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西日本レポート

【広島県尾道市】サイクリストの「ほしい!」が詰まった“倉庫”・『ONOMICHI U2』 ~ひと・もの・想いが巡る瀬戸内の十字路・尾道~

2015.10.01 西日本レポート

サイクリストの「ほしい!」が詰まった“倉庫”・『ONOMICHI U2』 ~ひと・もの・想いが巡る瀬戸内の十字路・尾道~

世界に誇るサイクリングロード「瀬戸内しまなみ海道」の本州側起点である広島県尾道市に、サイクリストの「ほしい」を叶える「倉庫」がある。その名は「ONOMICHI U2(オノミチ ユーツー)」。
かつて、広島県の海運倉庫として使用されていた「県営(うわ)()2号(昭和18年竣工)」を、サイクリストに必要なサービスや施設がそろった複合施設として再生させ、しまなみ海道の基点に新たな魅力を創出している。

交通の要衝・尾道

尾道市は旧来、港町・商都として栄えた。海を望む坂道、尾道水道など、豊かな自然と歴史に魅せられた文豪も多く、映画のまちとしても有名である。
また、「瀬戸内の十字路」として、やまなみ街道としまなみ海道を結ぶ交通の要衝となり、ひと・もの・文化をつないでいる。
また、しまなみ海道は、2014年に米国CNNで「One of the world ’s most incredible bike routes(世界で最も素晴らしい自転車道のひとつ)」として紹介され、海外でも注目されるサイクリングコースとなった。その起点として知られる尾道市 は、石畳の道やレトロな尾道本通り商店街など、昔懐かしい風景と趣を今に残し、限られた生活空間に多くのひと・もの・財が集積した箱庭的都市として、文化 庁より平成27年度「日本遺産」に認定された。

尾道の坂と石畳 Photo-Tetsuya Ito/Courtesy of DISCOVERLINK Setouchi

尾道の坂と石畳
Photo-Tetsuya Ito/Courtesy of DISCOVERLINK Setouchi

滞在型の観光地を目指す

コンパクトながらも、市民と協働しながらまちづくりを進めている尾道市は、観光客に根強い人気がある。しかし、コンパクトさゆえに、尾道を半日観光し、広島や四国へ向かう観光客も多く、少しでも長く滞在してもらえるまちづくりが課題だと言われていた。
そこで広島県は、豊かな自然と歴史を活かしたまちづくりに取り組むべく、かつて県営の海運倉庫であった「県営上屋2号」とその周辺の有効活用を考えた。

ONOMICHI U2港側外観

ONOMICHI U2港側外観

大きな「倉庫」で収益性を追求するのであれば、ショッピングモールにしても良かったのかも しれない。しかし、地域資源を活かしながら、できる限り尾道に「滞在」してもらえる施設にこだわった結果、2014年3月、自転車と一緒に宿泊できる複合 施設「ONOMICHI U2」に姿を変えた。

ONOMICHI U2

ONOMICHI U2は、約2,000m2の広大なスペースに、宿泊施設やレストラン、ライフスタイルショップ、イベントスペース、サイクルショップ等を併設した海辺の新名所である。
JR山陽本線尾道駅から海沿いを5分ほど歩くと、使い込まれた風合いのある建物が姿を現す。また、スタイリッシュなロゴやウッドデッキとの調和が親しみやすさを感じさせる。
倉庫に足を踏み入れると、天井の高さと躯体を活かした開放的な空間が広がる。また、グリーンの配置やシックな色使い、明るすぎない採光が、ラグジュアリーな雰囲気も醸し出している。

初年度の来客数は、目標の年間15万人を超えた。その半数以上を県外からの観光客が占め、昨年秋ごろからは外国人観光客も増加している。サイクリング、建築など幅広いジャンルの雑誌に取り上げられたことで、今年に入り一段と観光客が増えた。
ONOMICHI U2は観光客のみならず、地域の人にも必要とされる施設になることを目指している。施設内にはベーカリーを併設させており、朝から地元客で賑わっている。

HOTEL CYCLE(ホテル サイクル)

この施設の最大の魅力であり核となるのが、自転車と泊まれる「HOTEL CYCLE(ホテル サイクル)」である。
格式を保ちつつ遊び心をくすぐる「HOTELCYCLE」は、自転車に乗ったままチェックイン可能(全国初)で、愛車をそのまま部屋に持ち込める。また、 客室には特製のサイクルハンガーが設置されている。各フロアの共用メンテナンススペースも、サイクリストには嬉しい。自転車を持ち込まなくても、レンタサ イクルが用意されているため、サイクリスト気分を味わうことができる。

ONOMICHI U2「HOTEL CYCLE」 エントランス

ONOMICHI U2「HOTEL CYCLE」 エントランス

サイクリストのサポート

世界有数の自転車ブランド「GIANT」のショップが館内にある。サイクリング初心者や女 性でも気軽に入れるショップをコンセプトとしている。レンタサイクル利用者の約半数が県外からの観光客とのこと。プロスタッフが一人ひとりに合わせてバイ クをフィッティングしてくれるので、安心してサイクリングを楽しめる。

ONOMICHI U2「GIANT」

ONOMICHI U2「GIANT」

港側にある「Yard cafe(ヤード カフェ)」では、自転車に乗ったままボトルウォーターのチャージやエナジーバーの購入ができるため、ふらっと立ち寄るサイクリストも多い。
サイクリングにおける「衣・食・住」がそろった尾道の“倉庫”は、しまなみ海道の拠点として、広く愛される存在になっている。

ONOMICHI U2「Yard cafe」

ONOMICHI U2「Yard cafe」

ONOMICHI SHARE( オノミチ シェア)

尾道には働くことと遊ぶことが共存するシェアフロア「ONOMICHI SHARE( オノミチ シェア)」もある。尾道の海辺で“遊ぶように働く”空間を提供することで、企業や個人事業主を誘致して移住定住を促進し、新たな仕事や雇用が生み出される ことへの期待が込められている。

ONOMICHI SHAREフロア 内観

ONOMICHI SHAREフロア 内観

フロアは、尾道水道側に広い窓とテラスを設け、アンティークの家具を配置し、まるで海辺のカフェのようなしつらえである。期間限定(7/13~10/30)でドロップイン(一時利用)を開始した。
実際に利用してみると、あまりの居心地の良さから、仕事が違ったものに感じた。眼前には太陽できらめく海が広がり、リラックスしながらも効率よく仕事を進めることができた。
午前は“働き”、午後は“遊ぶ”といったスタイルでも利用されている。
今後は、地元の人との交流や情報交換のためのイベントを積極的に開催するとのこと。「ONOMICHI SHARE」は人と人とをつなぎ、地域に必要とされる空間を目指している。

ONOMICHI SHAREテラスからの眺め

ONOMICHI SHAREテラスからの眺め

ひとがつながり、未来を紡ぐ

尾道は、ONOMICHI U2や古民家再生プロジェクトなどの地元に根付いた取り組みによって、新たな表情をプラスしている。
京都から尾道へ移住したONOMICHI SHARE 岩渕友里氏によると、「移住者たちはこの小さなまちでカフェ経営などの夢を叶え、成功体験を積み重ねている。尾道は“一回やってみる”が通用するまち」とのことだ。

ONOMICHI SHARE エントランス

ONOMICHI SHARE エントランス

また、ONOMICHI U2などを運営する株式会社ディスカバーリンクせとうち 取締役 石井宏治氏は、「“収益性よりも本質”を追求し、まちのためになることをしたい。“残すべきもの”を残し、決して妥協せず尾道の魅力を発信し、次の世代に 雇用を残したい」という地元に対する熱い想いを語ってくれた。
また、同社部長 井上善文氏はこれからの尾道について「U2が出来て、明らかに人の流れが変わった。“観光”を切り口にした事業が連携して回り始めるころ、人の流れが賑わ いを創出し、新たな事業をつくり、事業が雇用を生み、まちをつくる。そうすると尾道の見え方がもう一段変わってくる。だから我々は、尾道の見え方を変える 起爆剤になりたい。」と語った。
尾道を良くしたいという想いでつながった人びとによって、尾道の未来は紡がれている。

おわりに

ONOMICHI U2「HOTEL CYCLE」 客室

ONOMICHI U2「HOTEL CYCLE」 客室

「HOTEL CYCLE」の自然素材を用いた落ち着いた内装に包まれて、愛車を眺めながらゆったりとした時間を過ごし、サイクリングや瀬戸内海クルージング、山手散策などで尾道の自然を満喫する。この秋、心と身体の「CYCLE」を整えに、訪れてみてはどうだろう。

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(灘野 由子)

調査月報「IRC Monthly」
2015年10月号 掲載

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