東日本大震災以降、再生可能な自然エネルギーの利用が注目を集めている。
今回は、震災以前から自然エネルギーを活用したまちづくりに取り組んでいる梼原町をレポートする。
梼原町の概要
梼原町は高知県の西北部、愛媛との県境に位置する。四国カルスト高原を有する四国山地の山間地帯に属し、四万十川の渓谷と急峻な山々に囲まれた自然豊かな町である。
久万高原町、西予市、鬼北町と隣接することから愛媛県との交流が深く、梼原町民は温和な愛媛県人の「もてなしの心」を持っていると言われている。
人口は約3,800人で、年々減少しており、高齢化率も41%と高い。
町の面積は2万3千haと広いが、その9割が森林である。森林のうち1万8千haが民有林でその7割がスギ・ヒノキを主とする人工林となっている。
共生と循環のまちづくり
梼原町の自然エネルギーを活用したまちづくりの取り組みは、1999年の新エネルギービジョンの策定にさかのぼる。
2001年には、「森林と水の文化構想」として、「健康(いのち)」、「教育(こころ)」、「環境(あんしん)」をキーワードに第5次梼原町総合振興計画を策定した。「この計画は、町民の代表が集まり、自分たちのまちがどのような方向に進んでいくべきなのか、町長と真剣に話し合った結果できたもの」とのことだ。この計画に基づく施策を着実に進め、今日の梼原町の姿となった。
具体的には、公共下水道を整備したり、風力発電施設を設置したり、棚田オーナー制度を導入したりするなどして、自然との共生を進めた。また、循環型社会の形成のために、町産材を積極的に利用したり、木質バイオマス地域循環利用プロジェクトを立ち上げたりした。
町産材の積極的利用
梼原町では、地元のスギやヒノキなどの町産材を公共の建物に積極的に利用している。その象徴的な建物が、梼原町総合庁舎である。梼原町総合庁舎は、近代的ではあるが木材をふんだんに利用することで、梼原町を囲む森の中に溶け込んでいる。太陽光や地熱などの自然エネルギーを積極的に利用しており、梼原町が進める施策をパッケージングしたような建物である。
2009年には、建築物の環境性能を評価・格付けする機関から、最高ランクであるSクラスの正式認定を受けたほか、国内外から様々な賞を受賞している。
町の職員に、庁舎で働く感想を聞くと「近年特に、エネルギーの利用方法が見直されるようになり、先進的な建物の中で働くことを誇りに思う」との答えが返ってきた。
町中を散策すると、多くの木造の建築物が目に入ってくる。統一感を持たせるために国道440号沿線の建物の外観を条例で規制し、助成も行っている。町全体が森と一体感を持っており、町を歩くだけで観光となる。
町道にかけられた木造の橋や小学校なども、立派な観光資源になっている。
FSCによる森林認証を取得
梼原町は四万十川の源流域に当たるため、森林保護は四万十川の水質・水量を確保するために重要とのことだ。
梼原町森林組合は、国際的な審査機関である森林管理協議会(FSC:本部ドイツ)の森林管理に関する認証を中・四国で初めて取得した。この実績が、海外からも注目され、先般開催されたロンドンオリンピックで使用したエレベータの梱包材として、梼原産の木材が使用された。
風ぐるま基金の設立
梼原町では1999年に総工費4億4,500万円をかけて、発電能力600kwの風力発電設備を2基設置した。年間平均発電量は2,740Mwhで、当初計画の9割程度だそうだ。問題は、部品などの修繕が発生した場合、海外製の風車なので国内メーカーの風車より、部品調達などでメンテナンス等に時間がかかることである。また、台風によって基礎に亀裂が入り動かせなくなったなどのトラブルも多いと言う。
売電収入は年間約3,200万円(売電単価11.5円/kw)である。この収入で風ぐるま基金を設立し、梼原町の環境事業を行っている。基金の主な使いみちは、太陽光発電設備、木質ペレットストーブ、小水力発電などを導入する際の助成や、森林整備など多岐にわたる。
今後は、老朽化した風力発電設備の更新を含めて、8基程度の建設を計画しているそうだ。
間伐材をペレットとして活用
森林保護のため、森林所有者には助成を行い計画的な間伐を実施している。2008年には、間伐材を有効活用するため、木質ペレット工場(総事業費247,486千円)を建設した。工場稼動当初(2008年)のペレット製造量は242tであったが、2011年には1,200tと5倍になった。
落差を活用した小水力発電
梼原川の6mの落差を利用して、小水力発電(最大出力53kw)を行っている。小規模ではあるが、昼夜問わず安定的に発電ができるため、年間260Mwh程度の発電量がある。発生した電気は、昼間は地元中学校へ供給し、夜間は街路灯(82基)に供給している。
担当者によると「中山間地が多い四国では、小水力発電の可能性は大きいと思う」とのことだ。しかし、取水量の規制緩和(小水力発電施設には1秒間に1.2m3までしか取水が認められていない)や水利権の調整など、クリアしなければならない課題もあるそうだ。
人づくり
環境にやさしい循環型社会を構築していく上で最も重要なのは、「自然エネルギーを活用した発電事業」や「森林保護」などの施策を実行していくための「人材」だそうだ。
特に自分のふるさと(地域)は自分で守っていくという住民意識の高まりが必要だと言う。地元だけで人手が足りない場合は、梼原町の取り組みをアピールし、共感する企業の支援を仰いでいくことなども必要とのことだ。
森林セラピー
「人」が「森」を守れば、「森」は「人」を守ってくれるという考えから、梼原町では独自の「森林セラピープログラム」を策定している。その効果を地元の大学病院と連携して測定したところ、「血圧低下、血糖低下」「免疫機能の強化」など様々な森の効果が実証されたと言う。今後は、森林セラピープログラムを、現代に生きる人々を癒すプログラムとして強化していきたいとのことだ。
環境モデル都市に選定
このような取り組みが評価され、2009年に梼原町は「環境モデル都市」に選定された。
梼原町では1990年と比較し、温室効果ガス排出量を2030年に50%、2050年に70%削減、二酸化炭素吸収量を2030年に3.5倍、2050年に4.3倍にすることを目標としている。
この目標が達成されると、2050年には二酸化炭素の吸収量が排出量を大幅に上回ることになる。また、2050年頃までには、風力、水力などを活用して電力自給率100%超を目指している。
今後の課題
自然エネルギーを活用していくための課題は、「国による自然エネルギー関係の目標数値の明確化」と「森林を国民全体の資源として活用していく施策の策定」とのことだった。
梼原町では身の丈にあった無理のない施策を着実に進めていき、東南海大地震等の災害時でも自給電力の確保が出来、蓄電技術の応用で、化石燃料に依存しない電力自給率100%を達成し、山村型低炭素社会を目指していくとのことである。
おわりに
今年の3月に、ドイツの環境活動家エアハルト・シュルツ氏が来町された。福島視察後、先進的な環境への取り組みを見学したいという本人から強い希望があったそうだ。このように梼原の取り組みは内外から注目を集めており、今後他の地域へ波及していくことを期待したい。
(友近 昭彦)