今年の秋から来年にかけて、NHKのドラマで四国が大きくクローズアップされる。先月末にスタートしたばかりの朝の連続テレビ小説「ウェルかめ」は、徳島県が舞台。11月からはいよいよ、松山市民待望のスペシャルドラマ「坂の上の雲」が放送開始となる。
さらに、来年1年間にわたって放送される大河ドラマは「龍馬伝」ということで、坂本龍馬の生誕地である高知県においては、これを観光振興の起爆剤にするべく、様々な取り組みが始まっている。
大河ドラマの経済効果
毎年、NHK大河ドラマの舞台になった場所は、観光客の増加などにより一定の経済効果がもたらされている。
平均視聴率24.5%と、近年の大河ドラマの中でも人気の高かった「篤姫」が放送された昨年、お膝元の鹿児島県では、約262億円の経済効果がもたらされたとの試算もある(鹿児島地域経済研究所試算)。
高知では、2006年放送の「功名が辻」によって、すでに大河ドラマの恩恵を受けている。この年、高知県では高知城をメイン会場に「土佐二十四万石博」が 開催された。「大河ドラマ館」には26万人の入場者があり、高知城懐徳館の入場者は前年の13万人弱から2.5倍の32万人に膨れ上がった。県下の観光客 数は前年比11.4%増加し、四銀キャピタルリサーチの調査によると、約107億円の経済波及効果をもたらした。
また、長崎県における「龍馬伝」の経済効果を日本銀行長崎支店がすでに試算しているが、その額は210億円と見込まれている。
「土佐・龍馬であい博」のねらい
「龍馬伝」の高知県への経済効果がどの程度になるかは、ドラマの中で土佐藩時代の龍馬の 露出がどのくらいあるのか、ドラマ自体のおもしろさはどうか等によっても変化するであろうが、主人公の知名度や出演者の人気などを考えると、「功名が辻」 や「篤姫」をしのぐものになると期待できそうだ。そして、このチャンスをどう活かすかは、地元の取り組みにかかっているとも言える。
取り組みの 1つとして高知県では、2010年1月16日から11年1月10日の期間で、「土佐・龍馬であい博」(以下、「であい博」)を開催することを決定した。昨 年10月、県および県下市町村、観光関連の民間企業などからなる「土佐・龍馬であい博推進協議会」が発足し、官民一体となった取り組みが始まっている。
「であい博」では、その波及効果をより広く県下全域に及ぶようにしたい、という思いが強い。「土佐二十四万石博」の際は、観光客が増えたのは、高知城周辺地域に限られ、足摺や室戸など高知市から離れた地域では、観光客数が前年を下回った地域すらあったという。
その反省を踏まえ、「であい博」では、高知市のメイン会場に加え、岩崎弥太郎の故郷である安芸市、龍馬が脱藩する際に通った檮原町、ジョン万次郎が生まれ た土佐清水市の3ヵ所にサテライト会場が設けられる。各サテライト会場では、ドラマに関する展示に加え、周辺市町村を含む周遊観光ルートの提案や、特産品 を買える場所の紹介等をきめ細かく行う。ドラマを機に訪れた人を県内各地に誘導する、また地元産のものを買ってもらうことで一次産業・二次産業にも効果を 波及させようとしている。
メイン会場は絶好の立地
高知市に設けられるメイン会場は、昨年2月にリニューアルしたJR高知駅に隣接する県有地 で、またとない好立地である。ドラマのセットや衣装、出演者らを紹介するテーマ館「高知・龍馬ろまん社中」と、高知の各市町村の観光資源や特産品などを紹 介する情報発信館「とさてらす」からなるパビリオンが建設される。
パビリオンは、県土の84%を森林が占める高知にふさわしく、県産材を使った木造建築となる。同じく県産材のアーチ屋根が印象的な、新しい高知駅舎の外観に合うようデザインされている。
テーマ館での展示は大河ドラマ放送期間限定であるが、建物自体は「であい博」終了後、移築・再利用の予定だという(用途は未定)。一方、情報発信館は、終了後も引き続き同地で観光客らに高知の魅力を発信する拠点としての役割を果たす。
すでに動き始めたプレ・イベント
「開幕まであと150日」―高知駅のコンコースには、「であい博」開幕までの日数を示すカウント・ダウン・ボードが設置されている。
開幕に先立ち、高知県内ではすでにプレ・イベントがいくつか開催されている。主に高知県民を対象としたもので、地元の歴史や、高知が生んだ幕末の偉人の功績をもっと知ってもらうことに主眼が置かれている。
「土佐・志士めぐり」と名づけられたイベントは、龍馬誕生地碑や中岡慎太郎生家など、幕末の志士たちに関連の深い史跡や石碑、銅像などを巡る企画である。 リストアップされた44ヵ所のうち22ヵ所以上を巡って撮影した写真を、県の土佐・龍馬であい博推進課に送ると、プレゼントがもらえる。地元でも意外に知 られていない史跡等を再発見するきっかけになりそうだ。
さらに、「幕末ゆめ道場『幕末維新の土佐』」と銘打った巡回講座が、県内8市町村11会場で開催されている。地元の偉人たちの功績や、知られざる歴史の舞台裏などについて、より深く知ることのできる講座となっている。
講師を務めるのは、「こうちミュージアム・ネットワーク」を組織する、県内の資料館・記念館等の学芸員である。地域が生んだヒーローたちの真の姿に触れる貴重な機会となりそうだ。
まずは、地域住民の認識を深めること、それがプレ・イベントの大きな狙いである。こういったイベントにどれくらいの高知県民が興味をもって参加するか、そして、再発見した地域 の歴史への思いを、訪れた観光客にも伝えることができるかが、観光振興のカギとなるのではないだろうか。
イメージキャラクターも始動
幅広い世代に親しみをもってもらうため、龍馬をはじめ、ドラマでも主要な登場人物となる5人のイメージキャラクターがデザインされている。キャラクターの着ぐるみは、県内のイベントや観光キャラバンなどでひっぱりだこのようだ。
加えて、漫画「おーい!龍馬」のキャラクター「龍馬」がオフィシャルサポーターとして、「であい博」を応援することが決まった。地元企業での商品化なども検討されているようだ。さすが漫画王国・高知である。
最後は人間力
観光イベントを開催すると、「一過性に終わらせるな」ということが必ずといっていいほど言われる。しかし、イベント終了後に、開催期間中以上の集客を望むことは難しく、現実的には2年目以降の落ち込みをいかに抑えるかが課題となる。
「であい博」では、コンシェルジュ機能を強化し、観光情報、食と物産に関する情報、イベント情報、観光周遊バスや観光タクシーといった二次交通の情報など を、細かく提供しようとしている。そのためには、地元のことに精通した人材の育成が不可欠だ。そして、そのような人材の魅力は、ドラマ終了後も消えること がない。
「おそらく来年、高知を訪れる観光客は増えるだろうけれど、高知は龍馬が実際に活躍した場所ではなく、また生家など歴史的な建物も残っ ていないので、満足してもらえるか…」高知市内で活動している、あるボランティア・ガイドさんは、こんな不安をもらした。しかし、龍馬をはじめ幕末の偉人 を数多く輩出したふるさとに対する地元の方々の誇りや愛着が観光客に伝われば、観光客はきっとなんらかの感動を覚えるはずだ。
高知に歴史ファンが集まるこの機会、龍馬が伊予路を抜けて脱藩したように、高知観光を楽しんだ後は「坂の上の雲」に沸く愛媛・松山にまで足を伸ばしてもらいたいものである。本県でも効果的なPR策を打ち出して、愛媛を訪れる人が増加することを期待したい。
(上甲 いづみ)
土佐・龍馬であい博 概要
会期 | 2010年1月16日~11年1月10日 | |
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開催場所 | メイン会場 | 「高知・龍馬ろまん社中」「とさてらす」 (高知市 JR高知駅南口) |
サテライト会場 | 「安芸・岩崎弥太郎こころざし社中」 (安芸市矢ノ丸1-4-32) 「土佐清水・ジョン万次郎くろしお社中」 (海の駅あしずり) 「ゆすはら・維新の道社中」 (檮原町歴史民俗資料館) | |
前売券 | 「高知・龍馬ろまん社中」400円 「通行手形(※)」700円 (※)メイン会場とサテライト3会場の周遊パス | |
問合せ | 高知県観光振興部 土佐・龍馬であい博推進課 (088-823-9043)まで |