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西日本レポート

【長崎県佐世保市】長崎県の観光中核施設ハウステンボス、その再生への取り組み

2012.02.01 西日本レポート

長崎県の観光中核施設ハウステンボス、その再生への取り組み

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今、九州は新幹線開業による観光客の増加など明るい話題が多くなっている。その中で今回は、長崎県の観光の核となっているハウステンボスの再生への取り組みをレポートする。

ハウステンボスの歴史

(1)開業から会社更生法申請まで

ハウステンボスはオランダ語で「森の家」を意味し、オランダの街並みや港町を再現したテーマパークである。長崎オランダ村の社長だった神近義邦氏が中心となり、環境に配慮した本物志向の長期滞在型リゾートを目指して1992年3月に開業した。投資額は2,250億円に上ったと言われる。
入場者数は、当初数年間は開業効果もあって堅調に推移したものの、1996年度の380万人をピークに減少に転じ、やがて、経営難に陥った。
メインバンクとしてハウステンボスを支えてきた日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)は、2000年と2001年に多額の債権放棄に応じ、辞任した神近社長の後任として、同行から2代続けて社長を送り込み、経費削減や地域密着の営業政策などを進めた。しかし、入場者数の減少や消費単価の低下に歯止めがかからず、2003年に会社更生法の適用を申請した。

(2)野村プリンシパル・ファイナンスの下での再建

その後、野村プリンシパル・ファイナンスが支援企業となり、2004年に会社更生計画の認可決定を受けて新体制での経営再建がスタートした。2006年度からは海外客誘致強化など積極路線の中期経営計画のもと、アミューズメント施設や外国人観光客向けのレストランなどを次々に開設したことが奏効し、2006年度は入場者数が10年ぶりに前年度を上回り、2007年度も引き続き海外客が増加するなど順調に再建が進んでいた。
しかし2008年、リーマン・ショックを機にハウステンボスを取り巻く環境が急転、世界同時不況やウォン安などの影響で、国内客とともに、韓国からの観光客を中心に入場者の2割を占めていた海外客が激減した。
海外戦略の強化が裏目に出たハウステンボスは、需要の落ち込みに対処するため、場内施設であるホテルデンハーグの休館や人員削減などの経営効率化策を実施するも、経営状態は改善せず、2009年、野村プリンシパル・ファイナンスは撤退を決めた。

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(3)エイチ・アイ・エスの下での再建へ

ハウステンボスが閉園するとなれば、長崎県への観光客誘致や雇用面などで地域経済に及ぼす影響が大きい。長崎県内の主要観光施設の中でも、ハウステンボスは入場者数で他の施設を大きく引き離しており、長崎観光の中核施設となっている。
また、ハウステンボスが立地する佐世保市の観光客数415万人のうち、41.5%の172万人がハウステンボスを訪れており(佐世保市観光統計2010年)、その存在は同市の観光の目玉となっている。
佐世保市は当初、九州経済界に支援を要請したが、運営ノウハウがないことなどから経営主体としての支援を行うことは難しいとの判断であった。次に期待が高 まった旅行業大手エイチ・アイ・エスも、老朽施設の修繕費負担が巨額になるおそれがあることなどを理由に交渉は難航していた。
佐世保市や長崎県 が、ハウステンボスが所有する港湾施設や下水処理施設の公有化や、固定資産税の実質的な免除などを行うこと、一方では、九州経済界が10億円程度の出資を 行うなどの支援策を固めたことにより、エイチ・アイ・エスは最終的に再建支援を引き受けることとなった。また、金融機関は債務の8割を放棄し、残りの債務 は出資金を使って返済、借入金ゼロの状態で経営再建が開始した。

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新生ハウステンボスの取り組み

新生ハウステンボスでは、持続的な発展を目指して以下のような取り組みを進めている。

(1)場内魅力の向上

ミュージカルやパレードを強化することなどにより、来場者が一日中ハウステンボスを楽しめるようにするとともに、季節ごとに新たなイベントを次々に打ち出した。
春には、場内がチューリップで彩られる「チューリップ祭」や、歌で聞いたことはあるが見たことはない100万本のバラが咲き誇る「バラ祭」を開催した。

花の王国「ローズカーペット」

花の王国「ローズカーペット」

子ども連れの家族や若者が多く来場する夏には、人気アニメ「ONE PIECE」のイベントや、夜もビール片手にショーを楽しめる「サマービート」、音楽に合わせた演出花火で世界一の花火師を決定する「世界花火師競技会」などを開催した。
来場者が減少する秋には、世界のトップガーデナーがガーデニングの技を競う「ガーデニングワールドカップ」を開催し、熟年層を中心に来場者数を大幅に増やした。
冬は、東洋一の規模を誇るイルミネーションで「光の王国」を開催。インターネット検索サイトYahoo ! JAPANによるイルミネーション人気投票で2年連続全国第1位となるなど評価は高く、カップルなどを中心に多くの来場者を集めた。
毎回同じイベントを同じように実施するのではなく、常に新しいことに挑戦しており、もはや、ハウステンボスは“一度行くだけでいい施設”ではなくなっている。

光の王国「光のアートガーデン」

光の王国「光のアートガーデン」

(2)経費の削減

ハウステンボスは敷地が広く、それだけ運営にかかるコストも大きい。そこで、敷地の3分 の1をフリーゾーン(入場料無料)とし、フリーゾーン部分の人件費や光熱費を削減し、その分を有料ゾーンに振り向けた。限られた経営資源を、広く薄くか ら、選択的に集中して投入することで、経費を削減するとともに、有料ゾーンににぎわいを取り戻した。
また、仕入れの見直しだけではなく、駐車場 の無人化やLED照明への切り替えなどを行うことで、売上原価や販売管理費を抑えた。エイチ・アイ・エスによる経営再建がスタートして初めての通年決算と なる2011年9月期で、1992年の開業以来、初めて営業黒字に転換した。

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(3)目指すは「観光ビジネス都市」

東京ディズニーリゾートなどと比べ商圏が小さいハウステンボスが今後も発展していくためには、観光客に加えてビジネス客などの獲得が重要である。そのため、フリーゾーンの施設にベンチャー企業などの誘致を図ることにより「観光ビジネス都市」を目指している。
これまでに、英語体験プログラムを提供するベンチャー企業や、健康ツーリズムを提供する“ホリスティックセンターTHE SOARA”の誘致、長崎短期大学英語科の一部移設などが実現している。

場内での英語体験プログラム「街頭英語」

場内での英語体験プログラム「街頭英語」

(4)長崎~上海航路

アジアからの集客拡大を企図して、HTBクルーズ(ハウステンボスの子会社)が長崎~上海航路の開設を進めている。同航路に就航する旅客船「オーシャンローズ号」は、シートにゆ とりを持たせるため、最大収容人数約1,700人を800人程度に改装した。そのためハイクラスのシートは航空機のファーストクラスよりも快適だという。
低価格旅客船「ローコスト・エンターテインメント・シップ」がコンセプトで、運賃は、早割が片道7,800円(定価9,800円、国際港湾利用料金など別 途5,400円、3月末まで)で、約26時間の船旅を楽しめるようエンターテインメント施設を充実させている。営業運航第1便は、本年2月29日に長崎港 を出港する予定である。

長崎~上海航路「オーシャンローズ号」

長崎~上海航路「オーシャンローズ号」

3度目の上海航路への期待

長崎~上海間の航路は、歴史的には今回が3度目となる。初めての定期航路は1923年に日華連絡船として開設されたが、太平洋戦争中に運航船が沈没し途絶えた。2度目は1994年に週1回往復の定期航路として復活したが、集客や集荷が伸びず1997年に廃止された。
3度目となる今回は、上海を中心に中国人の旅行ニーズがポストゴールデンルートへと成熟していく時期にあること、そして、成長する中国の消費需要を呼び込む有力なチャネルとなることから、地元では、上海航路への期待が高まっている。

持続的な発展に向け、様々な取り組みが進められているハウステンボス。一度行ったことがあるという方もそうではない方も、新生ハウステンボスを訪れてみてはいかがだろうか。

(越智 隆行)

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