高知県幡多幡 多地域では6市町村が連携し、「なんにもないのになんでもある」をテーマに、「環境・体験型教育旅行」を中心とした都市と農山漁村の交流活動を展開している。そのことが評価され、平成20年3月には「第5回オーライ!ニッポン大賞(※)」でグランプリ(内閣総理大臣賞)を受賞した。
今回は、幡多地域の「環境・体験型教育旅行」の取り組みをレポートする。
オーライ!ニッポン大賞とは
全国の都市と農山漁村の共生・対オーライ!ニッポン大賞とはオーライ!ニッポン大賞とは流に関する優れた取り組みを表彰し、もって国民への新たなライフスタイルの普及定着を図ることを目的として、オーライ!ニッポン会議(代表:養老孟司東京大学名誉教授)、農林水産省ほかの主催で実施されている。
幡多地域
幡多地域は高知県の西南に位置しており、6市町村(四万十市(旧西土佐村、旧中村市)、土佐清水市、宿毛市、黒潮町(旧佐賀町、旧大方町)、大月町、三原村)で構成されている。
本地域には豊かな自然環境、文化や歴史を始め、日本の原風景が色濃く残っており、大きな財産となっている。
「豊かな自然」に囲まれた地域
幡多地域は、全国ブランドとなった四万十川を始め、自然を生かした豊富な体験メニューがあり、カヌーやホエールウォッチングなどは、全国屈指の地域である。また、山・川・海と自然がすべてそろっているのも強みである。本地域には訪れた人を癒してくれる空間があり、全国から多くの人を呼び込んでいる。
独自の「産業と暮らし」が残る地域
幡多地域には、豊かな自然に育まれてきた産業や暮らしがある。特に山・川・海といった恵まれた自然環境の中で、第1次産業が地域の暮らしや文化に深く関わっている。
カツオ船の出港や川猟などの第1次産業を中心とする暮らしの風景に出会え、伝統的な祭りや郷土食などが残っているところだ。
豊かな自然に育まれてきた「人」
幡多地域の人は、豊かな自然の中で生活しており、陽気で人なつっこく、誰とでも気軽に話 ができる人が多いという。愛媛で言うところの南予の人に似ているのではないだろうか。飾りっ気がなく、すぐにうちとける人柄で、訪れた人を地域の人が一体 となってあたたかく迎えてくれる。このことも、人を引き寄せる1つの魅力となっている。
幡多広域観光協議会の概要
平成5年頃から、幡多地域の豊かな自然に着目した教育機関などから「体験学習を行いた い」との問い合わせが、各市町村に入り始めた。これをビジネスチャンスとして捉え、平成7年に全国に先駆けて、教育旅行等による交流人口の拡大を図ること を目的に、市町村と民間企業が連携して幡多広域観光協議会を設立した。
現在は、行政からの支援の元で、専属の職員を1名雇用し、6市町村及び4市町観光協会と連携して教育旅行の誘致を推進している。
主な活動は、大手旅行代理店へのプロモーション活動や教育旅行の受付、旅行のプログラムのコーディネート、インストラクターの育成などである。
教育旅行の実績
本協議会を通じた教育旅行の受入は、年々増加傾向にあり、平成20年度(2月末現在)には団体数は21団体、受入数は2,510名となっている。その直接経済効果は、5,000万円を超えているという。
教育旅行のほとんどが、県外からの中高校生で、中学生は関西から、高校生は関東からの修学旅行としての受入である。近年では小学校においても、夏休みなどを利用して教育旅行を実施する動きがあり、環境・体験型の教育旅行のニーズは年々高まっている。
訪れる団体の多くは、教員や旅行代理店の口コミによるものだという。
全国から教育旅行を誘致できる理由
本協議会が、全国から教育旅行を誘致できる理由としては、前述した地域資源のほかに次の3点が挙げられる。
~受付から精算まで窓口の一本化~
平成16年までは、教育旅行の紹介窓口として、教育機関のニーズに応じて受入施設を紹介 することにとどまっていた。平成17年以降は、広域エリアの「総合受入窓口」として、誘致から受入、精算まで一括処理する組織として活動を行っている。このことで、旅行代理店との交渉がスムーズとなり、旅行プログラムの構築も容易となった。
幡多広域観光協議会の受入システム
~インストラクターの育成~
体験プログラムをサポートするインストラクターは幡多地域全体で500名を超えており、住民が一体となった受入体制が整備されている。
また、インストラクターの資質を向上していくために、年に2回程度外部講師を招いて、教育旅行の意義や先進地域の事例などについて研修を実施している。
実際に研修に参加するインストラクターは数十名ではあるが、研修参加者は各地域のインストラクターに研修内容を伝え、意識の共有化を図っている。
~100を超える体験プログラム~
「環境・自然体験」「スポーツ体験」「生活・文化体験」「歴史体験」「産業体験」に分けられた100を超える体験プログラムが用意されており、一年中楽しめる。
本協議会は、設立当初からこのような多くのプログラムを保有していたわけではない。担当 者と行政と地域の住民が一体となって、できることは何かと考え、地道に築いていった結果が100を超えるプログラムとなっている。
担当者は、「単に募集し待っているだけでは、プログラムはできない。自ら足を運び、多くの人の協力を得て、全員が教育旅行の意義を理解して初めて、1つのプログラムとなる」と言う。現在、これらのプログラムは幡多地域にとって大きな財産となっている。
人気のプログラム~かわらっこ「カヌー体験」~
「かつおたたき作り体験」「塩作り体験」「カヌー体験」などが人気プログラムとなっている。
その中で今回は、かわらっこ(事務局長伊与田真哉氏)が運営する「カヌー体験」についてレポートする。
教育旅行に来た生徒の中で、これまでにカヌーを経験したことのある人はまずいないという。プログラムの時間は3時間で、最初にカヌーの操作方法について説 明を受けた後、川下りにチャレンジする。本プログラムでは、1回に100名程度受け入れることができる。修学旅行で来た生徒200名を、午前・午後の2回 に分けることで全員が体験できるのも人気の1つになっている。
体験中には転覆する人もいる。しかし、要所要所にインストラクターを配置することで、安全を確保している。伊与田氏によると「自然が相手なので、100%の安全を確保することは難しい。しかし、事故が起きれば元も子もないので、安全には細心の注意を払っている」そうだ。
カヌー体験の教育効果を尋ねると「カヌーを操り、自力で目的地に到着することで、最後まで自分でやり遂げる力を養うことができる」と言う。
本プログラムにはリピーターが多いのも特徴である。リピーターの中には、教育旅行を引率した教員が自分の家族を連れて来たり、修学旅行で来た生徒が親を連れて来たりすることもよくあるそうだ。
今後の期待のプログラム~生活体験~
現在、生活体験(ホームステイして農作業などの生活を体験)ができる施設として、地元民 家を活用している。生活体験が可能な民家は年々増加しており、50軒以上の民家が生活体験可能先として登録されている。幡多地域には、一度に100名程度 の生徒を受け入れることのできる集落がある。全国的に見ても、一度にこれ だけの生徒を受け入れられる地域は少ない。生徒を受け入れた農家・漁家の中には、それをきっかけに民宿の開業に踏み切るケースも出てきている。
実際に子供たちを受け入れた農家に話を聞いてみると「子供を一度受け入れると自分の孫のように思える。年賀状のやり取りなどを続けるケースも多く、立派に 成長してくれることを楽しみにしている」「正直、はじめは、他人を家に泊めることには抵抗があった。しかし、泊めてあげると一日でも情が移り、別れ際には 涙が出てしまう」と言う。
利用者も「普段は接することのない体験ができた。農業に親しみがもてるようになった」、「初めは緊張したが、人と触れ合うことがこんなに楽しいとは思わなかった」などの感想を残しているそうだ。
「教育」としての効果も出てきている。教員からは、「農家に泊まり、農業の生活体験をした結果、食材の大切さを理解し、給食の残飯率が大幅に低減した」、 保護者からは、「家の手伝いを積極的に行うようになった」などの声も多数寄せられている。このことからも、今後の新たな教育旅行のスタイルとなる可能性を 大いに秘めていると言えよう。
おわりに
このように幡多地域は、地域住民が一体となって教育旅行を受け入れる地域としての存在感が一段と増している。
「施設見学型」から「体験型」へ教育旅行のパターンが変化している。その中で、幡多地域の取り組みは内外から注目されており、今後、教育旅行の受入先進地域として、大きな期待が寄せられている。
(友近 昭彦)