環境意識や健康意識の高まりを背景に、自動車に過度に依存しないコンパクトシティづくりや中心市街地活性化の手段として、自転車を見直そうとする動きが各地で見られる。
今回は、中心部の歩道に歩行者用と自転車用の分離柵を設けたり、レンタサイクルや駐輪場を整備したりするなど、自転車を利用しやすいまちづくりを進めている、高松市の取り組みを紹介したい。
高松市の自転車利用率は全国平均の約2倍
高松市は温暖で雨が少なく、地形も平坦なため自転車を利用しやすい都市である。データは やや古いが、2000年の国勢調査によれば、通勤通学時に自転車を利用する人の割合は27%で、全国平均15%の約2倍と自転車利用率が高い。そのため か、香川県は人口千人当たりの自転車事故の件数が12.1件(07年)と、全国平均6.5件の1.9倍でワースト1位になっている。高松市では、事故の多 さだけではなく、自転車のマナーの悪さや放置自転車対策なども長年の課題とされてきた。
このような状況のなか、高松市は自転車を重要な交通手段の1つと位置付け、人と自転車の安全を確保しながら自転車利用を促進していく「高松地区における自転車を利用した都市づくり計画」(以下、「計画」)をまとめた。コンパクトで持続可能な集約型都市づくりを目指していく上で、自転車を都市内の代表的な交通手段と位置付け、環境整備を図ろうとしたのである。
この計画に基づいて、歩行者や自転車の通行量の多い中央通りの歩道を自転車用と歩行者用とに分離、自転車通行ルールの遵守やマナー向上、自転車の更なる利用促進などに取り組んでいる。
中央通りの歩道を歩行者用と自転車用に分離
高松市を南北に貫く中央通りは、6車線の車道と広い歩道を持ち、JR高松駅や高松港と いった都市の玄関エリアから栗林公園につながるメインストリートとなっている。中央通り沿いは四国有数のビジネス街であり、通行する歩行者も自転車も多 い。昨年10月、この歩道に歩行者と自転車を分ける分離柵が完成し、歩行者と自転車が接触することなく、安全に通行できるようになった。
また、中央通りと交差する観光通りと市役所西側の市道の一部を自転車専用道とする計画もあり、社会実験が行われている。
路上で交通マナーの向上等を呼びかけ
自転車のマナーの向上や交通ルール遵守の意識を高めるため、係員が中央通りや商店街などの 街頭に標識を持って立ち、通行する歩行者や自転車にマナーやルールを守るよう呼びかけている。また、中学生や高校生向けに、学校で安全教育を行っており、 中学・高校生の自転車事故発生件数は近年徐々に減少している。
レンタサイクルの利用数が急増
高松市は、さらに自転車の利用を促進しようとレンタサイクルの充実にも取り組んでいる。
レンタサイクルは、放置自転車の処分に困った高松市が2001年に始めた。スタート時には、レンタサイクルは150台で、自転車を貸し出したり返却を受け 付けたりするレンタサイクルポートは2ヵ所に過ぎなかったが、レンタサイクルもポートも増え、09年10月には1,050台、7ポートとなっている。
年間の利用台数は01年の7万台から08年には27万台に増加し、1ヵ月や3ヵ月の定期利用を除いた1日当たりの利用者数は187人から614人に増加している。
安さと返却のしやすさが人気
レンタサイクルは、市民でも観光客でも、誰でも利用することができる。レンタサイクルポートで申し込めば、無料で「利用証」が発行され、この利用証があれば、どこのレンタサイクルポートでも借りることが可能だ。
レンタサイクルの利用が増加した要因は、申し込み手続きが簡単なことと、どのレンタサイクルポートでも借りたり返したりできるという使い勝手のよさに加え て、料金の安さにある。利用料金は24時間以内なら100円、1ヵ月間の定期利用で2,000円、別のポートに返しても料金は加算されない。
利 用者は市内中心部の住民や、電車やバスでの通勤者、買い物客のほか、高校生や観光客も多い。利用目的は買い物や通院のほか、ビジネスやレジャーも多いよう だ。今回の取材中、金曜日の夕方6時頃にお話をうかがった女性は、「これから少し離れた郊外のショッピングセンターへ映画を見に行きます」とのことであっ た。また、電車通学の高校生達が帰宅前のひと時に街なかを移動するために借りる姿も見かけた。
レンタサイクルポートは市内要所に配置
レンタサイクルポートは、JRやことでんの主要駅といった市内中心部の交通結節点や、市 役所などの要所に配置されている。営業時間は朝7時から夜10時までと長く、利用しやすい。ただし、課題もあり、どのポートに返却してもよいということで 返却場所が偏りやすく、ポートによっては貸し出す自転車が不足することが時々生じている。
市役所ポートの係員にお話をうかがうと、08年には7 千台を貸し出し、5千7百台の返却を受けたが、自転車が足りなくなり対応できなかったケースが1千件以上あったとのことである。利用者はJR高松駅やことでん瓦町駅に返却することが多く、市役所ポートでは自転車不足になりがちとのことであった。各ポートのレンタサイクルの過不足をなくすことは、なかなか難しいようである。
商店街に空き店舗を利用して駐輪場を整備
高松市の中心市街地の商店街は、郊外に大型のショッピングセンターがオープンしたことも あり、通行客が減少している。自転車で気軽に来店してほしいものの、店舗の前に置かれた自転車が他の通行客の邪魔になっては困ると、関係者は頭を悩めてい た。その対策として、空き店舗を利用した無料駐輪場の整備が進んでいる。現在では、中心部の5つの商店街に6ヵ所、合計303台分の駐輪場が用意されてい る。こうした商店街の駐輪場整備には、高松市も改装費やテナント費用の一部を補助している。
香川県内に広がるレンタサイクル
香川県内では、高松市のような市民向けのレンタサイクルではないが、観光客向けにレンタサイクルを整備する動きが続いている。
観音寺市や善通寺市、琴平町では、JR駅などに観光客向けのレンタサイクルが用意されており、坂出市も近々実施しようとしている。その背景には、自転車でさぬきうどん店や四国霊場88ヵ所を回りたいという観光客のニーズの高まりがあるようだ。
インターネット上では、自転車を利用してさぬきうどん店や観光スポットを回るコースが紹介されていたり、回った感想が掲載されていたりするページが多数見られる。
また、善通寺市は、レンタサイクルに「同行二人号」の愛称をつけ、市内にある5ヵ寺を自転車で手軽に回るコースを推奨している。同市のレンタサイクルは10台、年間1,500件の利用がある。
香川県では来年に瀬戸内国際芸術祭が予定されており、直島や女木島、男木島といった瀬戸内の島々と高松市が会場となる。高松市では、訪れた観光客に「サイクル・エコシティ高松」をアピールし、認知度を高めたい考えである。
市民が日常の足として自転車を利用するだけではなく、観光客が自転車を利用して、芸術に浸ったり、さぬきうどん店をめぐったりする動きが一層進みそうである。
(黒田 明良)