はじめに
昨年12月13日、山口県岩国市に国内98番目となる岩国空港(※)が開港した。同空港は、米軍岩国基地の滑走路を利用した軍民共用の空港である。米軍基地に民間航空の定期便が就航するのは青森県の三沢空港に次いで国内2ヵ所目で、米軍が日本の民間機を管制するのは当空港のみである。
空港の愛称は、全国約4,000件の応募の中から「岩国錦帯橋空港」が選ばれた。
今回は、地元の大きな期待を受けて開港した岩国錦帯橋空港(以下、錦帯橋空港)についてレポートする。
(※)正式名称:岩国飛行場
空港再開までの経緯
錦帯橋空港は、1938年に旧日本海軍の航空基地の飛行場として整備され、52年、在日米軍の基地となり、58年には米海兵隊の岩国航空施設となった。並行して52年に民間空港として開港、羽田空港に次ぐ2番目の「国際空港」となり、国際線も就航した。しかし、61年に当時の広島空港(のちの広島西飛行場・2012年11月閉港)の開港を契機に利用客が減少し、民間航空路線も縮小、64年12月以降定期便は就航していなかった。
88年に岩国商工会議所の青年部が空港再開に向け呼びかけを始め、当時の知事が「県内に空港が2つあってもおかしくない」と議会で発言し、空港設置の可能性を示唆したことで、空港再開への動きが強まった。
90年12月に、岩国市議会が県および政府に岩国地域への民間空港設置を要望し、96年には、地元経済界が中心となり空港設置を要望する署名を7万人分集めた。これらを背景に、山口県や岩国市、地元の推進団体において、空港再開に向けて積極的に取り組んだ結果、2005年10月に1日4往復の民間航空機の運航が認められ、2012年12月13日、実に48年ぶりの開港となった。
錦帯橋空港の特徴
錦帯橋空港は米軍基地の一角にあるため、普段は間近で見ることができない軍用機の飛んでいる姿などを目にすることができ、軍用機マニアには嬉しい空港である。
また、基地の既存設備を最大限活用していることも大きな特徴である。例えば、米軍と民間航空機が滑走路、管制塔等を共用し、施設整備費用を抑えている。なお、基地施設の利用のため、民間用駐機場と基地の誘導路との間には航空機専用の電動ゲートが設けられ、使用時のみ開けられる。
空港ターミナルビルは、機能的かつシンプルな構造となっている。エントランスをはじめ建物の壁はコンクリートではなくガラス張りで、明るく開放的な空間になっており、1階ロビーからも駐機中の航空機を見ることができる。また、反り返った屋根が特徴的な展望デッキも備えている。
アクセスの良さも特筆できる。例えば、JR岩国駅からは車で10分圏内にあり、山陽新幹線新岩国駅からは車で約25分、山陽自動車道の岩国ICからは約25分となっている。岩国市中心部から非常に近いため、住民が自転車で訪れることができるよう、駐輪場も設置されている。駐車場は607台分備えており、航空機搭乗者は無料、送迎者も1時間無料となっている。
ビジネス、観光への期待
山口県東部の岩国地域は、山口宇部空港まで約120km、広島空港まで約100kmにあり、両空港のほぼ中間に位置する空港空白地であった。しかしながら、今回の開港により、岩国-羽田間が約90分で結ばれ、ビジネス・観光ともに利便性が飛躍的に向上する。岩国発の第一便は早朝7時台、最終便は18時台、また羽田発の第一便は9時台、最終は19時台となっており、いずれからも日帰りが可能である。
このため、山口県東部の工業地帯を中心としたビジネス客の利用が期待できる。山口県東部地域の行政、経済団体、観光団体等の41団体が設立した岩国錦帯橋空港利用促進協議会は、地元企業に錦帯橋空港の積極的な利用促進に取り組んでもらおうと「どんどん使おう!宣言事業所」への参加を呼びかけた。参加事業所は、空港を利用すること、社内に空港ポスターやのぼりなどを掲示し、積極的に空港をPRすることを宣言する。
山口県は、この空港開港を契機に、県の観光部門を民営化したという設定で、架空の会社「(株)おいでませ山口県」を11月9日に設立。初代社長には人気マンガの主人公、地元岩国出身の島耕作を起用し、初仕事として、主に首都圏からの観光客をターゲットとする「岩国錦帯橋空港開港!やまぐち往還観光キャンペーン」を同日から開始した。同社には、山口県の多彩な食の魅力を紹介する「食べちょる課」、おすすめの温泉地を紹介する「泊まっちょる課」、とっておきの体験や特別企画を紹介する「楽しんじょる課」があり、同社の専用サイト(http://www.oidemase.or.jp/company/)でのPR等で、観光振興につなげる考えだ。
岩国市には、日本三名橋の1つである錦帯橋、岩国城、国の天然記念物「岩国のシロヘビ」などの観光資源がある。しかし、岩国市の調査では、錦帯橋を訪れる観光客の9割は同市に宿泊しないという厳しい結果が出ている。今後、岩国市は、山口県西部との連携、そして東に隣接する広島県が誇る世界遺産・宮島や原爆ドームなど広島県との連携も強め、観光客・滞在時間を増やすべく、取り組んでいく。そのほか、岩国市で行われるマラソン大会参加への呼びかけや、民泊体験など自然体験型ツアーによる修学旅行誘致も検討している。
年間搭乗目標は40万人
日本は空港淘汰時代に突入し、国内の空港、特に地方空港の先行きは、必ずしも明るいとは言えない。国土交通省では、今年3月に開港する新石垣空港建設後しばらくは、空港を新設しない方針を示している。
近年開港した空港の中には搭乗者数が伸び悩んでいる空港もあるが、岩国市や地元経済団体は、羽田便のある錦帯橋空港には競争力があるとみている。岩国から東京までは、新幹線で5時間程度かかり、新幹線利用と航空機利用の境界とされる4時間を超えている。このことから、山口県東部や広島県西部と東京間の移動において鉄道を利用していた旅客を取り込むことによって、ビジネス・観光を合わせて、年間搭乗者数の目標を40万人と設定している。
開港後1週間の平均搭乗率は80%を超え、好調な滑り出しとなった。また、ターミナルビルも見物客や利用者で連日にぎわっており、ビルを運営する岩国空港ビルは「新たな観光スポットになりつつある」と期待を膨らませている。
おわりに
空港開港は、地元経済界、住民の悲願であり、周辺住民の反対はほとんどなかったようだ。それだけ地元の期待が高いことがわかる。私は、開港1週間後に訪問したが、ロビー、展望デッキとも、見物客や搭乗者などで賑わっていた。
かつては、マリリン・モンローが新婚旅行で降り立った岩国飛行場(錦帯橋空港)、山口県東部の空の玄関口として発展することを期待する。
(川原 隆司)