特定分野・製品で世界一あるいは日本一のシェアを誇る愛媛の企業を“くろーずあっぷ”し、紹介する「愛媛が誇る世界一、日本一企業」シリーズ。
第11回目となる今回は、「お茶パック」の生産日本一の(株)トキワ工業を訪ねた。
1.「お茶パック」誕生までの経緯
~当社設立の経緯~
当社を設立したのは、前社長の青木常雄氏である。青木氏はユニ・チャーム(株)および同社の関連会社に勤務後、脱サラして当社を創業したが、創業以前から「お茶パック」の素材である不織布(ふしょくふ)との関わりがあった。不織布とは、数万本の繊維に高い圧力を加えてシート状にした物。低コストで大量生産が可能、また、柔らかく丈夫で風合いがよく、通気性があるなどの特性があり、マスクやオムツ、自動車のエアーフィルター、使い捨てカイロなど日常生活の様々な所で利用されている。青木氏はサラリーマン時代に不織布工場の管理を担当し、同工場の経営改善に携わるという貴重な経験をした。
この時、青木氏は、その工場の抜本的な経営改善を図るため、外部の不織布製造会社のノウハウを採り入れることの必要性を痛感し、県外の不織布製造機械のメーカーに頼み込んで、このメーカーの機械を導入している全国の不織布製造会社を何社も回ったという。同行した部下には、「学ぶべきものは毛穴からでも吸収しなさい」と命じ、叱咤激励しながらともにノウハウの吸収に努めた。その結果、半年余りで収益力を大幅に向上させることに成功したが、同時に、不織布と関わる中で「自ら不織布の製造加工を手掛けたい」という想いも募っていったという。当社が位置する宇摩圏域は製紙メーカーとともに紙加工業者が数多く集積し、多種多様な紙加工品を製造していることから新規参入は難しい状況にあったが、創業の決め手となったのは、不織布は比較的新しい分野であったこと、また、全国の生産業者からノウハウを学んだ貴重な経験を十分生かせることであった。
こうして1979年、55歳で定年退職を機に、自らの会社を立ち上げた。
~原点はコーヒーフィルター~
不織布の加工品製造で最初に手掛けたのが、コーヒーを飲むサイフォン用のフィルターであり、これが後の「お茶パック」の“原点”となった。喫茶店ではネル製のサイフォン用のフィルターを洗って何度も使っていたが、「使い捨ての不織布製品にすれば、手間もかからず売れるのでは」と考えたのである。
ただし、当時飲食用の不織布フィルターはなく、そのまま使うと不織布の臭いが出て、コーヒーの味が損なわれるという大きな課題があった。そこで、当社は不織布製造会社に飲食用不織布の開発を依頼するなどして、3年間心血を注いで商品開発に没頭し、ついに成功したのである。
~「お茶パック」誕生~
1983年、コーヒーフィルターの開発に成功後、直ちに約5百万円の機械投資を行い、サイフォン用のフィルターの生産準備を進める一方、「他にも何か使えないか」と考え、試したのが「お茶パック」である。
この「お茶パック」には3つの大きな特徴がある。まず第1は「食品専用の不織布」を素材としていること。この不織布は、当社が数年かけて開発した「ポリエステルを主要繊維素材とした不織布」である。第2は「繊維特有の臭いがない」こと。接着剤を使っていないので、食品本来の味を引き出すことが可能だ。第3は、「環境に十分配慮した商品」であること。漂白剤を使用していないので、燃やしてもダイオキシンなどの有害物質が出ることがない。
「お茶パック」としての商品化のポイントになったのは、丸いフィルター原紙を長方形に切り、加工した袋の上部を反対側に引っくり返すことで蓋(ふた)ができ、この蓋によって使用後のお茶の葉が散らばらないようにするというアイデアだった。出来上がってみると実に簡単な仕組みだが、このアイデアを生み出すのに何年も苦心したのである。この「お茶パック」を使うことにより、通常どおりのお茶の香りや味わいを引き出せる一方、使用後はパックのまま捨てるだけなので、茶がらの後始末をする手間が省け、台所の流し周辺を清潔に保つことが可能となった。
「お茶パック」の商品化を検討する段階で、「喫茶店ではサイフォンを使っているが、一般家庭ではほとんど使っておらず、今後大きな需要は見込めない。むしろ、お茶であれば家庭で日常的に消費するものであり、需要は安定している。お茶パックを主力商品にした方がいいのでは」という声が社員からあがった。既にフィルター用で設備投資したばかりだということもあり、青木氏自身に迷いはあったが、「授業料を払ったと思えば安いもの」と考え、思い切ってコーヒーフィルターの生産を取り止め、「お茶パック」の製造機械を導入、「お茶パック」の生産に取り掛かった。この時の“英断”がなければ、おそらく現在の「お茶パックのトキワ工業」はなかっただろう。
2.全国トップシェアの秘訣
~大手スーパーの販売実績を礎に全国展開~
当社が本格的に「お茶パック」を販売し始めたのは、創業から6年目の1985年である。当初は販売ルートもなく、どれだけ売れるのか皆目見当もつかなかったという。
足掛かりとなったのは、青木氏がユニ・チャーム(株)勤務時に培った人脈だった。同社の福岡営業所に商品を持ち込み、売れる可能性があるかどうか打診したところ、同社製品の試供品として約5万個を市場に出すことができ、かつ利用者からも大変好評を得た。追加注文が相次ぎ、商品を扱いたいという問屋も続々と出てきた。このことによって、青木氏は当社の商品が市場で十分受け入れられるという確信を得たという。この後、地元スーパーを中心に実績を積み上げ、四国における販売体制の基礎を確立していった。
四国で足固めをした後は、いよいよ全国展開である。当社が狙いを定めたのは全国大手スーパーだった。まず、このスーパーの子会社に商品を持ち込み、実際に使ってみてもらったところ「この商品なら本体で販売した方がいい」という高い評価を得ることができ、この大手スーパーの約200店舗の店頭に「トキワのお茶パック」が並ぶことになった。一方、全国家庭用品卸協同組合への積極的なセールスも効を奏し、問屋ルートによる全国販売ルートの確立にも成功した。
~独自のノウハウでトップシェアを維持~
当社が市場に商品を投入した後、類似した商品を製造・販売する会社が追随し、一時期は8社が市場に参入する競合状態となったが、当社は全国で約6割のシェアを占め、業界トップの座を堅持している。
その最大の強みは、不織布に含まれている薬品の除去などに代表される、高い技術力に裏打ちされた当社独自のノウハウにある。当社では商品を製造する生産機械も自社開発している。以前は機械メーカーに発注していたが、商品の持ち味を一番理解しているのは社内の人間であるという基本的な考えのもと、自社内で現場の社員の意見を参考に創意工夫しながら製造ラインを構築している。
このような当社独自のノウハウは、創業以来、常に技術改良を念頭に、社長以下全社員が妥協なき挑戦を続けてきた結晶なのである。
また、「生活者の視点」に立ち、常に商品の改良にチャレンジし続けていることも強みの1つだ。その“主役”となるのは当社工場で働く女性社員である。当社の製造ラインは約40人、そのほとんどは女性社員だが、ただ商品を製造するだけではない。時には「モニター」としてさらに優れた商品にしていくために互いに知恵を出し合い、商品パッケージのデザインなども意見交換しながら決めていくという。
~主婦の味方になる商品を次々開発~
当社は「お茶パックシリーズ」を本格的に発売した後も多彩な商品群を世に送り出しており、商品アイテム数は30以上を数える。
基幹商品ともいうべき「トキワのお茶パック」は家庭用のMサイズ、Lサイズ、業務用・オフィス用のLL、抽出力をアップしダシ取りにも便利な新構造のAなど、用途や目的に応じたシリーズ化を図っている。
また、関連商品として、ムギ茶用の「ムギ茶パック」や漢方生薬の煎じ用などに便利な「薬草パック」「薬草パックL」などが市場に投入されている。
創業当初取り組んだコーヒーフィルターについても、家庭用のコーヒーメーカーの普及が進んだため、1994年に商品化した。
一方、日常生活における利便性向上の観点から商品化した「生活便利シリーズ」も多種多様である。代表的なものとして、排水口の目皿にかぶせるだけでゴミなどを逃さずキャッチする「バスコース」や、しゃぶしゃぶ等の料理のアク取りに最適な「アクトール」、保温中のご飯の黄ばみや嫌な臭いの発生を防ぐ「HOTフレッシュ」などがあり、「主婦の味方になる商品」を目指してきた結果、これら派生商品の開発にも次々と成功している。
3.さらなるステップアップを目指して
~新体制でさらなる飛躍を~
今年8月、当社の創業者である青木社長が会長に昇格、会長の娘婿である北野輝美氏が社長に就任した。北野氏は香川県生まれの55歳。約25年間アパレル業界に携わったが、1995年に当社に入社、近年は営業本部長として当社発展の一翼を担ってきた。
北野社長は長年のアパレル業界での経験も踏まえながら、「商売の原点は、誠実さ、そして一所懸命さ、これに尽きるのではないですか」とソフトに語る。
前社長である青木氏が築いてきた理念を継承しながら、社長就任早々から1販売力の強化、2生産性の向上、3個人の自主性尊重、4変革し続けていくことの大切さを訴え続け、消費者ニーズに真摯に応えていく強固な社内体制の確立に日々奮闘している。
今後ますますの飛躍が期待される。
(小林 豊和)
【会社概要】
会長 | 青木 常雄 |
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社長 | 北野 輝美 |
本社所在地 | 四国中央市土居町津根2663-1 |
資本金 | 1,200万円 |
年商 | 約7億円 |
従業員数 | 80名 |
【会社沿革】
1979年 | 現会長である青木常雄氏が(株)トキワ工業設立 |
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1983年 | 「お茶パック」の商品化に成功 |
1984年 | 「お茶パックシリーズ」の本格的発売開始 |
1986年 | 大阪営業所を開設 |
1988年 | 九州営業所を開設 |
1990年 | 東京営業所を開設 |
1992年 | 第二工場を新設 |
1994年 | コーヒーフィルター発売開始 |
1998年 | アクとりフィルター「アクトール」発売開始 |
2000年 | コーヒーフィルター「ネオ・ドリッパ-」発売開始 |
2004年 | 北野輝美氏が新社長に就任 |