2011年3月12日に、九州新幹線鹿児島ルート(博多-鹿児島中央間)が全線開業した。 また、それに先立ち、3月3日にはJR博多駅の新しい駅ビル「JR博多シティ」が開業した。日本全国からだけでなく、韓国や中国など、アジア各地から福岡 の街を訪れる観光客が大幅に増加することが見込まれており、地域経済活性化の起爆剤として大きな期待が寄せられている。
今回は、新博多駅ビルの概要と、新しい福岡のまちづくりに向けた各種取り組みをレポートする。
九州新幹線全線開通
博多から鹿児島中央まで延長約257kmの九州新幹線は、1970年5月に制定された全 国新幹線鉄道整備法に基づき建設が進められた。2004年3月に新八代(熊本)-鹿児島中央間が部分開業したが、今回、残りの博多-新八代間も完成し、全 線開業の日を迎えたものである。
これにより、博多-鹿児島中央間は最短1時間19分(現行は2時間12分)、新大阪-鹿児島中央間は最短3時間 45分(現行は約5時間)で結ばれることとなり、九州各地からだけでなく、中国地方や関西地方などからも多くの観光・ビジネス客が福岡の街を訪れることが 見込まれている。
JR博多シティオープン
九州新幹線の全線開業に併せて博多駅の新しいシンボルである新博多駅ビル「JR博多シティ」がオープンした。延床面積は約200,000m2(旧駅ビルの6倍以上の面積)で、地下3階・ 地上10階建の西日本最大級の駅ビルである。
JR博多シティは、「アミュプラザ博多」(専門店ゾーン)、「博多阪急」(百貨店ゾーン)、「博多1番街」(飲食街)から構成されている。
「アミュプラザ博多」には、九州初出店となる総合雑貨専門店の東急ハンズとデジタルシネマを装備した次世代型シネマコンプレックスのティ・ジョイを核店舗として、ファッション、サービス、レストランなど約230の専門店が出店している。
そのほかにも、ビジネスパーソン向けのビジネススクールや生涯学習を意識する社会人向け の専門講座などを開催する「九州大学ビジネススクール」や、福岡の街の旬の情報や音楽をライブで楽しめる「エフエム福岡サテライトスタジオ」など、個性豊かなテナントが出店している。
「博多阪急」では、手ごろな価格の婦人服を中心に多くのブランドを取り揃えるとともに、顧客参加型の広場をフロアの各所に設け、取扱商品に関連するイベントを数多く開催している。
駅ビルの各所には様々な仕掛けが用意されている。レストランフロアには九州の自然をモチーフにした大小約30ヵ所のガーデンを設置し、屋上には四季をテー マとする開放的な庭園「つばめの杜ひろば」を設置している。また、外壁面に300インチの大型ビジョンを設置するとともに、館内にも100ヵ所以上にデジ タルサイネージを設置し、顧客属性に応じたタイムリーな情報を発信している。
さらに、女性専用パウダールームや子どもトイレ・授乳室のほか、アジアからの観光客に配慮した和式トイレを設置するなど、ホスピタリティを重視したフロアづくりにも注力している。
アジアからの玄関口 福岡
ところで、福岡の街は、古来より国際交流都市として発展してきたが、ソウルや上海といった主要都市とのアクセスの良さもあり、アジアからの観光客誘致に精力的に取り組んでいる。
法務省入国管理局の出入国者数に関する統計によると、福岡空港と博多港の外国人入国者数は近年、急速に増加してきた。リーマン・ショックや円高などの影響 により08年・09年と大きく落ち込んだものの、09年の外国人入国者数は、福岡空港が32万人(全国の空港で第5位)、また、博多港が14万6千人(全 国の港で第1位)となるなど、アジアからの玄関口としての地位を固めつつある。
九州新幹線の全線開業に加え、新博多駅ビルがオープンしたことで、今まで以上に多くのアジア人観光客が福岡の街を訪れることが期待されている。
博多駅地区のまちづくり
ここからは、九州新幹線の全線開業と新博多駅ビルの開業に併せて進められている、新しい福岡のまちづくりに向けた取り組みを紹介したい。
博多駅周辺の企業・団体などで構成する「博多まちづくり協議会」では、「住んでよし、働いてよし、訪れてよし」という魅力的なまちづくりを進めるため、「博多まちづくりガイドライン」を策定し、地域住民と一体となって様々な活動に取り組んでいる。
これまで同協議会では、博多の魅力を市民と来訪者に体感してもらうための「博多まち歩きマップ」の作成や、おもてなしの気運を向上させ、マナーアップを啓発するための「クリーン デイ」という清掃活動などに取り組んできた。
今後も、「博多カフェ屋台」やスタンプラリー、寺社めぐりコンサートなど、様々なイベントを開催して博多駅周辺のにぎわいを演出する予定である。
回遊性向上に向けた取り組み
福岡の街には、九州随一の商業地である天神地区やキャナルシティ博多など、博多駅周辺以 外にも商業施設の集積地が存在する。これらの集積地では、新博多駅ビルの開業を大きなライバルの出現と考え、売上の減少などを懸念する向きも多いようだ。 しかしながら一方では、これを絶好のチャンスととらえ、福岡の街全体の回遊性を向上させることで集客の拡大を図ろうとする取り組みもみられる。
たとえば、天神地区の住民や企業、NPO、自治体などで構成されるまちづくり団体「WeLove 天神協議会」などが中心となって、3月から「2011天神ウェルカムイヤープロジェクト」が実施されている。九州新幹線の全線開業を祝したストリートバ ナーをメインストリートに掲出したり、案内機能の強化に向け、ボランティアによる「天神案内人」を配置したりするなど、回遊性を高めるための様々な取り組 みが行われている。
また、福岡市と各種団体が連携して様々なイベントを開催するなど、観光客の増加を福岡の街全体の活性化につなげる仕組み作りが進められている。
おわりに
九州新幹線の全線開業と西日本最大級の規模を誇る新博多駅ビル開業という二大イベントにより、福岡の街には、日本全国からだけでなく、アジアからも多くの観光客が訪れるという大きなチャンスが到来し、盛り上がりをみせている。
このチャンスを最大限に生かすためには、博多駅周辺、キャナルシティ周辺、中洲地区、天神地区など、それぞれの地域がパイの奪い合いをするのではなく、協 力して共存・共栄の関係を築き上げることが求められている。そして、地域の垣根を越えて商業施設や各種団体、自治体や地域住民などが同じ方向にベクトルを 向け、おもてなしの心を持って観光客を気持ちよく迎え入れ、観光客がもう一度福岡の街を訪れてみたいと思うような仕組みを作ることが必要であろう。
今後も福岡の街が、地域ぐるみの様々な取り組みにより、九州の玄関口、そしてアジアからの玄関口としてさらに発展することを期待したい。
(岡田 栄司)