愛南町、その名のとおり愛媛の南端に位置するこの町は、2004年に南宇和郡の旧5町村が合併し発足した。人口約2万2,000人を有し、西は宇和海、南は太平洋に面した自然に恵まれた町である。豊かな海は漁業を育み、マダイや真珠母貝などの養殖が盛んなほか、県内唯一のカツオの水揚地としても知られている。
その愛南町の中部、宇和海に突き出た西海半島にある「外泊」地区。この集落は城壁をほうふつとさせる石垣が特徴であることから、「石垣の里」と呼ばれている。
今回は「石垣の里」の知られざる魅力について紹介する。
「石垣の里」の誕生
江戸時代後期から明治にかけて造成された集落には約50軒の民家が建てられ、その住人は東に隣接する「中泊」地区の出身であった。
幕末にいわし漁が発展したことに伴い、中泊の人口は増加していた。そこで各家の次男や三男を募り、この地を開墾し移り住んだことで「石垣の里」は誕生した。集落を束ねる網元の家は海に近いところに建てられたが、網子の家はくじ引きでどこに建てるか決められたそうだ。集落の造成には十数年かかったとされ、1879(明治12)年に全戸の入居が完了した。
集落を守った"石垣"
石垣には膨大な数の石が使われているが、これらはすべて山を開拓する過程で掘り出されたものである。
石垣は大きく2層で形成され、下層部は住宅の基礎となっており、上層部は防風の役割を果たしている。外側の石と内側の石の間に「あんこ石」と呼ばれる小さな石を挟み込み、水はけをよくすることで石垣の決壊を防いだ。また仮に崩れても、隣の家に被害を与えないよう、若干内側に傾けて造られている。
ただ石垣は、開拓時に住人自らが自己流で造ったものであり、どのようにして築かれたのか詳しい資料は残っていない。ここからは「石垣の里」の各スポットを紹介する。
地域の守り神 「屋敷神様」
集落の入り口から歩いてすぐ左手の石垣の中に「屋敷神様」と呼ばれる神様がまつられている。実際にまつられているのは漁で網にかかった石であるが、この石は何度海に戻しても引き揚げられたため、神が宿っているとされたそうだ。
夫婦愛が垣間見える「遠見の窓」
「屋敷神様」のすぐ裏手にある家の石垣には、「遠見の窓」と呼ばれるくぼみが、台所の窓にあたる部分に設けられている。
家に光を取り込むだけでなく、家から海の様子が見られる造りとなっている。漁師である夫の帰りを待つ妻が、ここから夫の帰りを確認し、出迎えの準備をしていたと言われている。
段々畑の石垣 「シシ垣」
集落を見回すと、里全体を囲むように段々畑が広がっている。現在は山林化しているが、かつては山の中腹部まで芋や麦などが栽培されていた。
畑の周りには、イノシシが侵入して作物を荒らすことを防ぐために築かれた、「シシ垣」と呼ばれる石垣が今も残る。
お食事処 「石垣の里 だんだん館」
「石垣の里」の坂を南へ上り進めていくと「だんだん館」という施設が見えてくる。外観は外泊の民家を模したものであり、地元の新鮮な魚介類を使った定食を堪能できる。ドリンクメニューも用意されており、散策で疲れた体を休めるにはうってつけである。また館内では、晩年を外泊で過ごした版画家 海野 光弘氏の「石垣の里」を描いた作品を鑑賞できる。
所在地 | 南宇和郡愛南町外泊252 |
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TEL | 0895-82-0311 |
営業 | 8:30 ~ 17:00 |
定休日 | 火曜日 |
海上に築かれた「道越鼻の石垣」
「石垣の里」の入り口まで戻り、入り江に目を向けると、左手に沖に向かって延びる「道越鼻の石垣」が見える。この石垣は、入り江に吹き込む強風を防ぐため、海の上に築かれた。
春の風物詩 「 石垣の里 イルミネーション」
3月頭からゴールデンウィークにかけて、「石垣の里」は幻想的な光に包まれる。
「石垣の里 イルミネーション」は2009年にスタート。当初は冬の寒い時期の開催であったが、11年以降は観光客が多いこの時期に開催され、春の風物詩となっている。石垣をふち取るように明かりが灯される光景はロマンと情緒にあふれている。
来年の春は、ぜひ夜の外泊を訪れてみてはいかがだろうか。ノスタルジックな町並みと無数のライトが醸し出すムードは、見る者の心にも火を灯すことだろう。
「高茂岬」の絶景
「高茂岬」は愛媛の南西端に位置する岬であり、「石垣の里」から県道34号線を車で走ること約30分で到着する。
戦時中は海軍の衛所が置かれ、3棟の兵舎に約40名の兵士が勤務していた。
豊後水道に突き出た岬は高さ100メートルの断崖が続いており、高知の島々や九州山地を一望することができる。九州山地に沈む夕日はとりわけ絶景である。
おわりに
美しい海に面し豊かな山に囲まれた「石垣の里」。その町並みや自然の風景を眺め、旅情に浸っていると、思わず時を忘れてしまう。日々の喧騒から離れて癒しを感じたい人におすすめである。
石垣は150年以上もの間集落を守り続けてきた。
そこには日々の生活を送るうえでの先人の知恵と工夫が詰まっている。現在はボランティアなどの手で石垣の保存が進められているものの、御多分にもれず集落は過疎化・高齢化が進んでおり、石垣を修復する人材と費用が足りない状況である。後世に残すべき貴重な地域の資源として、「石垣の里」を守る気運がより一層高まることを期待したい。
渡辺 勇記
参考資料:
愛南町ホームページ
石垣の里ガイドマップ(愛南町観光協会)