- 自然の中でポスターなどの作品に触れる場として、川辺に、2000年5月から、年間を通じ設けられている。「国際文化村」構想の一環。アダプトプログラムも、同じ構想の一つで、自治体が建設した道路や公園を、地域住民や企業が「里親」となり、「養子」(アダプト)とみなして、それらの美化運動を定期的に行うボランティア活動をいう。米国で85年に創設され、97年に神山町は国内で初めて導入した。
- 車での所要時間
- 松山自動車道・川内I.C→徳島自動車道・藍住I.C下車、県道(1号)国道(192号)県道(21号):約3時間
- 徳島市中心部より:約40分
- 明石海峡大橋・淡路S.Aより:約2時間
人口8,700人の神山町は、“すだち”(酢橘)生産量日本一、“梅” 生産量県下一、町の青年達が中心に進めている“青空ポスター美術館”や“全国に先駆けたアダプトプログラム(美化運動)”の町としても知られる。町は、中 山間農業地域にあり、山林が8割を占める。かつては、林業の町として栄えたが、木材市況の低迷には勝てず、農業振興によって、活路を見出そうとしている。 ここでは、農業青年達の20年余の活動が、“神山アグリ”という協働事業を生み、力強く前進するまでの軌跡を辿る。
取材は、“蕎麦打ち会”から始まった。自家製の蕎麦粉、地元のケヤキで作った練り鉢や杉の伸ばし台や伸ばし棒が用意され、さあご一緒にとなった。
地域活性化へのホップ、ステップ
昨年7月、“神山アグリ”(代表は、元徳島県農業法人会会長 佐々木正實氏、以下アグリという)は、四国初の地域農業経営体育成モデル事業として生まれた。農林水産省が新設した平成13年度事業で、佐々木氏の農業法人(ファーム神山)等を核に運営される。
「アグリは、表向きは、2農業法人と4農家のモデル事業であるが、実際には、もっと広い意味がある。私達の今までの活動の“集大成”であるというのが、相応しいのかもしれない」と佐々木氏が話しを切り出した。
異業種交流への歩み
アグリの源は、中山間地域活性化推進事業の一環として96年発足の“神山町農業経営者会議”(農業従事者41名で構成)にあり、それに至る期間を入れると、さらに10数年遡るという。
大手量販店でのアンテナショップの開設、地域の農産廃棄物(“菌床かす”や“すだちの絞りかす”)利用の堆肥作り、高校生との雑穀栽培、多くの専門家の招聘、などを行い、これらが、“一人ひとりが農業経営者であるとの自覚の向上”に繋がった。
99年には農業経営者会議が中心となって、町の異業種交流組織である“フロンティア神山塾”が、80名で設立された。画期的なことであった。全国の郊外の 道路沿いに見かける、“朝市、青空市”や“道の駅”の提唱者のひとりでもある、九州大学大学院人間環境学研究院小川全夫教授の指導を得て、農業従事者、 JA婦人部、郵便局、商工会、森林組合、高校生などの広範囲からのメンバーでスタートした。
塾の活動を通じて、異業種が互いに融合・協働することが必要であるとの意識の大変革を生んだ。町の活性化には、森林の活用も不可欠であるとの認識のなかで、農産物の付加価値を地元の材木を使って高める方法が模索された。
たとえば、高校生の発想から神山の杉と草花の押し花を組み合わせて、地元を表現・PRする“押し花杉板葉書”の創作などは、象徴的な一歩であった。協働は、次に、町の特産コーナー(アンテナショップ)の設置へと進展する。
特産コーナー誕生
生産過剰気味で、廃棄処分される“すだち”を何とか活かす道はないのか?、という視点で、町内のある長老・事業家から、そのための新規販売ルートの開拓、高速道路のサービスエリアでの販売の検討、などの提案がされた。事業のための営業努力が、町をあげてなされた。
その後、99年8月、淡路サービスエリア(明石海峡大橋付近にある)から、“お客様感謝デー”のイベントに神山からの出品要請を受けた。それに対し、1トンの“すだち”を提供し、1日ではあったが、1,700人もの来客があり大盛況であった。
翌年、8月から9月、同サービスエリアから、テントによる町産品フェアの提案を受け、農業従事者と林業従事者が、4トントラックで、集荷・運搬、販売に応じた。阿波踊りの時期とも重なって、成功した。
こうした積み重ねの後、アグリが産声を上げた2001年夏、同サービスエリアに、町ぐるみでの出品では神山町を唯一とした“特産コーナー”が誕生するという、幸運に恵まれる。淡路サービスエリアは、全国の高速道路のサービスエリアの販売額ビッグ4(海老名、権太坂、浜松とともに)の好立地にある。
特産コーナーの半年間の売上は、1,000万円を超え、順調に推移している。夏のフェア以外には常駐員は派遣せず、販売をサービスエリアに完全に委託しているのも大きな特徴である。
アグリは、“町の協働事業”の代表格として、中心的な役割を担うことになる。アグリは、集荷した町の物産を宅配便でサービスエリアに送り、前日の販売額・数量は、逆に、毎日FAXで受信し、在庫管理、出荷管理に繋げているのである。
一方、コーナーには、販売額を伸ばすために、農産品の“すだち”、トマトや野菜、棚田の無農薬米などに限らず、町の銘菓である、“ういろ”や羊羹も加えたが、コーナーを次々と空にするほど売れる商品のないことから、新商品を開発する必要に迫られた。
これに対し、アグリは5年間を掛けて、①製材業者などの協力のもと、押し寿司用の箱型と“すだち”のセットなど、農産物と材木(神山杉)を合わせた付加価 値商品、②高齢化で廃園状態になり、管理が不充分なことから農薬が散布されない、“すだち”を利用したオリジナルブランドの酢、などの開発に打ち込んでい る。
アグリでは今春、初の新卒女子大学生を事務局員として採用した。さらに、他の地域での新しいアンテナショップの開設も目指している。
“蕎麦打ち会”が意図すること
特設コーナー設置には、サービスエリアという、格好の窓口を通じて、お客様に地元の産品に親しんでもらうとともに、最終的には、豊かな自然とロマン溢れる歴史の町、“わが家”そのものに足を運んでもらう狙いもある。
1つの方法として、異なった地域からの多くのお客様に、町内での“蕎麦打ち会”に参加してもらうため、自家製の蕎麦粉を用意し、蕎麦打ち名人を招いては腕 を磨き、指導方法を含め猛特訓を続けているのである。この夏のサービスエリアでのフェアでは、本格的に呼び込みを開始する予定である。
“蕎麦打ち会”は、アグリが考える地域の生き残り、活性化策への厳粛な儀式でもある。地域の活性化は、“異なものとの交流から促進される”との信念である。
協働事業としては、まだまだステップの段階かも知れないが、各人が、本業を自立させながら、長期にわたり、地域活性化という一つの目標に向かっている姿こそが貴重であると思った。
あるメンバーの「色々な地域での活性化の話・成功談は、ごまんとある。結局、その土地に生きる人間が、共に語り、トライしながら得たものでないと“本物”にすることはできない。高速道路でより身近に繋がった愛媛の人々とも大いに交流したい」との言葉が印象的であった。
また、期せずして、IRCの異業種交流会の話を聞かせて欲しい、と好奇心旺盛なメンバーから声が掛かり、嬉しい質問攻めにあった。
最後に、関係の方々のさらなるご活躍と前進をお祈りしたい。読者の皆様には、足を伸ばして、是非、この活力ある人々と交流の時間を持たれることをお勧めする。
神山アグリ:info@kamiyama-agri.com(菊地 芳博)
上一宮大粟神社(かみいちのみやおおあわじんじゃ)
食の神である、穀類の祖神(粟の神)の大宣都比売命(おおげつひめ)を国内で唯一祭神とする古社。阿波の名は、この粟に由来するといわれる。また、町内には、古代遺跡や邪馬台国の女王・卑弥呼の宮城跡と伝えられる場所が点在する。