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西日本レポート

【奈良県奈良市】はじまりの奈良、めぐる感動。 ~平城遷都1300年祭~

2010.06.01 西日本レポート

はじまりの奈良、めぐる感動。 ~平城遷都1300年祭~

平城宮跡に復原された第一次大極殿

平城宮跡に復原された第一次大極殿

平城宮跡 周辺図

平城宮跡 周辺図

710年に現在の奈良市に平城京が移されて、今年で1300年。これを記念して、平城宮跡 に第一次大極殿が復原されたほか、「はじまりの奈良、めぐる感動。」をテーマに、平城遷都1300年祭が開催されている。また、関連して、奈良をはじめ関 西では、多数のイベントやコンベンションなども実施される。今回は、平城遷都1300年祭で賑わう奈良市を紹介する。

平城京(奈良)のあゆみ

平城京は、元明天皇によって藤原京から遷都され、長岡京(京都)に遷都されるまでの74年 間、都が置かれた。奈良時代、「遣唐使」によって唐のすぐれた制度や技術・文化や仏教が持ち帰られ、当時の人々の苦労と努力によって都は発展した。平城京 の都市計画も唐の長安を模して作られたという説が一般的だ。
都が平安京(京都)に遷ってからも、南都(なんと)と呼ばれ、その後の日本の仏教や文化に大きな影響を与えた。なお、江戸時代には幕府の直轄地とされ、奈良奉行所が支配した。
その後、1898年(明治31年)の市制施行で奈良市となり、奈良県の行政・経済の中心として発展した。また、東大寺や春日大社、興福寺など世界遺産登録 された社寺をはじめ、優れた観光資源を持つ国際観光文化都市で、年間約1,435万人の観光客が訪れている(2008年、奈良市観光企画課)。

平城遷都1300年祭

平城遷都1300年祭は、今年1月1日から12月31日までの1年間を会期とし、県内各地で多彩なイベントが実施される。
このうち、メーン会場となる平城宮跡では、4月24日から11月7日までの間、様々な参加型・体験型のイベントが展開され、かつての文化や人々の情熱を追体験することができる。
「平城京歴史館・遣唐使船復原展示」には、外国使節団が見た平城京をコンセプトに、往時の壮大な都の姿や華やかな文化を最先端のVR(バーチャルリアリ ティ)技術で再現するシアターや、遣唐使の渡航の様子をドラマチックに再現するシアターなどがある。また、遣唐使船が全長30mの原寸大で復原・展示さ れ、甲板への乗船体験もできる。入場整理券が瞬く間に無くなるほどの人気パビリオンの1つだ。
また、「平城京なりきり体験館」では、当時の平城京のVR映像を背景に、天平衣装を着ての記念撮影や木簡の製作、擬似的に作られた現場での発掘作業を体験することもできる。
時間があれば、有料・予約制のガイドツアーに参加できるほか、第一次大極殿や朱雀門などに常駐するボランティアガイドによる解説(こちらは無料)を聞くこともできる。平城宮の歴史やその背景などを直接聞き、当時の人々の情熱に思いを馳せてみてはいかがだろう。

平城京歴史館・遣唐使船復原展示

平城京歴史館・遣唐使船復原展示

平城宮跡会場の多彩な展示・イベント

このほかの平城宮跡を盛り上げるイベントにも見所は多い。朱雀門付近では、門を警護した衛士隊の交替儀式が再現され、毎日の開閉門時と13時頃に披露される。
また、天平文化の華やかさや国のはじまりなどをイメージした「あをによしパレード」が1日2回、平城宮跡内を巡り、訪れた人たちを楽しませている。
会場内に設けられたステージでは、中国や韓国、平城京ゆかりの県内外の民俗芸能やコンサートなどが開催されるほか、平城遷都1300年祭の趣旨に賛同する 企業・団体や県内市町村による展示コーナーも設けられている。2度、3度訪れても飽きることのないよう、多彩な展示・イベントが用意されている。

平城宮跡の整備

平城宮跡は、これまで、遺構・遺物などの発掘調査が行われるとともに、住民の散策や軽ス ポーツの場として利用されていた。近年は、文化庁が「特別史跡平城宮跡保存整備基本構想」に基づき、宮跡の遺跡博物館としての整備、歴史的建造物の復原を 進めていた。建物復原としては、1998年に宮内省地区、朱雀門、東院庭園地区を完了し、2001年から、中核的な建物である第一次大極殿の整備が進められていた。

朱雀門からはるか大極殿を望む

朱雀門からはるか大極殿を望む

第一次大極殿の復原

今年4月に復原された第一次大極殿は、平城宮最大の宮殿だ。
大極殿は、天皇の即 位式や外国使節との面会など、国の最も重要な儀式のために使われていた。当時の設計図や参考となる絵画などが残っていないため、発掘調査で判明している基 壇(きだん:建物下の石・瓦積み、土を盛った基礎)やわずかに残る文献、同時代の寺院建築を参考にして、往時をしのぶ建物が復原された。正面約44m、側 面約20m、地面からの高さは約27mで、直径70cmの朱色の柱44本、屋根瓦約9万7,000枚が使われた。内部には、天皇が儀式の際に着座した「高 御座(たかみくら)」の実物大模型も展示されている。

奈良大和路秘宝・秘仏特別開帳

平城遷都1300年を記念した「~祈りの回廊~奈良大和路 秘宝・秘仏特別開帳」への注目度も高まっている。
奈良県内の社寺には、国宝や重要文化財など、優れた秘宝・秘仏が残されている。しかし、普段は拝観できないものや拝観時期が限定されているものが多い。今回、1300年を記念し、52の社寺で、791の国宝や重要文化財などが特別に開帳されることになった。石上(いそのかみ)神宮の国宝七支刀(要申込)や長谷寺の本尊・十一面観世音菩薩を描いた日本最大級の掛軸など、注目すべき宝物が多数公開され、多くの拝観客を感動させるものと思われる。

経済波及効果は2,000億円以上

1300年祭の企画・実施・運営は、奈良県や奈良市、民間企業などによる「社団法人平城遷 都1300年記念事業協会」が2005年から準備を進めてきた(法人化は2008年10月)。協会によると、1300年祭による経済波及効果は、奈良県内 だけで約750億円、国内全体では約2,150億円と試算されている。これは、協会の事業支出(約100億円)の約21.5倍となっている。
折からの「ゆるキャラ」ブームと相まって、記念事業のマスコットキャラクター「せんとくん」人気も高まっており、たまたま会場内で見かけた「せんとくん」は、恰好の被写体になっていた。「せんとくん」グッズの売上も好調なようだ。
奈良では、関連広域事業として、APEC観光大臣会議や東アジア未来会議などの国際コンベンションが予定されている。国家的プロジェクトとして行われる1300年記念事業に対し、奈良や関西の産業界は大きな期待を寄せている。

奈良市中心部を訪ねる

市内中心部や奈良公園などでも「せんとくん」の幟や看板が多数見られ、町全体が1300年祭で盛り上がる様子を感じたが、最後に、市内を散策するのにお勧めスポットを2ヵ所紹介したい。
近鉄奈良駅の南、奈良で最も歴史の古い商店街「もちいどの(餅飯殿)センター街」がある。ここには、廃業したパチンコ店舗跡地を商店街が買い上げ、2007年にオープンした商業インキュベーター施設「もちいどの夢CUBE」がある。
斬新なガラス張りの建物で、3坪ほどのブースが10区画あり、個性的なカフェや雑貨店などが1期3年の期間限定で入居している。1期目のオーナーは巣立 ち、今年4月から2期目のオーナーに入れ替わっているとのこと。若者らの評判を呼び、商店街の通行量が増加したほか、空き店舗も減少し、活性化や賑わい創 出にも大きく貢献したようだ。
もちいどのセンター街からさらに南へ進むと「ならまち」にたどり着く。古くは平城京の外京として多くの社寺が置か れていた地区で、中世以降には、筆や墨などの様々な産業が発展した。戦災を免れた狭い露地には、江戸時代以降に建築された格子戸のある町屋建築が数多く 残っている。
町屋建築を改装したカフェや雑貨店、土産物店などが点在し、観光スポットとしても注目されており、ガイドブックを持って散策する何人もの観光客とすれ違った。

おわりに

平城遷都1300年というビッグイヤーを迎えた奈良。世界レベルの文化財や観光地を持つ奈良にとって、さらなる観光振興と発展につながるチャンスと言える。
「奈良は修学旅行で行ったきり」という人も多いのではないか。これを機に、再び奈良を訪れてみるのはいかがだろう。

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(新藤 博之)

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