【会社概要】
所在地 | 西条市朔日市892番地 |
---|---|
代表者 | 広瀬 靖弘 |
資本金 | 1,000万円 |
従業員数 | 約500人 |
【会社沿革】
1936年 | (株)クラレ西条工場操業開始 |
---|---|
1936年 | レーヨンフィラメント生産開始 |
1962年 | ポバールフィルム生産開始 |
1965年 | 光学用フィルム生産開始 |
1969年 | ポリエステル長繊維生産開始 |
1973年 | 液晶偏光膜用フィルム生産開始 |
1990年 | ポリアリレート繊維生産開始 |
1995年 | メルトブロー不織布生産開始 |
2001年 | PVAゲル生産開始 |
2001年 | 分社化によりクラレ西条(株)設立 |
特定分野で世界一、あるいは日本一のシェアを持つ県内企業(または事業所)を紹介する、“くろーずあっぷ「愛媛が誇る世界一、日本一企業」”。第3回目を迎える今回は西条市のクラレ西条(株)を訪ねた。
同社の前身である(株)クラレ西条工場は1936年に(株)クラレ(倉敷紡績(株)より独立)の倉敷工場に次ぐ2番目の工場として操業を開始した。加茂川の良質かつ豊富な伏流水や海上輸送の利便性、労働力の確保など立地条件に恵まれ、(株)クラレの中核工場の一つとして今日まで発展してきた。今年4月からは、同社の主力であるポリエステル長繊維部門の競争力強化のため(株)クラレから完全分社化し、クラレ西条(株)として新たな一歩を踏み出している。今回は、同社が生産する様々な製品の中から、世界シェア100%を誇る液晶偏光膜用フィルム『クラレビニロンフィルム』について紹介しよう。
1.液晶偏光膜用としては世界シェアを独占!『クラレビニロンフィルム』
電卓、ノート型パソコン、ケータイ電話、カーナビetc…。私たちが日常生活の中で毎日のように使っているこれらの製品には必ずLCD(Liquid Crystal Display)と呼ばれる液晶表示装置が組み込まれている。液晶は液体と固体の中間状態の物質で、電圧で刺激を与えると分子の並び方が変わり、光の角度を曲げる性質を持つ。この液晶を2枚の偏光板で挟み、光を通したり遮断したりすることで画面を表示するのがLCDの原理である(図1)。このため、偏光板には一定方向の光だけを通す性質を持つ「偏光膜フィルム」がどうしても不可欠となる。
その「偏光膜フィルム」の素材こそが同社の生産する液晶偏光膜用フィルム『クラレビニロンフィルム』である。同社では、他社に先駆け30年以上前からこの液晶偏光膜用フィルムの開発・生産に取組み、1973年に世界ではじめて事業化に成功。液晶偏光膜用のフィルム原反を日東電工、住友化学などの国内の偏光板メーカー(液晶偏光膜用フィルム原反を偏光膜フィルム(偏光板)に加工するメーカー)はもとより、韓国、台湾など海外メーカーへも供給している。現在では、世界の全てのLCDに同社の『クラレビニロンフィルム』が素材として使用されている。
図1 LCDの原理
2.発展への転機-包装用から光学用へ-
『クラレビニロンフィルム』は(株)クラレが世界に誇る『クラレポバール』(PVA=ポリビニルアルコール ※1)を原料として、樹脂からフィルムまで同社が一貫生産しているプラスティックフィルムの一種である。『クラレビニロンフィルム』は元々、ワイシャツやニット製品等の包装用フィルムとして1962年から生産され始めた。おりからの包装革命と大量消費時代を迎え需要は急速に拡大し、積極的な拡販と相俟って生産量は年々増加していった。しかし、1973年にオイルショックが起こり、衣料分野の消費不振により包装用フィルム市場が低迷、大幅な減産を余儀なくされていった。
この危機を救ったのが、同社が包装用フィルムに替わる次世代のフィルムとして1965年に開発、1970年頃から生産に力を入れ始めていた光学用フィルムである。光学用フィルムの用途は、当初、サングラス用に限られていたため、その将来性に疑問をもつ幹部社員も多かったと言う。実際に販売を開始してみると、案の定、売上は伸びず、大量の在庫を抱え「いつも工場内の寄宿舎の中には山のようにフィルムが積み上げられていた」という話が語り伝えられている。このため、同じく光学用分野に参入していた他社は農業用(農薬や種子などを包装する)フィルム等に生産を切替えていった。しかし、同社だけは方針を変えず、光学用フィルムの新たな用途開発を目指し研究に打ち込み続けた。
その努力は、意外と早く実を結ぶことになる。1973年にシャープによって小型液晶電卓が開発され、透過性と染色性に優れた『クラレビニロンフィルム』がその液晶偏光膜用に採用されたからである。化繊メーカーであった(株)クラレがはじめてIT産業に足を踏み入れた瞬間であった。その後、各メーカーの電子製品のLCDにも次々に採用され、生産量は増加の一途を辿っていく。
“包装用から光学用へ”。当時どれだけの需要拡大が見込めるかわからなかった光学用フィルム分野であえて勝負しようという同社の確固たる信念が現在に至る同社のフィルム事業発展の礎になったのである。
※1 PVA(ポリビニルアルコール)…炭素、水素、酸素から成る合成樹脂で、1924年にドイツのヘルマン博士によって発見された。有害性が無く、繊維用のり剤や水性接着剤として広く使用されている。ちなみにこのPVA樹脂から繊維やフィルムを作る方法を発見したのは(株)クラレの友成九十九博士らである。
3.世界シェア独占の秘密
一般的に光学用フィルム分野への新規参入は極めて難しい、と言われている。それは、ビニロンフィルムを液晶偏光膜用に応用する上で必要な均質性、平滑性を保つ高度な加工技術と、ユーザーの仕様変更などに素早く対応できる製造ラインが必要とされるためである。同社の場合、(株)クラレがPVA生産で世界トップの約30%のシェアを握っていたこともあり、従来からPVAを精密に加工する技術とノウハウを有していた。加えて、ユーザーからの厳しい要求に対応する努力を重ねるうちに、フィルム製造ラインを自前で設計・製作する能力も次第に身に付けていった。この結果、仕様変更や品質要求に対して迅速かつ正確に対応できる他社にない“強み”を持つことができた。これまで競合他社がいくら参入を試みても、同社のフィルムの高い品質と安定した供給能力に追いつくことができなかったのである。
4.IT化の波に乗り、生産は飛躍的に増加
IT時代の到来とともに『クラレビニロンフィルム』の生産は飛躍的に拡大していくことになる。
ノート型パソコンやケータイ電話の急速な普及に加え、デジタルカメラやカーナビゲーションなどの出現で、LCD市場は1999年以降急成長。3年前の1999年には約120億ドル(約1兆3千億円)のマーケット規模だったが、今年は約230億ドル(約2兆5千億円)と2倍近くまで成長している(図2)。同社ではこうしたLCD市場の拡大に伴い、近年、大規模な設備投資を実施し旺盛な需要に対応できる体制を整えている。現在、同社の光学用ビニロンフィルムの生産能力は年間3,100万m2。1998年に年間900万m2だった生産能力をこの4年間で約3.5倍にまで引き上げている。「世界シェアのほぼ100%を握っているだけに、当社にはどんな需要にも対応する供給責任がある。これは大変なプレッシャーだが、やり甲斐でもある」と語るのは谷口俊郎フィルム工場長。「我々にはPVA世界トップメーカーとしての誇りがある。今後はLCDの大画面化、高性能化、高耐久化が進むため数量面だけでなく、品質面に対するメーカーからの要求はますます高まっていくと思うが、これまで積み重ねてきた当社の技術力で全てをクリアしていきたい」と将来の課題についても工学博士号を持つ谷口工場長は力強く応える。
図2 世界のLCD市場の推移
5.成長分野への飽くなき挑戦
ところで、21世紀は環境の時代と言われている。同社も環境重視型企業への転身を図るとともに、環境分野での新規事業育成にも力を入れている。その代表となるのがPVAゲル『クラゲール』事業(※2)である。同社の主要製品にはPVAを原料に開発されたものが多くあるが『クラゲール』もその一つである。PVAの内部に増殖させた微生物を使い工業用排水などを浄化させる画期的なもので、従来の方法に比べ浄化能力が格段に高く、また浄化槽の省スペース化も図ることができると言う。同社ではその将来性の高さから、今後コア事業の一つに育てていきたいと考えている。
「国際競争力を有する事業の拡大」「地球環境の維持改善に貢献できる事業の拡大」「世界で独自の存在感が主張できる事業の拡大」という3つの事業コンセプトに基づいたエコフレンドリー企業。同社が目指すこの理想像に向け、飽くなき挑戦は続く。
※2 PVAゲル『クラゲール』
PVAゲルとは、生物親和性の高いポリビニルアルコールを原料とし、細孔径で網目状の構造を有する多孔質の物質のこと。直径4㎜のビーズ1粒に10億個の微生物が住むことができる。
6.地域社会との「共存共栄」を目指して
工場入り口の正面から旧女子寄宿舎跡に向かう長い廊下に沿って合計70本にも上る見事な桜並木がある。この桜は、工場建設後視察に来場した大原孫三郎クラレ初代社長が「寄宿舎生達の生活環境としては潤いが乏しい。桜の苗木を送るから、福利地帯に植えるように」と届けた染井吉野が大木になったものである。今では県下有数の桜の名所として知られ、春の観桜会には毎年1万人にも及ぶ人々が訪れている。
同社は1936年の操業開始以来「地域との共生」を基本精神に、地域社会と共に前進してきた。現在も「河川一斉清掃」や「不法投棄ゴミ回収作業」など西条市主催の行事には同社の社員やその家族が積極的に参加しており、また子供達に化学の面白さを体験してもらおうと毎年4回のペースで市内小学生を対象とした「少年少女化学教室」を開催するなど多面的なフィランソロピー活動に企業をあげて取組んでいる。今後も地域社会との「共存共栄」を目指し更なる発展に向けて邁進していくだろう。
「化繊業界を取り巻く環境は厳しいが、計画通りに行かないことを外部環境のせいにしてはいけない。社員一人ひとりが“自分自身の責任で物事をやり遂げるんだ”という強い意識をもって行動すれば、必ず良い結果がついてくる」広瀬靖弘社長は自己責任の重要性を日頃から全社員に訴えかけている。
刻々と変化する時代の中で、ビニロンフィルムで世界をリードするクラレ西条(株)が常に輝く存在であり続けることを期待したいと思う。
(栗田 修平)