岡山県倉敷市の倉敷チボリ公園は、2008年に閉園したが、本年11月、市民公園と中四国最大級のアウトレットモールを併設した複合型商業施設として生まれ変わった。今回は、倉敷チボリ公園跡地の再開発と、それを活かした中心市街地の活性化について紹介する。
「倉敷チボリ公園」の歴史
倉敷チボリ公園は、1997年旧倉敷紡績の工場跡地に都市型テーマパークとしてオープン した。この施設は、岡山県などが出資する第3セクター、チボリ・ジャパン株式会社が運営していた。敷地面積は約12haで、2008年の閉園時点では、 20のアトラクション、13の土産物店、14のレストランがあった。開園後3年間は年間200万人の入園者数を誇っていたが、入園者数は年々減少し、05 年には100万人を割り込み、経営不振となった。07年には入場料などの料金改定を行い再建を図ったが、その後も入園者数の減少に歯止めがかからず、08 年12月31日をもって閉園した。その後、施設や遊具の撤去が行われ、10年2月に所有者のクラボウに返還された。
閉園から再開発へ
2009年、クラボウは、倉敷チボリ公園跡地の再開発について、「収益性、継続性のある 事業」「集客力のある事業」「地域の活性化に資する事業」「早期に事業化すること」を基本方針として、開発事業者の選定を行った。その結果、専門的なノウ ハウを豊富に有する株式会社イトーヨーカ堂を開発の事業主体として選定した。
大型商業施設オープン
事業主体となったイトーヨーカ堂は、クラボウの開発方針に沿って、従来の総合スーパーやSCとはアプローチが全く異なる「街おこし・旅おこし」をコンセプトに、開発プランを作成した。そして、ヤングファミリー層を中心に幅広い世代を対象とした、延床面積約58,000m2、地上2階建の大型商業施設「アリオ倉敷」を11月25日にオープンすることとなった。
アリオ倉敷は、「イトーヨーカドー食品館」を核テナントとし、百貨店の天満屋が地場産品 を扱う店舗を出店するほか、中四国地方を地盤とするテナントを積極的に誘致した。そして、最新のファッションからセレクト雑貨、食料品店やレストラン、一 時託児所など、岡山県初出店の68店舗を含めた合計122店舗が出店することとなった。
中四国最大級アウトレットモール登場
イトーヨーカ堂は三井不動産株式会社と一体的な開発を行い、12月1日には、アリオ倉敷の隣接地に中四国地方最大級のアウトレットモール「三井アウトレットパーク倉敷」がオープンする。延床面積35,000m2、 地上2階建の施設で、アリオ倉敷とは屋根付連絡ブリッジで接続される。三井アウトレットパークとしては11施設目、中四国では初出店となる。テナントは、 日本初出店の6店舗、中国地方初出店の112店舗を含む120店舗が出店する。移動時間90分以内の中四国、兵庫県西部などを主な商圏として、広域からの 集客を目指している。
両施設は年間600万人以上が訪れる倉敷市の観光資源と連携し、年間800万人の集客を見込んでいる。また、複合型商業施設と観光地の相乗効果で、地域全体の活性化にも寄与することが期待されている。
同施設では、来店客に倉敷美観地区等の周辺観光地を周遊してもらう仕組み作りにも取り組んでいる。店舗内に、倉敷の観光パンフレットを配置するだけでな く、「デジタルサイネージ(電子看板)」を設置して、観光イベント情報を提供する。さらに、「FMくらしき」のサテライトスタジオを誘致して、ラジオで観 光情報を発信する。
環境に配慮した施設
両施設ともに環境に配慮し、LED照明のほか、風力発電や太陽光発電による街灯や電気自動車充電設備を導入し、各種の省エネに取り組んでいる。
また、アリオ倉敷では、省エネのために雨水や井戸水をトイレの洗浄水等に活用する。三井アウトレットパーク倉敷では、中四国では初となる音力振動力発電 (振動のエネルギーで発電する)装置を導入して、子どもにエネルギーの大切さを体験してもらうコーナーも設けている。さらに、「倉敷の森」をデザインコン セプトに、緑に囲まれた心安らぐ空間を演出している。商業施設では初めてのツリーハウスや遊具を設置し、商業施設でありながら、子どもたちが遊べる公園と しての要素も取り入れている。ほかにも、グラスパーキング(芝で緑化した駐車場)も設置した全国的にも珍しい環境共存型の施設となっている。
市民の憩いの場に
倉敷市は、今回の大型商業施設開発に伴い、中心市街地の活性化と都市機能向上を図るため に、商業施設に隣接した倉敷用水(幅4m、長さ約300m)を含む1haの土地を購入し、市民公園を設けた。公園は、市民から寄せられた意見を参考に、 「倉敷みらい公園」と名付けられ、11月23日に開園することとなった。
公園には、芝生広場や水遊びができる水路、木製ステージなどを設け、用水路脇には緑道を整備している。また、市民に憩いの場を提供するだけでなく、災害時の避難場所としての活用も考えられており、かまどに転用可能なベンチを設置するなどの工夫もされている。
商業施設の集客力を活かして
倉敷市の中心市街地は、JR倉敷駅や倉敷駅前商店街が中央に位置し、その周辺に「倉敷美 観地区」、倉敷中央病院をはじめとする大型医療機関、複合型商業施設などが点在している。しかし、居住人口の減少や大型店の郊外立地、チボリ公園の閉園に 伴うホテルや商業施設の閉鎖で、賑わいを失いつつある。倉敷市は、岡山県南西部の重要拠点であり、周辺に及ぼす影響も非常に大きい。そのため、倉敷市は複 合型商業施設のオープンを機に、中心部175haを中心市街地活性化基本計画区域と位置付け、中心市街地の賑わいを取り戻そうとしている。
この 計画では、回遊性を向上させ、中心市街地の活性化を図るために、「倉敷がまもり育ててきた伝統文化を活かし、まちの魅力を向上させる」「歩いて楽しい、暮 らしやすいまちを形成する」「まちなかに人を誘導し、交流を促進する」の3つを目標とし、合計60の事業に取り組んでいる。
変わる岡山の商業施設
本施設のオープンに対抗するように近隣のイオンモール倉敷も15%増床し、10月にリニューアルオープンした。さらに、イオンモールは岡山駅近くに46,000m2の土地を取得し、早ければ13年中にも商業施設をオープンする計画である。また、11月には、岡山市郊外に店舗面積約19,600m2の複合型商業施設「西大寺グリーンテラス」がオープンするほか、天満屋岡山店も大幅増床を視野に施設のリニューアルを計画している。新たな商業施設のオープンは、岡山県内の商業施設を刺激し、大きな経済効果をもたらしていると言える。
今後は、お互いが競争しながら、魅力を高め、倉敷市内だけでなく、岡山市との間でも人が回遊する取り組みが求められる。商業施設が充実することが岡山の魅 力となり、広域から人々が集まる都市になることを期待したい。新たな魅力を備えた倉敷、岡山を一度訪れてみてはどうだろうか。
(國遠 知可)