このシリーズは、愛媛県内各地の“まちづくり”の中心となって、ユニークな取り組みを展開している「人」とその活動内容を紹介している。今回は瀬戸内海国立公園に指定されている美しい島々の町、中島町を取り上げる。
中島町は、松山市の北西15km、広島、山口両県に接し瀬戸内西部に位置する人口6千3百人の町。6つの有人島と22の無人島からなり、白砂の海浜や多島性景観、温暖な瀬戸内式気候など、自然環境に恵まれている。みかん栽培では全国的に有名であるが、近年は町おこしの一環として始まったトライアスロンの町としても広く知られている。
鉄人の心を和らげる“人”
86年に始まったトライアスロンは、“鉄人レース”と言われる過酷なレース。全国でも珍しい島しょ部での開催(俗に言う“島トラ”)だが、この大会も今年で16回目を迎え、今回は375名の選手がエントリーした。年齢も職業も様々な参加者が1つの目標に向かって全力を尽くす、「中島町ならではの熱い感動を再び味わいたい」と参加者の3分の2はリピーターというところがすごい。また、毎年の参加申し込みは応募多数のため100名程度は参加を断っているのが実情で、その人気のほどがうかがえる。
参加者の1人にその魅力を尋ねると、次のような答えが返ってきた。
- 島での開催は、非日常感がある
- 風光明媚で、自然豊か
- いわゆるスポンサー付きの冠大会ではなく、町民の手作り大会である
- 前夜祭が楽しみ
- 沿道の応援、地元の人々とのふれあいが素晴らしい
- 勝敗よりも全員が楽しもうという雰囲気がいい
まさに町の人たちの目指す大会となっていることが分かる。
当初は失敗もあったが、回を重ねた今は実行委員会を中心にしっかりとした組織ができ、「マニュアルも頭の中にある!」ほどという。同委員会は商工会、JA、漁協などの協力を得ながら12の部で組織され、あくまで町民主体、役場はこれらをサポートする形となっている。その中心は“町づくり対策課”の池田利則さん、田中清隆さんらトライアスロン事務局である。
「やってみんとわからんと思うけど、この忙しさは、もうたまらん!」という事務局は、毎年4月頃の選手募集に始まり、大会が終わるまでは準備に忙殺されるが、それ故に無事終えたときの達成感はひとしおのこと。(笑顔)
そして忘れてはならない主役は、大会を最前線で支える約700名のボランティアである。そのうち約650名、実に9割以上が町民で、町の人口を考慮すると10人に1人が参加している計算となる。町をあげての組織力があり、支援体制もできあがっている。コース内の各チェックポイント、エイドステーション(給水・給食ポイント)は勿論、沿道では私設エイドステーションも自宅前に登場、応援も熱烈で、町民すべての温かみが感じられる。「わが町の一大イベント」として、町・人の活性化に効果てきめんといったところである。
鉄人を癒す“自然”を守る先進技術
“鉄人”を魅了する豊かな自然、山頂まで続くみかん畑、眼下に広がる青い海、町おこしを支えるこれらの自然を守っていく工夫・努力も着実に行われている。その1例が津和地島に今年8月に完成した全国初の“トンネル貯水”である。この“トンネル貯水”は、「島の自然を残しつつ地域を豊かに」と武田治前町長(故人)が採用したものである。従来、理論はあったものの実績はなかったこの貯水方式を、同町が“全国で初めて”採用、まさに町の意気込みの現れと言えよう。
“トンネル貯水”とは、降雨時に周りの海に流れ出る雨水を複数の谷で集水し、水源から需要のある場所へ向かうトンネルに貯水するものである。
島は年間平均雨量1,300mm程度、瀬戸内式気候で少雨である上に地形は急峻、地質は保水力の小さい花崗岩風化土で、同町にとって水不足対策は積年の課題である。これまで海水淡水化施設に依存していたが、施設の老巧化で処理能力が低下し問題が深刻化してきた。そこで、自然環境保護にも配慮し、生活用水の安定供給と基幹産業であるみかん栽培の振興による地域活性化のため、本方式が採用された。
トンネルは総延長639m、貯水能力は10,000トン、付属する地上貯水タンクと合わせると12,000トンに達し、津和地地区240世帯、680人の50日分に相当する。これにより、貴重な農地や自然を破壊することなく同地区の水不足問題は解決した。
この工法の利点は次の点である。
- 地上を利用した貯水方法に較べ、優良な農地を潰さず、用地費の大幅な節約ができる。
- 地下構造物であることから、台風や地震などの自然災害に強い。
- 地下構造物であることから、自然景観を守ることができる。
- トンネルは貯水と導水路を兼用しているので、水源から浄水施設までの長大な配管を必要としない。
- トンネル内に地下貯蓄されることから、貯水は蒸発による損失がほとんどない。また、外気温の影響を受けにくく水質の安定性を図ることができる。
同町も他の島しょ部と同様に、過疎化・少子高齢化、及びこれに起因する各種問題に直面しているが、今や島の顔となったトライアスロン、全国一のみかん、漁業資源の豊かな海など、自然の恵みを生かし、保全を図りながら新たな魅力創出をを目指す町づくり施策が現在も積極的に進められている。
(兵頭 繁嗣)