中心市街地は、さまざまな都市機能が集積し、長い歴史の中で文化、伝統を育み、各種の機能を培ってきた「街の顔」である。しかし、近年、各地の市町村の 中心市街地において都市機能の空洞化が深刻化している。今回は商店街の活性化のためにユニークな取り組みを行っている南国高知市の「ひろめ市場」を紹介する。
食のテーマパーク登場
「さあ、何を食べようか」「どの店にするかな」。和食、居酒屋、中華料理店、うどん屋などバラエティー豊かに飲食店が並ぶ。ここは、高知市帯屋町2丁目の「ひろめ市場」。帯屋町アーケード街の西の入口付近に98年10月にオープンした。総面積約四千平方メートルで、屋根付の市場内には様々な飲食店のほか、鮮魚店や食肉店、駄菓子屋など現在56店舗が集まっている。
同市場の敷地は、幕末の土佐藩家老・深尾弘人蕃明(ふかおひろめしげあき)の屋敷、通称「ひろめ屋敷」跡地。「この土地を商店街活性化の核に」と地元帯屋町二丁目商店街振興組合が提案し、土地所有者の民間都市開発推進機構(東京都)や地元建設会社などの賛同を得て、この食のテーマパークをオープンした。
土佐の憩いの場
平成浪漫商店街と名づけられた、この「ひろめ市場」。大規模な核店を持たない、小規模な商店が集まった、いわば全く新しい商店街である。事業目的は、「市県民及び観光客への食文化の発信、また、地場の産業や土佐文化の発信」とした。次いで、この市場の開発コンセプトは、「土佐にしかない、土佐だから出会える新鮮な感動と刺激があふれた場」とすること。そのために、各参加店は、お客様の満足する良いもの、美味しいものを、より安く提供し,一致協力して市場全体の活力を創造して行くこととした。
市場内は、「お城下広場」や「いごっそう横丁」、「龍馬通り」など7つのブロックに分かれ、レトロ調の街並みや市場のにぎわいなどが各ブロック毎にうまく演出されている。場内に足を踏み入れると、新鮮な魚や焼き鳥のにおいが立ち昇る。食欲がそそられるお店を探し、自分の好きな物を注文し、大広場にあるテーブル席に集まって楽しく食べる。高知市中心部のオフィス街近くということもあり、昼はサラリーマンやOLもよく利用する。とにかく活気があり、気持ちのいい憩いの場所だ。
新しく高知の名所に
この市場を訪れる人は、平日で約6千人、土日になると多い時で約2万人ほど訪れる。特に、日祭日は県外からの観光客が約7割近くを占めている。高知では日曜市が有名だが、この市場も今や高知の名所の一つに近づきつつある。
オープン時は63店舗でスタート。当初は、1年後に約3分の1が入れ替わり、また2年後には更に3分の1が入れ替わると予想していた。しかし、実際には入れ替えは少なく、殆どのお店が活発に営業している。
この「ひろめ市場」の特徴は、行政の資金補助や直接的支援をまったく受けていないことにある。市場全体の企画やテナントの募集・運営等は、同商店街を中心とした有志で仕切った。構想からオープンまでわずか9カ月。地元の広告会社や店舗デザイナーなど、個人的なネットワークもフル活用した。
さらに、特徴をもう一つ。「食器センター」という会社を作り、市場内で食器類をレンタルしていることだ。これは日本でも初めての試みという。テナントの多くは、1店舗当り約4坪と狭く、2~3名で営業している。このため、各テナントの人件費の負担を軽減するために食器の配達や洗浄などを行うこととした。また、ゴミを出さないクリーンな市場にしようというねらいもあるという。
商店街の活性化に
「ひろめ市場」ができてから2年近く経つが、土佐の文化を幅広く紹介する一風変わった市場となった。新たな人の流れを創りだし、近隣の地元商店街の通行人数は、オープン前の約1.5倍になった。地元商店街の活性化に繁がっているとの声も聞かれた。今後も、高知城や日曜市などと連携し、高知市の中心市街地の魅力作りに貢献することが大いに期待される。