昨年9月28日から徳島県を舞台にした連続テレビ小説「ウェルかめ」が放映されている。主な舞台となっている徳島県美波町は、アカウミガメの産卵地として知られているほか、四国霊場第23番札所薬王寺がある。今年3月までのテレビ放映を機に注目が集まる美波町の魅力を紹介する。
黒潮の恵みを受けた町
美波町は、徳島県南東部に位置し、2006年に日和佐町と由岐町が合併してできた人口約8,000人の町である。太平洋の良好な漁場を有していることから、古くから漁業が盛んである。
沿岸部の平均気温が16℃と暖かいため、海岸部や離島には亜熱帯植物が分布しているなど、豊かな自然に恵まれている。また、海食崖などの多様な岩礁も含め た美しい風景は、「室戸阿南海岸国定公園」に指定されている。すばらしい自然の眺めを見に来る観光客も多く、美波町は暖かい黒潮の恵みを受けた町と言えるだろう。
連続テレビ小説の舞台に
連続テレビ小説「ウェルかめ」は、徳島市のローカル出版社に勤めるヒロインが雑誌の編集者 として仕事に奮闘、その中で家族や故郷を見つめ直していくストーリーである。放映開始に当たっては、脚本家などが四国各地を回り、番組イメージに合った地 域を探す中で、美波町がヒロインの故郷の舞台として選ばれた。
美波町は厳しい財政状況の中にはあるものの、放映決定後は「ウェルかめ推進事業」と題して、遊覧船「うみがめマリンクルーズ」の開業や、主要観光設備の修繕など、観光客の誘致と地域の活性化のための取り組みを行ってきた。
これまで大河ドラマなどを活かした観光活性化策では、放映終了とともに客足が遠のき、一過性の需要喚起に終わることが少なくなかった。そのため、テレビ放 映が終わっても、「ウェルかめ」の舞台となった町として語り継がれるような町にしたいという思いも強い。美波町役場産業振興課の浜隆宏氏は、「美波町の四 季折々の魅力が伝わる絵地図を美波みなとまちづくり協議会で作成したほか、撮影当時の記録を振り返ることのできる番組パネル展等の開催も予定しており、ソ フトにも力を入れている。放映期間中だけでなく、放映終了後も、美波町に興味を持った人は、いつだってウェルかめ!」と語る。
日本銀行高松支店徳島事務所では、「ウェルかめ」放映に伴う徳島県経済への波及効果を31億円と試算しており、美波町を含めた徳島県に観光面などでプラスの効果が期待されている。
日和佐ウミガメ博物館“カレッタ”
美しいリアス式海岸が連なる徳島県南部の海岸線のところどころには、穏やかな砂浜が広がっている。その1つ、大浜海岸は日本の渚百選にも選ばれた景勝地であるが、毎年5月中旬から8月中旬にかけてアカウミガメが訪れる産卵地でもある。
そのすぐそばにある世界でも珍しい海亀博物館“カレッタ(アカウミガメの学名)”には、亀の進化の歴史が展示されているほか、世界のウミガメ8種類のはく 製も飾られている。また、120インチのハイビジョンシアターでウミガメについての映画を見たり、3つの水槽でかわいい子ガメの泳ぐ姿を見たりすることも できる。屋外には飼育プールや人工ふ化場もあるなど、亀の生態について見て、触れて、学ぶことのできる施設となっている。
ウェルかめ効果などから、入館者数は月に約 4,000人と前年比2~3倍程度に増えている。
薬王寺
美波町のもう1つの目玉が、四国八十八ヶ所霊場第23番札所の薬王寺である。高野山真言宗 の寺院で、厄除けの寺としても知られる薬王寺は、本堂、諸堂などの各建物が山の斜面に建設されている。「厄坂」と呼ばれる階段では、お遍路さんが一段毎に 1円玉を落とす「厄落とし」が行われ、薬王寺の名物ともなっている。
また、境内の高台には全国一の大きさを誇る薬王寺のシンボル、「瑜祇塔」がある。「瑜祇塔」とは、真言宗の経典である瑜祇経の教理を形にしたものとされ、日和佐地区の各所から、朱色を主体とした塔を目にすることができる。
境内には桜の木が数多く植えられ、3月下旬頃の満開の時期には、ピンク色をした桜と朱色の瑜祇塔のコントラストが素晴らしいものになるそうだ。今回の取材では残念ながらその光景を目にすることはできなかったものの、春先には改めて現地を訪問し、その光景をカメラに収めてみたいと思った。
漁村留学制度
少子高齢化の進行に頭を悩ませていた漁村、伊座利地区には学校の廃校問題をきっかけに始 まった漁村留学制度がある。これは、地区の住民が自発的に立ち上げた「伊座利の未来を考える推進協議会」が行っているもので、地域の持続を目的に、これま でに70人を超える留学生を受け入れてきた。
留学生は小中併設校である伊座利校で、地域の人々の全面的な協力のもと、海にまつわる様々な体験学習を行う。また、地域ぐるみで行う「共楽運動会」などには住民も一緒に参加し、たくましい体と豊かな心を育てていくことができるそうだ。
これらの取り組みが評価されて、「伊座利の未来を考える推進協議会」は、2007年に農林水産省による農林水産祭むらづくり部門の最優秀賞を受賞し、全国的に注目を集めている。
また、同協議会では「田舎に必要なのは地域内外から多様な人が集まるコミュニティカフェである」との考えから、「一村一カフェ運動」を展開しているほか、 全国の過疎化・高齢化に悩む地域に連帯を呼びかけ、一緒に知恵を出し合い、もっと楽しく生きていこうと声をかけている。
南阿波よくばり推進協議会
美波町を含めた海部郡3町は、第一次産業を主要産業としているが、後継者不足などから、地 域の衰退が続いている。特に漁業については、水揚量が10年前に比べて3分の1にまで減少するなど、厳しい環境下に置かれている。そこで、3町協力のもと 2004年に「南阿波よくばり推進協議会」を発足させ、観光客誘致による地域経済の再生を図っている。
具体的には、修学旅行生をメインターゲッ トに、漁業体験や自然体験、スポーツ・アウトドア体験など約70種類の体験プログラムを用意するとともに、住民にインストラクターになってもらうことで現 地との交流も図っている。修学旅行生達からも好評を博しているようで、受入を開始した2006年以降、現地を訪れる修学旅行生は年々増加し、2009年に は11校、2,200人を超える修学旅行生が海部郡を訪れた。
来訪者にも温かい町 美波町
今回紹介した施設以外にも、産直館、物産館、足湯館が併設された「道の駅日和佐」、起伏に富んだ海岸線を眺めることのできる「南阿波サンライン」など、美波町には楽しめる施設が数多くある。
また、観光客誘致に必要なものはハードではなく、現地に住む人々の心であるとよく言われる。取材にあたって現地の方々には、初めて会ったとは思えないほど 気さくに話をしていただくなど、温暖な気候に負けず劣らず、住民の方々も温かかった。町並みもいつか来たことがあるかのような雰囲気があり、「初めてだけ ど、初めてじゃない」、そんな印象も受ける町だった。
NHKの「ドラマチック!四国」キャンペーンにより、「ウェルかめ」以外にも、愛媛を舞台 にした「坂の上の雲」、高知を舞台にした「龍馬伝」が放映され、四国に対して大きな注目が集まっている。全国各地から観光客を誘致し、四国の魅力を数多く の人に知ってもらう絶好のチャンスと言えるだろう。四国の人々が一丸となって観光客を迎え入れるとともに、現地の歴史や文化を理解してもらうことで、四国 地方の活性化につながることを期待したい。
(辻井 勇二)