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しまなみ美術館めぐり

愛媛県大三島町 「酒場」~懐かしさと優しさ、そして希望~ -大三島美術館と西田俊英-(2000年3月) 

2000.03.01 しまなみ美術館めぐり

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 「しまなみ海道」のほぼ中央部に位置する大三島。島のシンボル大山祇神社まで行くと、道路の向かい側に「大三島美術館」が見えてくる。建物の外観は神社を思わせる白壁の入母屋造。清楚なたたずまいが印象的な美術館である。さあ、しまなみ美術館めぐりの第3回は、この「大三島美術館」をご紹介しよう。

酒  場 1998(平成10)年

酒  場 1998(平成10)年

 

穴場の美術館?

 「大三島美術館」は、日本画ファン必見の美術館である。昭和61年に、すぐれた日本画コレクターであった故菅省三氏(当時の町長)のコレクションを母体として開館した。それ以来、「日本画家と共に歩み、共に成長する」という独自のポリシーにより運営されてきた。館蔵品(現在約600点)は昭和15年以降生まれの、日本画界を代表する作家(例えば、田淵俊夫、中島千波、竹内浩一ら院展、日展を問わず著名な作家たち)から中堅・若手の作家(例えば、北田克巳、浅野均ら)までの作品が大半を占める。実はこれほどの新しい作家の日本画コレクションを持つ美術館は、全国的にも珍しい。
 日本画の魅力は、わが国在来の技法・様式をベースにして、明治以降に入ってきた西洋画を強く意識しながら、革新を積み重ね進化・発展している点にある。学芸員の浅野さんは、「日本画の最先端を見て欲しい」と、熱っぽい。
 「大三島美術館」は、二つの意味で穴場の美術館である。一つは、知名度は今一つだが、中身は個性的で充実しているという意味である。もう一つは、将来に大家と呼ばれるようになる可能性の高い作家の代表作(若い頃の作品が代表作と呼ばれることが多い)が展示されている、という意味である。

 

「酒場」~フラッシュバックする青年期の記憶~

 初めて観た「大三島美術館」には数々の素晴らしい作品があったが、その中でも特に私を惹きつけたのは、西田俊英作の「酒場」である。その大キャンバスの中には、バーのカウンターに上体を預け、まるで周囲の空気に溶け込むようにまどろむ青年の姿が描かれている。
 私は、3年前のある懐かしい光景を思い出していた。大震災からの復興を目指す街・神戸。一人の男が、いつもの店で、いつもの椅子に座り、いつもの酒を飲んでいた。初めての挫折、言葉にすることのできない虚脱感。彼は、周囲の雑音さえ耳に届かないという静寂の中で、いつの間にか眠りへと落ちていく。酒場はそんな彼を優しく受け止めていた。癒しとも言うべき不思議な力を持った空気が、彼をつつみ込んでいた。
 この絵を見た時に私が感じたのは、懐かしさと優しさ、そして希望である。忘れることのできない青年期の記憶が、フラッシュバックした。

 

観る人におまかせ

 西田俊英氏(昭和28年生、院展同人)は、今後の更なる活躍が期待されている作家である。これまでの主な作品は、「聖牛」(1984年、東京セントラル美術館日本画大賞展・大賞受賞)、「プシュカールの老人」(1995年、大観賞受賞)等である。今回紹介した「酒場」は、83回院展出品作(1998年)で、この作品により同氏は院展同人に推挙された。繊細な筆のタッチがとても印象的である。
 学芸員の浅野さんに、描いた場所やテーマについて尋ねたところ、わざわざ西田俊英氏と連絡を取りメッセージを貰ってくれた。「この作品は、スペインのバル(日本の居酒屋と喫茶店の中間のような店)内の深夜の光景を描いたものです。作品のテーマはカウンターに落ちている光の描写ですが、作品に関する物語については観る人におまかせします。」
 あなたも、のんびりした瀬戸内の島で、昭和初期から現在へと続く日本画の新しい流れを、ゆっくりと鑑賞してみませんか。その時、あなたはこの「酒場」の絵を見て、どんな物語を思い浮かべることになるのでしょうか。

(豊嶋 照男)

大三島町立大三島美術館

大三島町立大三島美術館

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