西日本最大のターミナル駅がリニューアル
JR大阪駅周辺は、西日本最大のターミナル駅。私鉄や地下鉄など周辺にある駅を合わせると、乗降客は1日約250万人に上り、新宿駅、池袋駅に次ぐ多さと言われる。
2004年に始まったJR大阪駅のリニューアル工事がこのほど完了し、JR大阪駅駅舎とその南北に配置された駅ビルから成る「大阪ステーションシティ」が5月4日にグランドオープンを迎えた。駅舎の改装は約30年ぶりで、総事業費は2,100億円に上る。
4月に先行してオープンした駅舎南側の「サウスゲートビルディング」は、既存の駅ビル「アクティ大阪」を駅前広場の整備に合わせて増築したもので、これに よりテナントの大丸大阪・梅田店が1.6倍に増床された。新たに東急ハンズ、ユニクロ、ABCクッキングスタジオといった従来の百貨店とは趣の異なる店舗 を誘致し、若年層の取り込みにも力を注いでいる。同ビルにはホテル、飲食店、総合クリニック等も入居している。
駅のコンコースを挟み、サウス ゲートビルディングと向かい合う形で新たに建設されたのが「ノースゲートビルディング」である。ビル西側は、大阪初出店となるJR大阪三越伊勢丹が10階 まで入居している。西日本ではジェイアール京都伊勢丹に次ぐ2店舗目で、三越と伊勢丹の経営統合後、初の新店舗となる。
東側は若い女性をターゲットとしたファッションビル「ルクア」で、入居する198店中、全国初24店、関西初40店、梅田初54店という新鮮なテナント構成で、ファッションに強いと言われる伊勢丹との相乗効果を狙う。
11階から13階には、12スクリーンのシネマコンプレックス「大阪ステーションシネマ」、「コナミスポーツクラブ」などが入居している。さらに14階から27階がオフィスタワーとなっており、タワー最上階にはレストランとブライダルの施設がある。
環境を意識した駅ビル整備
駅舎の整備では、南北のビルをつなぐ形で線路の上に橋上駅舎が新設され、乗り換えのためのホームの移動も便利になった。この橋上駅舎の屋上は「時空の広場」と名づけられた広場になっている。
「時空の広場」の真上には、駅舎全体を斜めに覆う大屋根が設置されている。これは雨水を集める装置にもなっており、集められた雨水はトイレの水洗や植栽の散水に利用される。
ビル屋上や広場には太陽光発電パネルや風力発電装置も取り付けられ、再生可能エネルギーの活用にも取り組んでいる。
ステーションシティ内には、「水」「緑」「時」「エコ」「情報」を共通テーマに、個性ある8つの広場が設けられている。果樹や野菜などが栽培される「天空の農園」や、和のテイストの 「和らぎの庭」など、さまざまなデザインや植栽が施されており、広場を散策するだけでも楽しめる。都会の真ん中で自然を感じ、ひと時の安らぎを与えてくれる場となっている。
大阪の百貨店の競争はますます激化
先にも述べたとおり、ステーションシティ内には2つの百貨店が入居している。増床後の大丸大阪・梅田店の売場面積は64,000m2、新たにオープンしたJR大阪三越伊勢丹の売場面積は50,000m2である。
さらにJR大阪駅周辺には阪神梅田本店と阪急うめだ本店という50,000m2強の百貨店が2店舗ある。阪急うめだ本店は現在建替工事中で、全面開業後はこの地区最大の84,000m2に広がり、これによりJR大阪駅周辺の百貨店の売場面積は、ステーションシティ開業前の1.7倍強となる。
JR大阪駅から3kmほど南下した心斎橋では、段階的に増床改装工事を進めてきた高島屋大阪店が3月3日に全面開業となり、売場面積が56,000m2から78,000m2になったばかりである。
加えて、JR天王寺駅前には4月26日に60,000m2のショッピングセンター「あべのキューズモール」が開業。その向かいでは近鉄阿倍野本店が現在改築工事中で、14年春には売場面積100,000m2と国内最大級の百貨店になる。
上記のような百貨店の新設・増床は、店舗間の競争であると同時に、エリア間の競争でもある。したがって、JR大阪駅北地区で進行中の「うめきたプロジェクト」の成否は、大阪駅周辺エリアの商業施設の生き残りにも関わってくると言えよう。
大阪駅北地区開発「うめきたプロジェクト」
「うめきたプロジェクト」とは、今回整備されたJR大阪駅の北側に広がる240,000m2もの用地の開発プロジェクトである。現在も一部がJRの貨物ヤードとして使用されているが、13年春には移転が完了し、全面的に更地化される。この「都心に残された最後の一等地」をどのように整備・活用するか、関西の産学官が連携し長い時間をかけて議論してきた。
大阪市では、02年に国際コンセプトコンペを実施し、世界各国から跡地利用のアイディアを募集。04年に大阪駅北地区まちづくり推進協議会を設立し、産官学が連携して「大阪駅北地区まちづくり基本計画」が策定された。
以下の5つの柱をまちづくりの基本方針とした開発が始まっている。
2013年春の「まちびらき」に向け進む工事
うめきたプロジェクトの240,000m2のうち、ノースゲートビルディングに隣接する70,000m2の先行開発区域については、05年から都市再生機構が土地区画整理事業を実施し、06年には三菱地所をはじめ12の事業者が決定、10年春から開発工事に着手している。
この「グランフロント大阪」と名づけられた先行開発区域は、オフィス、商業施設、ホテル・サービスアパートメント、分譲住宅、広場などで構成される。そして核となる施設「ナレッジキャピタル」を中心に、「知」の拠点としての発展をめざす。
「ナレッジキャピタル」は4つの機能を持つ。企業や研究者、クリエイターなど分野を越えた人々が「あつまり」、協働して新しい商品やサービスを「つく り」、それを広く社会に「みせる」。そして開発者と一般ユーザーが「まじわる」ことで商品やサービスが洗練されていく。具体的には、企業や技術のマッチン グを図る場、商品開発の研究室、ショールーム、あるいはモニター調査の場と、さまざまな形で情報や人材が集積・交流する場として活用される。西日本最多の 乗降客数を誇るターミナルエリアでこそ実現可能な、先進的な実証実験が行われることで生まれる新たな知的価値を、大阪のもう一つの顔である「ものづくりの まち」にフィードバックすることが期待される。
オフィスビルの空室率が上昇傾向にある大阪において、グランフロント大阪完成後には新たに延床約236,800m2のオフィスが供給されることになり、果たして需要が見込めるのだろうかという疑問が湧く。一方で、東京からの移動にも便利なJR大阪駅周辺のオフィス需要は高まっているとの見方もある。
また、東日本大震災を契機に東京一極集中から機能分散を検討する動きが今後広がるのではないかとも言われている。うめきたプロジェクトが、ビジネスの場としての大阪駅周辺の重要性をさらに高めることに期待がかかる。
百貨店の競争が激化する中、延べ80,700m2規模の商業施設も新たに加わることになるが、国際的拠点としての機能が充分に発揮され、交流人口を増やし新たな需要を生み出すことこそ、このプロジェクトの目指すところでもある。
2期開発でさらなる飛躍を
2期開発区域の開発が実際に動き出すのは13年春の貨物ヤード全面移転後になるが、このエリアに南北に走る線路が地下化され、特急「はるか」が停車する駅が新たに設置される予定だ。地域分断の解消が図られ、関西空港とのアクセスが向上する。
上物については未定である。サッカースタジアム建設の計画はワールドカップ誘致の失敗により白紙となった。都心に森をという声も一部にあるようで、防災や 環境の視点からは有意義かもしれないが、経済合理性を考えると難しいだろう。「関西広域連合の動きが活発化しており、その拠点となるような施設があっても いいのでは」といった意見も聞かれた。
いずれにせよ、大阪はもとより関西全域、ひいては西日本経済の浮揚につながるような開発に期待したい。
(上甲 いづみ)