今年、四国で初めてのJリーグチーム、「徳島ヴォルティス」が誕生した。同チームがJリーグ(J2)に昇格するにあたっては、徳島県の行政、企業、県民のすべてが一体となった支援があったようだ。
現在、愛媛においても、愛媛FCがJリーグ昇格を目指している。一足先にJリーグ入りを果たした徳島ヴォルティスに学ぶ意味も込めて、今回は、徳島ヴォルティスのJリーグ昇格への取り組みを紹介する。
チーム名はJリーグ昇格前に一般公募されたが、徳島ヴォルティスの母体となった大塚製薬サッカー部が、以前にこの名前を使用していたこともあり、圧倒的多数の支持を受けて採用された。
Jリーグ昇格を目指して
徳島には、以前からJFLで常に優勝を争う大塚製薬サッカー部があり、地元でのサッカー熱は高かった。
約10年前には、Jリーグチーム誘致運動が起こり、徳島県民の3割に当たる24万人もの署名を集めたが、資金不足などを理由に断念した苦い経験がある。し かし、その後もサポーターは大塚製薬サッカー部の試合に足を運び、熱い応援を送り続けた。そうした徳島県民のJリーグチーム誕生への思いの実現に向けて、 リーダーシップを発揮したのは、現徳島県知事の飯泉嘉門(いいずみかもん)氏である。飯泉氏は2003年の知事選挙に立候補した際、マニフェスト(選挙公 約)のひとつに「徳島にJリーグのチームを創る」ことを掲げた。飯泉知事は埼玉県庁に勤務していた時、2002年サッカーワールドカップの会場となったわ が国最大のサッカー専用競技場「埼玉スタジアム2002」の施設整備のため、サッカー先進国のイタリアやオランダを視察した。そこで、プロサッカーチーム を持つまちに生まれる、世代を越えた一体感や活力を肌で感じたという。このことが「徳島のまちづくりにサッカーを活かしたい」という知事の思いの原点と なった。
当選後、飯泉知事は徳島県庁内にJリーグチームを創るためのプロジェクトチームを設置し、公約実現に向けて全力で取り組む姿勢を示した。
また、2004年9月に設立されたチーム運営法人、徳島ヴォルティスの社長には、かつて大塚製薬サッカー部主将として活躍していた本浩司氏が起用され、地元地方新聞社からはゼネラルマネージャーが、地元地銀からは財務のスペシャリストが、徳島県からは、「Jリーグチーム推進室」のメンバーがそれぞれ派遣された。
Jリーグ昇格に向けての環境整備が着々と進む中で、大塚製薬サッカー部は、この年のJFLで、熱心な徳島県民の応援を受け、並み居る強豪を抑えて見事リー グ1位(2連覇)となり、J2昇格要件を満たした。こうして、2005年、晴れて、徳島ヴォルティスはJリーグの一員となったのである。
いわゆるJリーグとは、J1、J2のことを指す。中期的にJ1、J2それぞれ20チームずつの合計40チームに増やす構想を持っており、チーム数は増加してきている。「100年後には日本全国に100チーム」がJリーグの最終目標である。
徳島ヴォルティスのJリーグへの軌跡
年 | 主な出来事 |
---|---|
1955 |
|
1988 |
|
1989 |
|
1992 |
|
1994 |
|
1995 | チームの愛称を「ヴォルティス徳島」に |
1999 |
|
2001 |
|
2002 |
|
2003 |
|
2004 |
|
2005 |
|
Jリーグのチーム数の推移
度 | J1 | J2 | 合計 | 新規参入チーム |
---|---|---|---|---|
1992 | 10 | - | 10 | 鹿島・市原(現千葉)・浦和・V川崎(現東京V)・横浜M・横浜F・清水・名古屋・G大阪・広島 |
1993 | 10 | - | 10 | |
1994 | 12 | - | 12 | 平塚(現湘南)・磐田 |
1995 | 14 | - | 14 | 柏・C大阪 |
1996 | 16 | - | 16 | 京都・福岡 |
1997 | 17 | - | 17 | 神戸 |
1998 | 18 | - | 18 | 札幌 |
1999 | 16 | 10 | 26 | 山形・仙台・新潟・大宮・川崎F・FC東京・甲府・鳥栖・大分(横浜Mと横浜Fが合併し横浜FMに) |
2000 | 16 | 11 | 27 | 水戸 |
2001 | 16 | 12 | 28 | 横浜FC |
2002 | 16 | 12 | 28 | |
2003 | 16 | 12 | 28 | |
2004 | 16 | 12 | 28 | |
2005 | 18 | 12 | 30 | 徳島・草津 |
地域の支援体制も充実
競技場がある鳴門市では、競技場周辺の施設の駐車場を無料開放している。県も鳴門総合公 園陸上競技場の使用料を減免するとともに、競技場の使用スケジュールは徳島ヴォルティスの試合を優先して組まれている。このように、徳島ヴォルティスを盛 り上げるために、できることはすべてするという体制がとられている。
一方、企業の支援の状況をみると、金銭面以外でも、徳島ヴォルティスの事務 所はジャストシステムが提供し、練習場については大塚製薬が協力している。また、徳島新聞社は、ほぼ毎日、紙面でチームの情報を発信して応援ムードを盛り 上げるなど、様々な形での支援が行われている。
徳島県内の100を超える商店、飲食店、事業所は「VORTIS応援ショップ」という形で、5,000人を超えるファンクラブ会員に様々な割引サービスを提供している。
また、徳島市の東新町1丁目商店街では、徳島ヴォルティスを応援する垂れ幕を独自に作成し、アーケード内に設置している。さらに、地元の菓子メーカーも、渦にちなんだロールケーキを販売するなど応援ムードを盛り上げている。
さらに、社会人や学生のボランティア、そしてジュニアチームのメンバー、サッカー教室の生徒などが、試合の際に「我がチーム」という気持ちで観客の入退場管理等の運営を手伝い、チームに貢献している。
「身の丈にあった経営」
徳島ヴォルティスの経営コンセプトのひとつが「身の丈にあった経営」である。多額の契約金・移籍金を支払って有名選手を獲得するといったことは行わず、「あくまで身の丈にあった」、費用対効果を十分に考えた経営を実践している。
徳島ヴォルティスの財務担当者によれば、「地方のJリーグチームは、予算規模もさほど大きくなく、大型補強などは難しい。ただし、選手の育成に力を入れる ことでチームの強化を図ることは可能である。同時に、地元との交流などを積極的に行い、地元密着の運営を心がけることにより、一定数以上の観客数の確保が 可能となる」とのことである。本社長も「強さで愛されるのではなく、愛されて強くなりたい」と語っている。
高まる存在感
今シーズン、7月16日までの戦績は、4勝7敗11分けで、12チーム中10位である。昇格1年目であることや、開幕から主力選手を負傷で欠いていたことを考慮すれば、健闘しているといえる。
また、昇格後のホームゲームでの観客数はJ2チーム採算ラインのひとつの目安といわれる1試合当たり4,000人をほとんどの試合で上回っている。
徳島ヴォルティスの観客動員数
試合日 | 対戦カード | 会場 | 観客数(人) |
---|---|---|---|
3月5日(土) | べガルタ仙台 | 仙台スタジアム | 17,375 |
12日(土) | 湘南ベルマーレ | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 8,226 |
19日(土) | 水戸ホーリーホック | 笠松運動公園陸上競技場 | 2,576 |
26日(土) | サガン鳥栖 | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 5,325 |
4月2日(土) | ザスパ草津 | 立敷公園県営サッカー・ラグビー場 | 2,561 |
9日(土) | モンテディオ山形 | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 4,086 |
15日(金) | ヴァンフォーレ甲府 | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 3,956 |
23日(土) | 横浜FC | 横浜市三ツ沢公園球技場 | 5,024 |
30日(土) | コンサドーレ札幌 | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 5,689 |
5月3日(祝) | 京都パープルサンガ | 西京極総合運動公園陸上競技場 | 11,727 |
7日(土) | アビスパ福岡 | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 4,124 |
14日(土) | 湘南ベルマーレ | 平塚競技場 | 4,112 |
21日(土) | 水戸ホーリーホック | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 4,028 |
28日(土) | ヴァンフォーレ甲府 | 小瀬スポーツ公園陸上競技場 | 5,048 |
6月3日(金) | 横浜FC | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 4,589 |
11日(土) | コンサドーレ札幌 | 札幌ドーム | 12,675 |
18日(土) | 京都パープルサンガ | 鳴門総合運動公園陸上競技場 | 4,615 |
25日(土) | サガン鳥栖 | 鳥栖スタジアム | 11,631 |
(注) こちらの背景色はホームゲーム |
(財)徳島経済研究所は、徳島ヴォルティス昇格1年目の経済効果を約15億円と試算している。調査を担当した主任研究員の元木秀章氏によれば、「観客数やファンクラブ会員数などは、目標を上回って推移している」とのことである。
さらに、お金に換算できない、徳島県民の意識やメンタル面に与える効果、すなわち地域活性化効果も大きい。「徳島県民にとって阿波おどりが無くてはならない存在であるように、徳島ヴォルティスもかけがえのない存在になりつつある」と元木氏も語っている。
愛媛FCも続け!
徳島ヴォルティスの関係者やサポーターは、JFL時代に愛媛FCを良い意味でのライバル と見ており、当時の両チームの直接対決は、同じ四国のチーム同士の戦いということで「四国ダービー」と呼ばれ、非常に注目していたそうである。「愛媛FC がJ2に昇格して、また同じリーグで対戦するのを楽しみにしている」という声もたくさん聞かれた。
現在、愛媛FCはJ2昇格を目指してJFLで 奮闘中である。運営法人も既に設立され、競技場の整備が進められるとともに、県や松山市が愛媛FCへの出資を予算案に盛り込むなど、昇格に向けた準備は 着々と進んでいる。あとは、徳島県民が徳島ヴォルティスに送った応援に負けない応援を、愛媛県民1人ひとりがすることによって、愛媛FCがJFLで2位以 内の成績を挙げることを待つばかりである。
来シーズンにはJ2に舞台を移しての「四国ダービー」が実現することを期待したい。
(藤原 英治)