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西日本レポート

【福岡県北九州市】北九州市における海外での水ビジネスへの取り組み

2011.11.01 西日本レポート

北九州市における海外での水ビジネスへの取り組み

近年、様々なメディアで海外での水ビジネスの話題が盛んに取り上げられている。
今回は、自治体の先進事例として注目されている北九州市の取り組みを紹介する。

水ビジネスとは

北九州市の取り組みを紹介する前に、水ビジネスの概要について触れておきたい。
世界における水ビジネスの市場規模は、水ビジネス国際展開研究会の報告によると、2007年時点は36.2兆円であり、2025年には86.5兆円にまで 成長する見通しである。一口に水ビジネスと言ってもその範囲は広く、大きく分けて、(1)上水、(2)造水(海水淡水化)、(3)工業用水・工業下水、 (4)再利用水、(5)下水の5つの事業分野からなる(図表-1)。

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水ビジネスにおいて日本の企業は、海水淡水化の設備で使われる水のろ過膜(素材)の供給を 中心に優位に展開してきたが、その市場規模は1兆円程度と市場全体に占める比率は小さい。そのため、より市場規模が大きい上下水道事業や、今後の成長が見 込まれる中東地域向けの再生水や海水淡水化事業に関心が集まっている。そうしたなか、ここ数年は、大手商社やプラントメーカーによる海外企業への出資・提 携や現地企業の買収など、海外水ビジネスに本格参入する動きが出てきている。
また、09年に政府が発表した「和製水メジャー構想」では、国際市場でリードするフランス・スエズ社などの水メジャー企業にならい、上下水道事業の設計・建設から運営まで一貫して行う“ワンパッケージ型”のビジネスモデルによる競争力の強化を打ち出している。

北九州市が海外水ビジネスに取り組む背景

人口約98万人の北九州市は、鉄鋼、化学、窯業、電機などの工場が集積する、高い技術力を誇るモノづくりのまちである。近年では、環境関連産業や半導体関連の研究機関などの集積も進んでいる。
北九州市は、1960年代から高度経済成長期の産業発展に伴って深刻化した公害汚染を、独自の環境再生技術で克服してきた経験を持つ(図表-2)。その経 験を生かして、環境再生技術の移転や海外での技術協力に力を入れており、08年7月には、国の「環境モデル都市」に選定された。また同市は「環境」と「アジア」をキーワードに都市戦略を進めており、「海外水ビジネス」はその成長戦略にも合致することから、積極的な取り組みがなされている。

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そうしたなか、2010年8月には、自治体と企業が一体となって海外での水ビジネスを推進するために、「北九州市海外水ビジネス推進協議会」(以下、水ビジネス協議会という)を自治体ではじめて設置した(図表-3)。

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「官民連携」で海外水ビジネスに取り組む必要性

自治体が、海外での水ビジネス市場に目を向ける目的は主に3つある。
1つめ は、大きな成長が見込めるアジア諸国での水ビジネス市場への企業の参入をサポートすることで、地域産業の発展に寄与するとともに、税収増加にもつながると いうことである。水ビジネスは、産業分野からみても、部材・部品・機器の製造、施設の設計・施工、事業運営・管理に至るまで広い裾野を持っており、幅広い 業種にわたる多くの企業に恩恵が期待できる。
2つめは、人材育成や技術継承の機会を確保することである。国内の上下水道事業は、2000年頃を さかいに拡張から維持・管理の時代へと移行するなかで、豊富な経験を持つ技術者が定年退職を迎え、若い技術者が育ち難い状況にあるため、海外での上下水道 事業がトータルな技術の継承・人材育成の場となることが期待されている。
3つめは、人口減少や節水機器の普及に伴い上下水道事業体の収益が減少するなかで、新たな収入源として期待できることである。
一方、日本の企業が海外で水ビジネスを展開するにあたって、企業側には水道事業の実績がほとんどないため、豊富なノウハウと信用力を持つ自治体をパートナーとして選ぶ動きがある。
以上のような自治体が抱える課題と企業からの期待が結びつき、北九州市をはじめ東京都や横浜市、大阪市といった大都市が、続々と官民連携による海外での水ビジネスへの参入を表明している。

高い評価を得る海外技術協力とその成果

北九州市は、JICA(国際協力機構)及び厚生労働省の要請に応じ、10年以上にわたってカンボジア・プノンペン市の水道人材の育成支援事業に携わってきている。水道局の職員が常駐し指導にあたっているそうだ。
プノンペン市の水道事業は、深刻な漏水や盗水が多く、また断水も頻発するなどの課題を抱えていた。北九州市は、1999年から漏水・盗水対策について支援 し、その結果、無収水量率を72%から8%へと劇的に引き下げることができた。併せて、水質改善への支援にも取り組み、蛇口から飲める水を実現させた。
友好都市提携を結ぶ中国・大連市に対しては、本年4月、水ビジネス協議会から70名のミッション団を派遣し、上下水道に関するセミナーや協議会会員企業に よる製品の展示商談会を開催。また、下水処理などに関する技術交流や技術者の相互派遣に取り組む覚書を締結している。もう1つの友好都市であるベトナム・ ハイフォン市へもミッション団を派遣。上水道の展示商談会を実施し、下水道技術協力の覚書の締結も行っている。さらに、中東のサウジアラビアに対しては、 下水道分野での技術研修を実施している。

国内自治体初!海外での水ビジネス案件獲得

海外で水ビジネスを展開するにあたっては、前述したような貢献活動による、現地での人的 ネットワークの構築とそれを活かした現地の正確な実態把握が重要な鍵となる。長年の技術協力で既にそれらを得ていた北九州市は、本年3月、世界遺産アン コールワットで知られるカンボジア・シェムリアップ市での水道施設の基本設計に関する補完業務を受注することとなった。日本の自治体が海外の上下水道事業 案件を獲得した初めての事例である。
さらに、本年8月には、第2号案件となる同国のセン・モノロム市の上水道整備事業の受注が内定した。北九州市は基本計画の策定と設計・施工管理を担い、整備後の管理・運営はセン・モノロム市が主体となって行うこととなっている。
この2つの案件は、ともに途上国に対する日本政府からの資金協力により事業を受注している。事業そのものは小規模であるが、こうした地道な積み重ねが、今後の本格的な海外水ビジ ネス展開への足がかりとなっていくことが期待されている。
海外水ビジネスへの参入を表明した自治体のほとんどが、いまだ市場可能性調査の段階にあるなかで、北九州市は一歩先を進んでいる。

「ウォータープラザ北九州」

2010年10月、産業技術総合開発機構(NEDO)により、日本の水関連技術を集めた “ショーケース”とも言える「ウォータープラザ北九州」が、市の下水処理場(日明浄化センター)に隣接して建設された。ここでは、最新の膜技術を使い、下 水や海水から純度の高い工業用水を作り出す過程を間近で見学することができる。また、企 業が持ち込んだ膜や装置・機器などの実証実験が行える“デモプラント”の機能も備えた国内初の施設である。
国際競争力の高い海水淡水化や下水再生の技術・ノウハウの開発は、特に中東地域等でのビジネス展開に大きな武器になるそうだ。
北九州市は、この施設で実証・研究で使う下水や海水の調達から、再生した工業用水の供給先の開拓まで、幅広く支援している。装置や機器の見本は個々の企業 でも開発できるが、実際に使って見せるのは難しい。“ショーケース”としての重要な役割を果たすためには、北九州市のこうした協力体制が欠かせないのである。

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海外の経験を国内へ還元

北九州市は、今後も、海外での技術協力や水ビジネスの推進を通じて国際貢献を行いたいと考えている。
海外でのこうした活動によって、人材育成・技術継承の場や新しい収入源の確保ができれば、ひいては地元地域でのよりよい水道サービスの提供にもつながる。 水ビジネスが軌道に乗れば、地元企業の収益確保とそれによる税収増加も期待できるだろう。海外で得た経験を生かして、サービスを向上させることができれ ば、それが強みや評価につながり、さらなる海外展開への後押しとなるかもしれない。
まだ動き出したばかりの自治体の海外水ビジネス。今後も、北九州市をはじめとする自治体の動向に注目したい。

(森 夕紀)

 

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