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しまなみ美術館めぐり

広島県尾道市 「水溜りと海」~静と動の構図~ -尾道市立美術館と小林和作-(2000年1月) 

2000.01.01 しまなみ美術館めぐり
▲水溜りと海 1954(昭和29)年

▲水溜りと海 1954(昭和29)年

  1999年5月に開通した瀬戸内しまなみ海道の沿線には、いくつもの美術館や博物館がある。今回スタートする「しまなみ美術館めぐり」は、沿線美術館などのご自慢の一品やそれにまつわるエピソードを、日頃は経済・経営を主たるフィールドとする芸術に疎い我々が、独断と偏見で取り上げようとする極めて大胆な?企画である。
 第1回は、本州側の基点である尾道市の市立美術館をご紹介しよう。

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絵のまち尾道と小林和作

 渡船が行き交う尾道水道と中世の寺社仏閣が絶妙の眺望を醸し出す千光寺山にのぼると、尾道市立美術館がある。尾道をこよなく愛した油彩画の大家、小林和作画伯を顕彰し、その芸術的遺産を受け入れ、市民の文化・教養の拠点とすることを目的として、1980年3月に設立され、今年20周年を迎える。
 館内には、小林画伯を始めとした郷土にゆかりの画家の絵が多数収蔵されており、こことは別に、商店街の空き店舗を利用して郷土玩具を展示した分館も設けられている。
 小林画伯は1888(明治21)年に生まれ、1934(昭和9)年から尾道市に居を構えた。1974(昭和49)年に亡くなるまで40年に亘り多数の秀作を描いただけでなく、広島県の画壇指導者として大きな足跡を残した。戦後の、そして文化人としては唯一の名誉市民であり、今日の「絵のまち尾道」があるのは、画伯のおかげといっても過言ではない。

 

水溜りと海

 小林画伯の代表作は「海」、「春の山」なども有名だが、学芸員の宇根元(うねもと)さんからの今回のお奨めは「水溜りと海」である。
 和歌山県の潮ノ岬を、白く波が押し寄せる海と、岩礁によってさえぎられた透明感のある潮溜まりの対照として捉え、ゴッホを思わせる、しかしもっと大ぶりなタッチで描いている。原色の絵の具をナイフに切り取り、力強く塗り付けた鮮やかな色彩が、まず強烈に迫ってくる。
 そして、絵の主役は波が流れ込む潮溜りであることに気づく。一方で太平洋の波が打ち寄せる荒々しい景色を描いていながら、眺めていると不思議に心が落ち着く。小林画伯66歳の全盛期の名作である。

 

老来進歩の人

 小林画伯は春秋に写生旅行を繰り返した。最も重視したのは色彩も含めた画面の構成であり、描いた膨大な水彩スケッチの中から、彼の厳しい選択眼にかなう構図だけを厳選し、素晴らしい油彩画を生み出した。「紙に写生したものの何十枚かの中に役に立つのは二三枚しかない。時には一度の遠い旅行から得た多くの写生が一枚も役に立たぬこともある。」と残された手記にある。
 こんな文章もある。「私は、かくて、多作家であり、乱作家だという評判が東京辺で立っている由だが、少しも恐れてはいない。要は絵が良いか悪いかが第一の問題であろう。一部の日本画家たちのように駄作が出切ることを極度に恐れて、戦々兢兢として絵をかくのは愚であるので、私は臆せずに絵をかく。それがために老来多少の進歩もしているらしい。自惚れかも知れないが七十歳以上の画家でまだ将来の飛躍を楽しめるのは私一人ではないかと思う。」
 尾道に居を構えながら全国的な名声を得る大家になり得たのは、美を追求する真摯な姿勢、人物としてのスケールの大きさとともに、このような若々しい思考や行動力によるものであろう。

 

グランプリは300万円

 尾道市では「絵のまち尾道四季展」を2年に一度開催している。尾道を題材とした全国公募展であり、グランプリの賞金は300万円。次回は2000年12月1日(金)~3日(日)に受付される。腕に自信のある読者は、ぜひ応募してはいかが。

参考文献 : 「小林和作への旅-美の構図を求めて-」
     尾道市立美術館発行
(鈴木 俊夫)

南北朝時代の寺院建築を模した尾道市立美術館

南北朝時代の寺院建築を模した尾道市立美術館

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