「時代はモノ消費からコト消費へ」。そんな言葉を見聞きする機会が増えてきた。多くの人にとって、「島」は日常からかけ離れた「非日常感」が漂う魅力的な場所として、観光の選択対象にある。
上島町は愛媛の北東部、広島県境に位置し、瀬戸内海のほぼ中央に浮かぶ7つの有人島と18の無人島で構成される「全部離島」の町。2004年に弓削町・生名村・岩城村・魚島村の4町村が合併し誕生した。
今回は、島ごとに存在する歴史・文化・生活が醸し出す「非日常」を体験できるプログラムにスポットをあて紹介していく。
弓削島で藻塩づくり
弓削島では、古墳時代から塩づくりが行われていた。平安時代以降は、瀬戸内有数の製塩地として京都の東寺に塩を送り続けたことから、「弓削島荘」として知られる。
特定非営利活動法人「弓削の荘」では、一時は途絶えた塩づくりを復活させ、古代の製法を再現した体験ができる。手作りの土器を炭火にかけ、「かん水」と呼ばれる非常に濃度の高い海水を注いで煮詰めると、ものの数分で沸騰し、器の中に塩が析出される。
この塩をなめてみると、ほのかな甘さが広がり、古代に想いを馳せることができるマイルドな味わいだった。工房には事業用の製塩釜もあり、工程を見学することもできる。この釜で一度に取れる塩の量は限られているが、運が良ければピラミッド型の塩の結晶を見ることもできる。現在作っている販売用の塩は、普通の白い塩のほか、紅塩、あまも(海草)
塩、ひじき塩、こぶみかん塩の5種類で、「ここの塩を使うと、もう他の塩は使えない」と、買い付けに来るプロの料理家もいるそうだ。
藻塩づくり体験・見学
開催時期 | 「古代の塩」 通年 「揚げ浜式塩田」7〜8月 |
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時間 | 「古代の塩」 9:00~15:00 「揚げ浜式塩田」9:00~12:00 |
場所 | 「古代の塩」 明神(弓削島) 「揚げ浜式塩田」鎌田(同) |
定員 | 2~20名程度 |
参加料 | 1人1,000円 |
予約方法 | 電話 |
お問合せ | 0897-77-2232(しまでCafé) |
〜ちょっと一息〜しまでCafé
上島町のブランド豚「レモンポーク」のほか、弓削島で採れた新鮮な野菜や摘み菜、魚、海藻を堪能できるカフェ。ゆったり流れる島のひと時を満喫できる。弓削港にも近く、観光客やサイクリストの休憩所として好評だ。
所在地:越智郡上島町弓削下弓削830-1
電 話:0897-77-2232
営業時間:9:30〜18:00(L.O. 17:30)
定休日:火曜日
弓削島〜佐島〜生名島でポタリングカフェ
弓削島・佐島・生名島の3島は橋でつながっており、「ゆめしま海道」と呼ばれる。現在建設中の岩城橋が完成すると(2021年度完成予定)、岩城島を加えた4島が陸路でつながる。このゆめしま海道は、爽やかな海風を浴びながらサイクリングも楽しめるスポットだ。ポタリング(自転車散歩)をしながら景観の良い場所で珈琲を楽しむプログラムに参加し、ガイドさんと共にのんびり島の各地を回ってみた。
佐島には、サイクリストの間で話題のスポットがある。その名も「Uターンブルーライン」。ブルーラインとは、サイクリングコースを初めて利用する人も迷わないように、車道の左端に引かれる幅20cmの青い線のことで、目的地までの距離も示している。ところが、佐島には「来た道を戻れ」と言わんばかりのブルーラインが存在する。このUターンブルーラインは、数あるサイクリングコースの中でもここだけで、この珍しい場所を見ようという観光客も増えているそうだ。
ここをUターンした後、程近くにある海岸で自ら豆を挽いた珈琲を沸かし暖を取ったが、そこから眺める夕陽は時の流れを忘れさせてくれるものであった。このポタリングカフェ、通常は早朝に行われるものだが、今回訪れた夕方のように、ある程度プログラムは柔軟に組むことができるそうだ。
早朝ポタリングカフェ
開催時期:通年(年末年始以外)
時 間:6:00〜7:30
場 所:弓削島、佐島、生名島内
定 員:5名
参加料:1人1,000円
参加条件:自転車持参
予約方法:3日前までに電話で受付
お問合せ:0897-72-9075(Kitchen313 Kamiyuge)
kamiyuge313@gmail.com
~ちょっと一息~Kitchen 313 Kamiyuge
パンと自家焙煎珈琲豆のお店。ご主人は本業の書籍・雑誌編集者・珈琲焙煎士のかたわら、ポタリングカフェのガイドを務める。奥様がこのお店の店主。一番人気はもちもちのベーグル。手捏ね食パンとも数量限定。珈琲焙煎のワークショップも相談に応じ対応している。
所在地:越智郡上島町弓削上弓削313
(上弓削港から徒歩3分)
電 話:0897-72-9075
営業時間:11:00~15:30
定休日:月・水・金・日
魚島諸島に龍宮城?
弓削港から快速船で約50分の所に位置する魚島。そこからさらに南東に船を進めると、吉田磯と呼ばれるタイの最良の漁場がある。江戸時代、九州島津藩の御用船吉田丸が上納米を積んで江戸に向かう途中、この磯で沈没し、米を目当てにタイが集まってきたことから命名された。吉田磯のある上島町最南端の島、江ノ島。その南端には日本最古の昔話「浦
島太郎」の舞台となった龍宮城の入口があると言い伝えられている。
地元漁師さんの漁船に乗り込み出航。小さい船は海面も近く、波しぶき、潮の香りをすぐそばで感じられる。それ自体がアトラクション、とも言える船の旅を終え、江ノ島に到着。船で島の周りを回ると、そこだけ不思議に白っぽく浮かびあがる神秘的な場所があり、このあたりが龍宮城の入口になる。上陸すると岩の壁をつたって入口へ。懐中電灯を片手に、人ひとり歩けるくらいの細い道を10メートルほど進むと、畳10畳分ほどの空間が広がっていた。もしかすると浦島太郎はここで玉手箱を受け取ったのかもしれない。
龍宮城へようこそ
開催時期:通年(年末年始以外)
時 間:1時間程度 ※出発時間応相談
場 所:魚島地区、江ノ島
定 員:10名
参加料:チャーター船1台20,000円
※弓削、今治、尾道などへの迎え可
(料金要相談)
参加条件:龍宮城を信じていること
予約方法:電話で受付、事前予約必須
お問合せ:0897-78-0021(魚島村漁協)
おわりに
上島町には29の体験プログラムがあり(2017年11月時点)、今回紹介したのはほんの一部にすぎない。
アクティブなプログラムを選ぶもよし、文化的なプログラムを選ぶもよし、ただひたすらのんびりするもよし。島の自然や文化、人々との触れ合いを満喫するにはもってこいのコンテンツであった。
しかし、これらを1日で体験するには限界がある。
県外旅行や海外旅行もいいが、たまには「県内旅行」で非日常を体験し、日々の疲れを癒す旅にするのもおススメである。
(福田 泰三)