決まった。
シーズン開幕前の4月4日には、ファン2万人を招待して『新球場グランドオープン鯉祭り』と題した新球場の開場イベントが行われる。
また今年は、7月のオールスターゲーム第2戦が新球場で開催されるなど、ファンにとっては楽しみが多い1年になりそうだ。
21世紀の広島のシンボル
現在、JR広島駅周辺でも大規模な再開発が進められており、新球場、駅周辺再開発、そして球場跡地利用による相乗効果で、広島の街に、活気があふれることを期待する声も多い。
新球場が、現在の市民球場のように市民に親しまれ、愛情を注がれる存在になれば、広島の街を活性化させる起爆剤としての役目を果たすことだろう。
「復興のシンボル」から「21世紀の広島のシンボル」として生まれ変わる新広島市民球場に期待したい。
(石川 良二)