徳島県鳴門市と兵庫県の淡路島を結ぶ大鳴門橋が1985年6月に開通してから30周年を迎えた。1998年に開通した明石海峡大橋と合わせて、四国と本州を結ぶ大動脈として、その役割を増してきた。
今回は、大鳴門橋の歴史を振り返り、今後の一層の活性化に向けた取り組みを紹介する。
開通30周年の記念イベント
大鳴門橋は、2015年6月に開通30周年を迎えた。鳴門市で開かれた記念セレモニーで は、大鳴門橋を背景に、徳島、兵庫の両県知事があいさつし、両県の発展と交流の拡大を誓い合った。また、両県の高校生による書道パフォーマンスやジャズ演 奏、伝統芸能の阿波おどりや人形浄瑠璃が披露され、祝賀ムードを盛り上げた。
開通30周年の記念イベントは、3月から11月にかけて順次開催されている。
大鳴門橋の歴史を振り返る
大鳴門橋は、本州四国連絡橋の1つとして計画され、1976年5月に着工、1985年に開 通した全長1,629mのつり橋であり、開通当時は東洋一の「夢の架け橋」と呼ばれていた。なお、1998年に開通した明石海峡大橋は全長3,911m で、現在でも世界一の長さを誇るつり橋である。
橋の架かる鳴門海峡は、「鳴門の渦潮」で知られる急流の海峡である。潮の流れに与える影響を最小 限に抑える多柱式の主塔基礎の採用など、安全性とともに渦潮や景観に配慮した工夫が加えられた。また、橋の耐用年数は200年を想定しており、維持管理に は、予防保全に基づく最新の技術が導入されている。
開通初年度の交通量は1日平均7,853台であったが、明石海峡大橋が開通して本州とつな がった1998年度には16,500台/日を超え、2014年度は23,626台/日まで増加した。この間、2009年の高速道路の「休日上限1,000 円」など通行料金の変動も増加の大きな契機となった。
このように、大鳴門橋の開通は、物流と人の流れに大きな影響をもたらした。
架橋効果による時間短縮だけではなく、天候に左右されず24時間いつでも輸送が可能になったことから、生鮮食料品などの流通は拡大し、交通量の4分の1を占める大型車の通行台数も増加傾向にある。
また、徳島から大鳴門橋経由で本州に向かう高速バスは一日100便を超え、日常の足となっている。県外からの観光客入込数も、1998年を境に700万人 台が定着し、2009年には800万人を超えた。徳島県内の高速道路延伸に伴って、県西部や県南部の観光客を増やす効果も表れている。
こうした観光客増加の一方で、買い物客の神戸や大阪への流出といったストロー現象が課題となっている。
本四架橋の3ルート
本四架橋は、それぞれ特徴、地理的要因が異なる3ルートがあるが、大鳴門橋を含む神戸―鳴門ルートの交通量が最も多く、全体の46%を占めている。
ルート | 延 長 | 開 通 | 普通車料金※ | 県境交通量(2014年度) | 主な特徴 |
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神戸―鳴門 | 89.0km | 1998年4月 | 3,280円 | 23,626台/日 | 関西圏に最も近い |
児島―坂出 | 37.3km | 1988年4月 | 2,270円 | 20,869台/日 | 最初に開通、鉄道併用橋 |
尾道―今治 | 59.4km | 1999年5月 | 2,890円 | 6,926台/日 | 徒歩や自転車でも通行可能 |
(※ETC搭載車の平日料金)
観光資源としての鳴門海峡
大鳴門橋は、その周辺も含め、魅力的な観光スポットである。
大鳴門橋のふもとにある鳴門公園は、橋と海峡、渦潮を眺める素晴らしい眺望に恵まれている。
大鳴門橋の下側(当初の鉄道用スペース)にある観光施設「渦の道」には、450mの遊歩道と渦潮展望室が設置されている。ここでは、橋の高さからの眺望や真上から見る渦潮を楽しむことができる。
「渦の道」チーフの祖父江偉記さんに伺うと、「大きな節目である開通30周年を契機に、賑わいの創出につなげたい。物心ついた頃から橋がある若い世代よりも、少し年配の方のほうが、感慨深いようだ」との話で、この数年目立ってきた外国人観光客にも積極的に声をかけているそうだ。
また、架橋記念館「エディ」では、渦潮のメカニズムや大鳴門橋の構造などを、映像や展示で楽しく学習することができる。さらに、観潮船に乗れば、渦潮を間近に見物できる。大型観潮船、小型高速船、水中観潮船など、それぞれの特徴を持ってニーズに応えている。
鳴門の鯛、わかめなどの海産物、さつまいもの鳴門金時などの農産品も観光客を楽しませてくれる。
淡路島からも、帆船型の観潮クルーズ船が鳴門海峡に向けて運航されるほか、うずの丘大鳴門橋記念館などの施設が整っている。
淡路島は徳島県!?
淡路島は、江戸時代には徳島藩に属していたが、明治維新、廃藩置県の際に兵庫県に編入され、現在に至っている。歴史的な経緯や、大鳴門橋が先に開通したことなどから、人の行き来も多く、徳島県との交流が深い。
先の記念セレモニーでは、飯泉嘉門徳島県知事が「淡路島、徳島県にカモーン!」と述べて、参加者の笑いを誘っていた。
鳴門の渦潮世界遺産登録に向けて
2014年12月、両県知事を会長とする兵庫・徳島「鳴門の渦潮」世界遺産登録推進協議会が発足し、鳴門の渦潮の世界遺産登録に向けた活動を加速させている。1998年の明石海峡大橋開通以降、地元団体等の活動が徐々に拡大し、今回の推進協議会の設立につながった。
世界遺産の登録に向けては、まず国内暫定リストに入るというハードルがある。これには、自然遺産または文化遺産となるための顕著な普遍的価値を明らかにす る必要がある。現在は、両県共同の調査段階にあるものの、今後の取り組みが大きな成果につながることが期待されている。
渦潮の仕組み
鳴門海峡では、潮の満ち引きに伴い、海峡の南北で大きな潮位の差(最大2m)が発生することから、時速20kmに及ぶ急激な潮の流れが生じて、渦が発生する。
南側の紀伊水道からの潮の満ち引きと、北側の播磨灘の潮の満ち引きに時間差が生じることや、海峡の真下の地形が急峻で複雑なことが、世界有数の大きな渦潮を発生させる要因となっており、渦の直径は最大30mになるという。
世界三大潮流といわれるスポットは、鳴門海峡の他に、イタリアのメッシーナ海峡、カナダのセイモア海峡が挙げられるが、中でも鳴門の渦潮は大きさ、美しさで一番とされている。
これからの30年に向かって
「夢の架け橋」として30年前に開通し、大鳴門橋は、徳島県に大きな変化をもたらした。
今年の3月には、徳島自動車道の鳴門JCT~徳島IC間が開通し、大鳴門橋から徳島市内が直結し、県西部、県南部への利便性も更に高まった。
地方創生への取り組みが本格化するこの年に、大鳴門橋は開通30周年を迎え、物流、観光の大動脈として、今後更なる発展が期待されている。
(山崎 浩平)
調査月報「IRC Monthly」
2015年8月号 掲載