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西日本レポート

【広島県広島市】日本初、“エンターテイメント・スタジアム”が姿を見せるのは何時(いつ)か? - 広島駅東に球場(ボールパーク)を核とした集客施設を計画 -

2002.10.01 西日本レポート

日本初、“エンターテイメント・スタジアム”が姿を見せるのは何時(いつ)か? - 広島駅東に球場(ボールパーク)を核とした集客施設を計画 -

イメージ図提供 (株)電通西日本

イメージ図提供 (株)電通西日本

広島駅近くに11ヘクタールの空き地

広島駅から線路に沿って東に8分ほど歩くと、広大な遊休地が目に入る。旧国鉄の貨物ヤード跡地だ。広島市は今年7月、跡地の利用方針を示した。「プロ野球が開催できるスタジアム」を中心に、国・性別・年齢などを超えてさまざまな交流が生まれるにぎわい空間にしようというものである。
この土地は約11.6ヘクタールあり、広島市土地開発公社が4年前に約110億円で国鉄清算事業団から買い取った。太田川の三角洲上に市街地が形成され、平地に乏しい広島市としては、市街地中心部に近く、まとまった用地であり、中枢性向上を狙った都市開発の「種地(たねち)」として確保した。

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「複合型オープン施設案」を評価

この土地の活用方策をめぐっては10年にわたる議論がある。新しい広島の「顔」づくりの観点から、球場を中心としたものへと次第に絞り込まれ、今年2月~4月に民間事業者に対し収支概算を含む具体的な計画提案を求めた。
その結果、3つの提案が寄せられた。「実現容易性」「事業継続性」「広域集客性」「新たな広島の顔づくり性」の4つの観点から評価され、「複合型オープン施設案」が「相対的に最も優れる」と評価された。
この案は米国大手の商業デベロッパー(開発業者)を含む企業連合体、「チーム・エンティアム」からの提案である。「エンティアム」とは、エンターテイメントとベースボールスタジアムを合わせた造語で、この施設のコンセプトにもなっている。

提案の概要

提案者
(構成企業)
チーム・エンティアム(ワールド・プレミア・インベストメンツ/サイモン・プロパティ・グループ/エム・ジー・エス・ジャパン、広島東洋カープ、電通、電通西日本、鹿島建設)
提案のタイプ複合型オープン施設
概要天然芝のオープン型球場。観客席の下と球場周囲に商業施設・アミューズメント施設などを一体的に整備する複合型施設
事業主体民間企業
施設規模延床面積 218,000m2(球場 52,500m2、商業施設 76,600m2ほか)
駐車場約 2,800台
球場(天然芝、観客席約 32,000席)
導入機能1.ボールパーク、2.メガモール、3.ダイニング、4.エンターテイメント
総事業費約 388億円

日本初の米国流ボールパーク

絵の中央に見えるのが球場で、その周囲とスタンドの下部が商業・アミューズメント施設群である。手前は、JRの線路(山陽本線と新幹線)で、広島駅は図の右手側に当たる。
球場は、32,000席のオープン型(屋根なし)天然芝のグラウンドを中心として、多様な観戦スタイルが楽しめるよう、スポーツバーなども備えられる。施設の作りとしては、最近、大リーグ中継で目にする機会も増えた米国のレトロ調の球場を下敷きにしている。米国のボールパーク(注)の考え、つまり野球は屋外の天然芝フィールドでプレイするもので、フィールドと観客席とを遮るフェンス等は少ない方が良いという考えのもと、設計している。このあたりも評点を稼いだポイントと思われる。もし完成すれば、米国流のボールパークとしてはもちろん「日本初」である。
絵をよくみるとわかるように、ライト側とレフト側とが左右対称ではなく、レフト側(線路に近い側)はやや高さを抑えている。照明にも浮かび上がるスタジアムは、新幹線の車窓からも見え、新しい広島を象徴するものとなることは間違いない。

(注) 米国では単にボールと言えばベースボール(野球)を指す。野球場はボールパーク。

「屋根なし」には議論も

ところで、最近の大型球場はドーム型が多い。広島にも10年以上前からドームを・・・という議論があり、可動式を含め屋根付きを推す意見も根強いようだ。
「雨が降ってもゲームが行えるため、広域から確実に集客できる」「都市の拠点性を高める施設として必要」など、屋根付き・ドーム派はその利点を挙げる。屋根付きか、屋根なし(オープン)か・・・。この点が「目に見える」争点として、市民の関心も高い。市もこの点は検討課題と認識しており、屋根なしで決めたというわけではない。市広報紙の8月15日号に跡地利用問題が一面カラーで掲載されたが、「屋根架けの可能性も検討」として、シアトルのセーフコ・フィールド(99年オープン、開閉式天然芝)の写真も参考に載せている。ただし、屋根を架けると費用がかさむことから、経済界も応分の負担をせざるを得ないとみられ、屋根付き案を強く推しにくい事情がある。

商業施設には外資が参画

商業施設は、延床面積 7万m2を超える巨大な商業・エンターテイメントゾーンが計画されている。具体的にはレストランやショップのほか、映画館、アミューズメント、スパ・フィットネス施設などから構成される。このうち、物販は日本初上陸のショップなどを配する計画となっている。プロ野球ファンだけでなく、多様な世代・客層が楽しめる娯楽空間を狙っている。例えば、お父さんとお兄ちゃんは野球観戦、下の妹たちはママと一緒に映画に・・・といった楽しみ方もできる。
全米で300箇所近くもショッピングモール(大型ショッピングセンター)に投資している不動産信託最大手のサイモン・プロパティ・グループが今回のプランづくりに参画している。実績のある有力外資の参加を得て、収益施設をかなり盛り込んだこともあって、採算性が高く、市の負担が少なくて済みそうな点も評価された模様だ。

商業拠点間の競争はますます激しく?

近年、広島駅周辺では大型の商業施設がオープンし、現在の中心である紙屋町から八丁堀にかけての既存商業地区との間で綱引きが生じている。また、計画地と線路をはさんで北東側にはキリンビール工場跡地もある。こちらの方は、既にビアパークができているほか、2004年には大型商業施設がオープン予定である。ヤード跡地の計画が実現すると、俄然、東に商業の重心が移る可能性がある。
大型商業施設開発が続くことから、既存商業者にとってはオーバーストア(店舗過剰)になるのではという不安もあるようだ。
なお、現在の広島市民球場の跡地利用については、「都市文化広場」「都市型魅力施設(平和・芸術文化・教養施設)」「セントラルパーク」「都市型遊園地」の4つの構想がある。

市民球団を持つ広島市の「思い」

今回の案をベースに提案グループも交えて具体的な検討が進むことになるが、市民、議会、経済界からの多くの意見や要望などの「熱き思い」を有する多くの方々とともに実現していきたいこととして、市では施設内容について次のように整理している。広島市のこの地にかける「思い」がよくにじみ出ている。

広島の新たなシンボルとなることはもちろん、世界中から人が集まる施設

  1. 多様なニーズに応える観戦スタイルを持つスタジアム
  2. 計画的な観戦と広域集客が可能になるスタジアム
  3. 多様なイベント・交流の舞台、「街」の創造
  4. 広島初の商業店舗の導入、野球場と商業娯楽機能の複合した日本初の交流拠点
  5. 「スポーツ王国広島」復活のためのイベントを創出する拠点など

広島東洋カープがこれからも元気で、市民に夢や希望を与えられる施設

⇒ スタジアムの建設・運営、恒常的なにぎわいづくりなどへの球団の参画

人が輝き、都市環境にやさしい施設

⇒ ユニバーサルデザイン、エコロジー

夢の実現に向かって

今のところ、施設づくりの大まかな方向が決まったにすぎない。完成目標時期が決まっているわけでもない。官と民の役割分担や、土地や建物の整備・利用の仕組みなど、まだまだ解決すべき点は多い。しかしながら、最近、福岡などに比べて精彩を欠きがちな広島にとって、貨物ヤード跡地開発は「夢」のある重要な事業となりそうだ。「夢」の実現に一歩でも近づくためには、市民、経済界、開発事業者、行政、議会、関係者が一つになることが必要だが、球団・球場への愛着、拠点間バランス、都市間競争、資金負担などさまざまな要素が複雑に絡み合い、具体的に進み始めるまでにはまだまだ議論が続きそうだ。
しかし、こうして都市開発について、テーマと活用しうるスペースがあり、市民と行政・議会が前向きの議論を戦わせることができるのは、羨ましささえ感じさせられる。日本初の「ボールパーク」を核としたエンターテイメント・スタジアムが広島に姿を現す日が楽しみだ。

(3点ともイメージ)(株)電通西日本提供

(3点ともイメージ)(株)電通西日本提供

(福嶋 康博)

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