2010年までに海外からの観光客数を2002年の2倍の1千万人にするという目標を掲げた「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が2003年4月にスタートした。海外からの観光客を誘致するために、地域ごとの特色を活かした様々な試みが行われている。
福岡では、空路1時間で釜山、1時間半でソウル・上海という、アジアの主要都市への近さを活かして、官民あげてアジアからの観光客誘致に努めている。
今回は、博多-釜山間の高速船による韓国人観光客が増加している福岡の現状と、アジアをターゲットとした外国人観光客誘致への取組みを紹介したい。
増加する韓国人入国者
過去5年間の福岡への外国人入国者数を見てみると、2003年こそSARSの影響で微減したものの、増加傾向にある。なかでも、韓国人入国者数が全体の増加を牽引している状況がはっきりと見て取れる。
博多-釜山航路の旅客数が増加
博多港は、平安時代から中国・朝鮮への海の玄関として栄えてきた。現在では、アジアへ向けた窓口としての重要性が、以前にも増して高まっている。最近では、韓国釜山との間の航路が旅客数を伸ばし、韓国との交流増加に一役買っている。博多-釜山航路は、昨年には乗客数が50万人を超え、日本最大の国際航路となっている。
主役はJR九州の高速船「ビートル」
その大きな要因が1991年より就航した、JR九州のジェットフォイル「ビートル」で、最高速度約45ノット(時速83km)の高速を誇り、博多-釜山間を2時間55分で結んでいる。料金は繁忙期でも往復24,000円と航空運賃30,000円程度に比べ安いこと、便数が多く利用しやすいこと、空席さえあれば、予約がなくても乗ることができ、気軽に手近な外国へ行くことができることなどが、利用者が増えている理由である。
また、福岡-釜山間の対馬海峡、玄界灘は、波が荒いことで知られているが、「ビートル」の就航率は95%を超えており、台風等のよほどの荒天でなければ欠航もない。揺れも少なく、乗り心地も良い。飛行機と比べれば、室内の開放感も勝り快適な船旅が楽しめる。
以上のようなことから、「ビートル」は、安定した、利用しやすい交通機関として定着してきた。航路開設当初は年間4万人程度だったが、90年代末から乗客数は急速に増加し、2003年には、30万人を超えた。
2002年には、韓国の未来高速が、「コビ-」という「ビートル」と同形式のジェットフォイルを用い、同じ博多-釜山航路に参入してきた。現在では、「ビートル」が4隻1日最大5便、「コビ-」が3隻1日最大4便と、便数も増えた。
福岡-釜山間の乗客シェアでみると、海路は空路を2001年に逆転し、現在ではほぼ1.7倍の乗客を運んでいる。輸送能力の増強が、利便性の向上をもたらし、それによりマーケットが拡大し、輸送量増大へとつながるという好循環になっている。
国際色豊かな福岡市
福岡市では、外国人観光客誘致に向けた取組みを積極的に行っており、「ビジターズ・インダストリー(集客産業)の振興」をキーワードに交流人口の増加を図るため、様々な事業を展開している。
実際に福岡市内を歩いてみると、JR駅、地下鉄駅等での4カ国語表記がみられるなど、誘導サイン、誘導案内の整備が進んでいる。
今年10月上旬には、アジア各国の伝統文化を紹介するアジアンマンスのイベントが開催され、集客力強化に向けた取組みも行われた。
福岡観光コンベンションビューローのホームページでは、韓国語、中国語のページもあり、外国からの観光客向けにウェルカムカード(優待割引付きの観光案内小冊子)を発行するなどの取組みも行っている。
また、福岡市は太平洋都市観光振興機構(TPO)の副会長(会長は釜山市)を務めており、総会を2005年に誘致するなど、多国間の都市連携についても積極的に取組んでいる。
その他特徴的な取組みでは、インセンティブツアーのセールスを積極的に行っていることがあげられる。会社の営業成績が優秀な人等に対する、報奨としてのツアーを取り込もうとするものである。インセンティブツアーで来日する韓国人は、お土産などの買物を1人あたりなんと、100万円から200万円程度もするとのことであり、地元経済に対する効果は大きい。その旺盛な消費を狙って、博多駅前に立地する家電量販店では、1階を化粧品売り場に改装するなど、韓国人・中国人観光客を狙った独自の売り場構成を行う小売業者も出てきている。
釜山市と共同で観光交流
福岡市では、2000年より釜山市と共同で観光誘致事業を展開し、観光客誘致に向けて様々な取組みを行っている。
その具体的な取組みとして、協同宣伝物(パンフレット)の作成や、アジア各都市での共同観光説明会を開催している。
また、「2004朝鮮通信使韓・日文化交流事業」が釜山市で行われ、福岡市では伝統芸能団を派遣し、PRを行い観光客の誘致を図った。
福岡市のその他の取組みとしては、福岡・釜山・上海市民クルーズ「三都航路2004」というキャンペーン事業を行った。観光交流の増進と友好親善を図ることを目的に、三都市間をチャータークルーズ船で巡り、上海で伝統芸能を披露し、観光説明会を開いた。現地のマスコミに取り上げられるとともに、三都市のトップ会談が行われるなど、大きな成果があったようだ。
「九州」ブランド確立に向けて
福岡県では、九州の他の県との共同事業にも力を入れている。主な内容としては、中国向けプロモーションソフト作成、エージェント等招聘事業、国際観光展出展、マスコミ招聘事業などである。今年より、九州観光戦略観光会議を立ち上げて、官民一体となった取組みの推進を行おうとしている。
また、福岡県はアジアに香港、上海、ソウルの3事務所を持っており、現地からの観光客誘致にも力を入れている。
これに対して、福岡市及びその外郭団体である財団法人福岡観光コンベンションビューローは、九州の縦の軸(福岡・熊本・鹿児島)、横の軸(福岡・佐賀・長崎)の連携による周遊型の観光を提案するという取組みを行っている。福岡市を、アジアの玄関口と位置付け、少なくとも福岡で1泊してもらおうとしている。
さらなる外国人観光客誘致を目指して
韓国との間では、来年の愛知万博期間中、韓国人観光客のノービザ化が行われる事が決定している。さらに万博期間中だけではなく恒常的なノービザ化の期待が高まっており、実現すれば交流拡大に大きく寄与すると考えられる。また、日韓FTA交渉が始まっているが、締結すればモノの交流とともに人の交流も拡大することだろう。
中国については、今までは日本への団体観光客へのビザ発給は北京市、上海市、広東市のみに限られていたが、今年より天津市、江蘇省、浙江省、山東省、遼寧省にも拡大された。中国市場はまだまだ未開拓の市場であり、欧州などの他地域との競争や、価格競争も厳しいものの、その潜在需要は大きい。
なお、福岡では外国人の不便解消を目指して、アジア人留学生による「不便調査」を開始した。その結果を基に、外国語の表示やアナウンスなどの充実を関係業者・自治体に求めようとしている。
外国人観光客誘致に対するきめ細かな取組みを継続して行うことにより、“アジアからの玄関都市”としての福岡の魅力は、より一層高まることだろう。
(池田 隆)