別府市は大分県のほぼ中央部に位置し、人口12万人を数える県下2番目の都市である。毎年1,000万人以上の観光客が訪れる全国的な温泉地として有名である。今回の西日本レポートでは、別府の特徴である「温泉」を活かした様々な取り組みについてレポートする。
温泉資源は日本一
別府市には、別府八湯という8ヵ所の温泉地があり、これらをまとめて別府温泉郷と称しいる。別府八湯とは、別府、浜脇、観海寺、堀田、明礬、鉄輪、柴石、亀川の各温泉地を指し、それぞれが様々な特徴を持っている。別府温泉郷は日本一の源泉数、湧出量を誇っている。市内には、2,843の源泉があり、そこから湧き出る温泉の量は1分あたり約10万リットルある。
別府観光の礎を築いた愛媛県人
1863年愛媛県宇和島市の米問屋の長男として生まれ、49歳で別府に渡った油屋熊八は、 別府観光の礎を築いたと言われている。彼は、[1]日本で初めてバスガイドを添乗させた観光バスを考案、[2]地獄温泉を周遊する「地獄めぐり」を確立、 [3]「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」というキャッチフレーズを定着させるなど、当時としてはユニークな企画を連発し、ひなびた温泉町であった別府を 一躍全国区の温泉街にした。
再生へ向け、新たな芽が育つ
別府市の宿泊客数は、1970年代にピークを迎えて以降、低迷が続いている。かつての団体 客中心の歓楽街という別府のイメージから脱却し、地域資源である温泉を活かした取り組みが、近年盛んに行われ、別府再生へ向けた道筋をつけようとしてい る。その代表格が、「別府八湯温泉道」と「オンパク」である。
別府八湯温泉道
「別府八湯温泉道」は、2001年に温泉ファンや地元旅館経営者の発案で、別府温泉郷の素晴らしさを全国の人に知ってもらいたいとの思いから始まった企画である。
市内に約400ヵ所ある温泉施設の中から選ばれた137ヵ所(2010年3月31日現在)の温泉を巡るスタンプラリーのことで、お遍路と将棋をヒントに考案された。
「別府八湯温泉道」には初段から名人までの段位があり、別府八湯温泉道事務局へ申請をすれば、巡った温泉の数に応じて段位認定が行われ、認定タオルと認定 証がもらえる。7段以上の段位認定者には、旅館・ホテルの10,000円相当の温泉無料券・半額券がもらえる特典も付いてくる。
さらに、88湯巡れば、事務局認定の名人になれ、毎年春に開催される別府八湯温泉まつりで表彰されるほか、ミシュランガイドで三つ星として紹介されている「ひょうたん温泉」に肖像写真が飾られる。
さらに、11回名人になった人には、名人の上位段位である“永世名人”の称号が与えられ、現在8人の“永世名人”が誕生している。
今年で10周年を迎えるこの取り組みは、口コミや雑誌記事の紹介などで徐々に広まり、2010年3月31日時点で延べ2,448人の名人が誕生している。
この「別府八湯温泉道」に参加するには、2つの方法がある。記念に残したい人には、「スパポート」と呼ばれる手帳をJR別府駅の観光案内所や主要温泉施設で購入(100円)する方法がある。また、手軽に参加したい人には、携帯から温泉道携帯専用HPにアクセスし登録(無料)する方法がある。どちらも大変好評と伺っている。
全国各地へ広がるオンパク
オンパクとは、「別府八湯温泉泊覧会」の略で、2001年秋に別府市内の旅館経営者などが 中心となって開始された、地域資源を活かしたイベントのことである。点在している多数の温泉の回遊性を高め、観光客に楽しんでもらうことにより、長期滞在 者やリピーターを増加させる目的で始まった。
毎年、開催されるイベントには、別府八湯を拠点に巡る路地裏探索、温泉と健康を融合させた温泉エクササイズ、温泉の噴気だけで食材を蒸す地獄蒸しなどがある。イベント数や参加者数は年々増加し、約4,000人が128種類の体験型プログラムに参加している。
「オンパク」を運営しているNPO法人ハットウ・オンパクによると、「現在は年1回の期間限定のイベントであるが、今後は、一年間を通じた取り組みにしたい」とのことであった。
この別府発の取り組みは、全国の観光地にも広がっている。NPO法人ハットウ・オンパクが 中心となって、地域に隠れた資源を活かすノウハウを、函館、熱海、都城など10都市へ提供している。さらに、2007年から経済産業省の助成を受け、ス タッフが開催希望地を訪れて、イベントの手法やネットでの予約システムなどの指導を行っている。この取り組みが認められ、観光振興に対する斬新な取り組み を行った団体などに贈られるJTB交流文化賞最優秀賞など、数々の賞を受賞している。
温泉とスポーツの融合
温泉を活かしたその他の取り組みとして、別府市が行っているスポーツ大会や合宿の誘致があ げられる。市内で宿泊を伴うスポーツ大会等を実施する団体に対して補助金を交付するほか、温泉療法を組み合わせたスポーツマッサージ施設を紹介したり、温 泉を使ったスポーツ選手向けのトレーニングメニューを充実させたりして、誘致に結び付けている。
スポーツ大会等の誘致数は、2003年度の87団体から2009年度には228団体へと大幅に増加している。別府市ONSENツーリズム部によれば、2009年度のスポーツ大会等の誘致による経済効果は10億2,298万円とのことである。
このように、別府市では「日本一の温泉」という地域資源を活かした観光振興が様々なかたちで行われている。今後も、官民の取り組みが、観光地としての別府の存在感を一段と高めることに期待したい。
(篠原 敏夫)